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青薔薇の花泥棒 二十話「絡繰りと古城」

 何事も無く無事に朝を迎えた。

 朝食や装備の確認などを終わらせて古城へ向かう。

 城に近付くにつれて周りの木々が増えていく。昨日の森よりは数は少ないが地面に張った根の所為で歩きづらい。まぁ崖などが無いだけマシか。

「城の中ってどうなってんだろうな? 俺ら三人で今日中に調べ切れっかな?」

「詳しいことは入ってみないと分からないな。ただ、城の大きさから察するに、時間はかなり掛かるだろうな。流石に今日中には終わると思うが」

「だよなぁ。何処の部屋にあるとかのヒントは古文書に載ってなかったし、城に隠し部屋のヒントがあるかどうかも分からねぇ。手当たり次第部屋を調べるしか方法が無えな」

「いや、探索するべき部屋の優先順位くらいは付けられると思うよ。城塔みたいな防御施設とか、使用人や兵士が使う部屋とか、そう言った場所にある可能性は低いだろうから後回しにしていいと思う。絶対に盗られてはいけない物を保管している場所に続く入口を、人通りが激しい場所に作るとは考えられないし」

「そうだな。となると優先するべきは、王と王妃の寝室と王室専用礼拝室あたりだな。他にあるとしたら、執務室、書斎、それと謁見の間が候補として挙げられるか?」

 候補を声に出してみると意外と少ないことが分かった。この中の何処かにあれば、短時間で探索は終わりそうだ。十五時くらいには此処を離れられるだろう。

 城の居住区に近付いてきた。玄関の扉には、時の白百合に似た花が刻まれている、家紋だろうか。

 ひび割れなどに注目してみたところ、城の傷み具合は城下町の建物より軽いみたいだ。探索している最中に崩れるなどという心配をせずに済みそうだ。

「何処から調べてみる? やっぱり主寝室から?」

「あぁ。隠し扉その物が無くてもそれに繋がる手掛かりはあるだろう」

「じゃあ早速そこに行ってみようぜ。って言っても間取りが無えから、何処が何の部屋か分かんねぇな。一階から部屋のドア片っ端から開けていく感じか? で、ベッドが一番でっかい部屋を見つけたら、そこに入って調べる」

「まぁ、そうするしか無いよね」

「そうだな」

 玄関の扉を押して中に入ると大きな階段が視界のど真ん中に入った。

 途中の踊り場で階段は左右二方向に分岐している。それらに挟まれるように枯れた噴水が配置されている。

 城のあちらこちらに繊細な装飾が施されており、一目見るだけで美しさが伝わる。全く劣化していない頃はどれほどの物だったのだろうか。

 階段の脇を抜けて一階の扉を次々開けていく。リビングや食堂などといった、多くの人と使用する部屋が主だ。主寝室は今のところ見当たらない。

 ベッドがある部屋もあったが無地で質素なシングルベッドであったことから、使用人の控え室だと推察される。

 一階には無いようだ。エントランスの階段から二階に移動する。

 階段を上ってすぐのところに三メートル程の両開きの扉が佇んでいる。

 謁見の間だろう、これは後回しにして廊下を歩いていく。

 二階には音楽室や娯楽室などがあるようだ。

 ある部屋を覗いてみるとベッドが置いてあった。

 一階の物と全く違う、雲泥の差である。サイズはセミダブル、毛布には花の刺繍がちりばめられている。さらには天蓋も設置されている。

 二階のベッドがある部屋は何処もそんな感じだ。しかし小さな差異が各部屋に存在した。

 天蓋や壁に時の白百合の紋様が彫られた家具がある部屋と無い部屋があった。

 時の白百合が王家の紋章だと仮定すると、これがある部屋は王子や王女の個室、無い部屋は賓客用の寝室だと考えられる。

 この階にも主寝室らしき部屋は無かった。三階へ続く螺旋階段を上っていく。

 三階の部屋数は下二階より少ない。早く調べ終わりそうだ。

 階段すぐ側の両開きの扉を開けてみる。

 視界の左端にベッドの足が入り込んでいる。中に足を踏み入れるとそのベッドがキングサイズであることが分かった。また、ベッドは他の部屋の物より一際豪華だ。

 壁には時の白百合の紋章、この部屋が王の寝室だろう。

「此処っぽいな。隈無く調べてみようぜ」

 その言葉に頷いて、壁や家具、床に触れていく。

 二人と協力して家具を退かし床と壁を叩く。何処かが外れたり、落ちたりする様子は無い。

 三十分程経った。見つかった隠し扉や仕掛けの類いはたった一つだ。

 本棚の裏にあった二十五マスのスライドパズル。これを解けば次の謎解きにいけるのだろうか?

 パズルの絵柄を揃えると壁が横にずれた。その先には階段があるが、暗闇で進みづらそうだ。

「これで大丈夫だよ」

 リュビスが火を付けたカンテラを俺に差し出す。

 各々カンテラで足下を照らしながら降りていく。

 長い石造りの階段。途中に扉などは見当たらない。ただただ下に続いている。

 行き止まりか。

 周りの壁を撫でていくと石より柔らかい素材の何かに触れた。

 照らしてみると木製のレバーが姿を現わした。

 埃は被っているが腐ってはいない、問題無く動かせそうだ。

 下ろしてみると目の前の壁が音を立てながら右にスライドしていく。壁が避けたことで光が入り込んでくる。

 目の前では木々が茂っている。この階段は緊急脱出経路だったようだ。

 一応外の壁を次々押してみる。しかし特に何も起こらない。

「この仕掛けはハズレだな。戻って別の部屋を調べてみようぜ」

「あぁ。次の有力候補、礼拝室を探してみるか」

 来た道を引き返していく。

 礼拝室は主寝室と同等以上の広さだろう。このことから礼拝室の入口の扉は両開きであると考えられる。片開きの扉を無視して両開きの扉を探していく。

 あった。ドアノブを捻り、中に足を踏み入れる。

 真正面のステンドグラスの窓から入る光に照らされながら、等身大の白い女神像が祈りを捧げている。女神像の足下には細長い青いカーペットが敷かれており、それは入口まで伸びている。カーペットの左右には長椅子が六脚ずつ並んでいる。

 この部屋で間違いなさそうだ、早速調べてみよう。

 像から数歩左に離れたところには本棚、数歩右に離れたところには布で覆われた何かがある。

 両隣の壁は薄汚れた白いカーテンで隠されている。何かあるとしたら此処だろう。

 リュビスは本棚、サフィールは謎の物体の方に向かった。

 カーテンを端に退かすと、壁に何かの文字が彫られているのが分かった。

 数字のようだ。これの丁度真横に長椅子がある。

 十二脚の椅子に何か仕掛けがあって、それを順に弄ると隠し部屋への入口が開くのだろう。

 次に椅子を調べてみる。肘掛けの下が白薔薇と青いリボンで装飾されている。薔薇は全く枯れていない、恐らく造花だろう。

 薔薇とリボンを掻き分けてみると鍵穴が現れた、大きさは一センチくらいだ。

 次は鍵を探すか。

「あー! やっちまったぁ!」

 思わず耳を塞いだ。サフィールの叫び声が耳を劈きそうな音量で響き渡る。

「どうした。一体何をしたんだ」

 彼の元に歩いていく。リュビスも本を何冊か抱えたままやってくる。

 震えている彼の指が示す物に視線を移す。

 白と黒の鍵盤、布の下にあったのはオルガンだったのか。

 鍵盤そのものではなくその上を指しているようだ。

 オルガンに取り付けられた譜面台、それのページストッパーが片方無くなっている。左側のストッパーを外してしまったようだ。

「譜面台、壊したのか」

「いや、その、ちょっと軽く触っただけなんだけどよぉ。何か、取れちまって」

 彼は握っていた右手を開き、外れたストッパーを見せる。

 ストッパーの譜面台にくっついていた部分は菱形で、その角の内の一つに細い棒が刺さったような形だ。棒の先端は凸凹している。

 一言で表すなら鍵のような形だ。凸凹の高さは約一センチ、長椅子の鍵穴に差し込めそうだ。

 裏返しにする。菱形の中央に突起が付いている。折れた形跡は見当たらない。

 譜面台の方を調べてみる。右のストッパーは左とは異なり、先端が針のように尖っている。

 左のストッパーがあった部分には小さな穴が空いている。此処に嵌め込まれていたのだろう。

 右側を弄ってみる。取れたり折れたりする様子は無い。左だけが取り外し可能になっている。

 恐らくこれは巨大金庫へ続く謎解き部屋の入口を開ける為の鍵だ、オルガンに隠してあったのか。

「少し貸してくれ、もしかしたら入口が見つかるかもしれない」

「マジか!」

 探索で得られた情報を二人に共有し、鍵穴のところへ戻る。

 これがダミーでなければいいが。発見されやすい場所にあったため、その可能性を否定できない。

 鍵穴に鍵を入れる。引っかかること無く奥までいった。回してみると音が鳴った。

 手応えがあることからこれは本物のようだ。

 順に開錠していく。

 十二番目の鍵を開けると、歯車が噛み合うような音が鳴り始めた。その次には地響き。

 音源の方に振り向くと女神像が右にズレていた。彼女が立っていた場所には下へ続く階段がある。

「おぉ! これで次に進めるな」

「あ、おい、ちょっと待て」

 俺の言葉など何処吹く風、一目散に降りていく。

 防具などの準備は万端にしてきたつもりだが、見知らぬ場所を無闇に歩くのはやはり危険だ。

 一応、悲鳴などは聞こえていないから怪我などはしていないと思うが。

 リュビスと一緒に追いかける。

 階段はそれほど長くなくすぐ下の部屋に辿り着いた。

 扉の前でサフィールが何やら唸っている。

 近寄ってみる。赤い宝石と青い宝石を正しい場所に入れ替えるパズルが、扉の右横の壁に埋まっている。宝石の交換を邪魔するブロックを彼は無闇矢鱈に動かしている。

「アメティス、これどうやって解くんだ?」

「これはだな――」

 横で説明していく。数分後に入れ替えが終わり、ロックが解除される音がした。

 次の部屋に入る。

 扉の横には幾つもの歯車、壁の仕掛けに嵌め込まれた物と台に置かれた物がある。

 次の謎解きはこれか。

 一番左端の歯車が右回転になっている所為で扉が閉まっているらしい。仕掛けに使われている歯車は十七個、奇数だ。左回転にするには、歯車の数が偶数になるよう組み立て直す必要がある。

 歯車を外したり嵌めたりを繰り返す。

 正しい配置になったようだ、扉がスライドする。先へ進んでいく。

 虫食い算や魔方陣、魔法が掛けられた特殊な紐の配線や論理パズルなど、様々な問題を解いていった。制限時間や一発勝負のプレッシャーにもどうにか耐えた。

 そうして最後の部屋に辿り着いた。

 俺の背丈ほどもある鉄の箱。それに様々な謎が飾りのように組み込まれている。

 箱の中央には時計、制限時間を示している。時間は二十分程か。

「これは手分けしてやるべきだな」

「そうか! じゃ、俺は配線やるわ。さっきのでコツは掴んだ!」

「私は論理パズルと歯車、赤と紫の宝石入れ替えパズルをやるよ。アメティスは残りをお願い」

「あぁ、任せろ」

 二人とも自分の担当に取りかかる。

 残りは魔方陣と虫食い算、青と黒の宝石入れ替えパズルだ。

 まずは魔方陣。九マスのパネル、さっき解いた二十五マスよりマシだな。

 一から九の数字の合計は五十五。五を中央のマスに配置する。残りの数字で十になる組み合わせを作る。あとは各ラインの和が十五になるように調節しながらパネルを嵌めていく。

 よし、これで解けた。

 次は入れ替えパズル。正方形のブロックが二種、長方形のブロックが一種。複雑な形のブロックは無い、女神像の中にあった物より簡単そうだ。

 少し動かすだけで入れ替わった。

 最後、虫食い算。割り算の筆算に数字を入れるのか、さっきの符号を入れるだけのものより難しくなっている。数字は幾つか既に決まっているから孤独のnでないだけマシか。

 余りの数から割る数の候補を考える。計算過程で出てきた余りは三と七、割る数に嵌められるパネルは一つ。よって候補は八と九になる。

 一番下の数字は三、その上の数字は十の位が不明で一の位が零だ。さらにその上の数字、十の位は不明で一の位は三だ。下から二番目の数字が偶数であることから割る数は八であることが分かる。よって下から二番目の数は四十、下から三番目は四十三となる。商の一の位は五だ。

 このような思考を繰り返して数字を埋めていく。

 よし、完成だ。これで俺の担当は全て終わった。

 残り時間はあと八分か。

 リュビスは既に解き終わっており、サフィールの手伝いをしている。

 進捗を確認したところ、もう少しで配線が完了しそうだ。

「できた!」

 彼の声が部屋中に響いた後、金属が軋む音が続いた。不快感のあまり耳を塞ぐ。

 重い物が落ちるような音と共に金庫の扉が動き始めた。正解できたようだ。

 中には手鏡ではなく、赤黒い箱が置いてあった。縦が二十センチ、横が三十センチ、高さが十センチくらいの箱だ。天面には赤く光る狼の模様が浮かんでいる。模様の周りや側面には様々な絵や文字が彫られている。手に取ってみる、ワイン瓶一本くらいの重さだ。

「その箱に手鏡が入っているの?」

「あぁ、多分な」

 箱を傾けると中身が滑り側面に当たった。中身はちゃんと入っているようだ。

 蓋のような部品や鍵穴は無い。各面に切れ目が一つも見当たらない。面をずらして開けることができないため、絡繰り箱でもないようだ。

「どうかしたの?」

「いや、箱を開ける仕掛けが分からなくてな」

「成程。ねぇ、私にも見せて。何か気付くかもしれないから」

「あぁ、いいぞ」

 彼女に箱を手渡す。

 箱と彼女の指先が触れ合った瞬間、模様の光が強くなった。

 光は徐々に強さを増していく。周囲を明るく照らしていく。最後には目を開けていられないほどの輝きを放つようになった。

「アメティス、これ」

 光が落ち着いたため、目を開けて彼女が示す物を確認する。

 箱が絡繰りを解いた後のような姿になっている。

 天面がズレたことで、人の顔ほどの大きさの手鏡の姿が露わになった。銀製で鏡面の周りには薔薇やレースのようなレリーフが彫られている。後ろには狼の模様が付いている。

「宝具、だな。恐らくお前、花嫁が手に取らないと開かない箱だったんだろう。なかなか面倒なセキュリティだ」

「それだけ悪用されたり、壊されたりするとマズい物ってことなんだよ。兎に角、宝具が回収できてよかった」

「だな! 目的の宝具は手に入ったし、さっさと此処を出ようぜ」

 サフィールは出口の方に振り返り歩いていく。

 一方、リュビスは動かない。空になった箱を見つめながら何やら考え込んでいる。

 少しすると目を見開いた。

「どうかしたのか?」

「思い出したの」

「何をだ?」

 サフィールが戻ってきた。

「ほら、アメティスがアイツらのアジトに潜入した日の次の日の朝に、暗い場所で赤く光る何かを結構前に街の何処かで見た気がするって言ったでしょ。それが何なのか、何処にあったのか、今ので全部分かったの」

「目にしたのはこの箱だったのか?」

「そうだよ。サイズはこれより大きかったけど、模様や装飾、色は全部同じだった。それが展示されていた場所はフリュロヴァイス博物館、多分そこ」

「成程。近いうちに調べてみよう、それが事実か確かめる為にもな」

「うん」

 手鏡だけでなく新たな情報も手に入った。大きな収穫だ。

 目的を達成したため、手掛かりとなりそうな古文書を回収して此処から離れた。

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