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青薔薇の花泥棒 十五話「第二の謎」

 第一の部屋と第二の部屋を繋ぐ廊下を歩いて行く。

 入口と第一の部屋の間にある廊下と同様に、ここには明かり以外の無駄な家具や変な出っ張りなど、身を隠せるような場所は無い。

 ここでは奴らとの戦闘の可能性を考える必要は無さそうだ。

 気を緩めるのは危険だが、張りすぎても無駄に精神を疲弊させる。

 ここから先が大変なことを考慮すると、今のうちに休んだ方が良いな。

「十分くらい休憩するか」

「うん」

 二人で床に座り込んだ。足を伸ばし、壁に寄りかかる。

 身体から一気に力が抜ける。死と隣り合わせの状況は身体を酷く緊張させる。

 時間制限無し、かつ一時中断が許される第一の謎でもこれだけ精神が摩耗する。第二、第三の謎では心に余裕を持てないかもしれない。

 リュビスは大丈夫だろうか。視線を彼女の方に向ける。

 少し顔色が青白い気がする。恐らく俺も同じような感じだろう。

「大丈夫か? 此処で残ってても良いんだぞ」

「いや、一緒に行く。二人で協力すれば部屋の探索も謎解きも早くできる、制限時間を考えたらそっちの方が良いでしょ。それに、この廊下がずっと安全って保障も無いから」

 確かにそうだ。

 万が一奴らがサフィールを倒して女神像内部に侵入した場合、彼女は一人で奴らと対面することになる。この空間では魔法が使えない、つまり彼女に自衛する手段が無い。

 その万一が起きてしまえば最悪なことになる。

 何故残っていても良いなんて馬鹿なことを訊いた、置いていっても危険なことは変わりないのに。

 やはり少し疲れているのかもしれない。

「大丈夫、私は平気だよ。二人で生きて此処を出よう、勿論紅い月の雫を手に入れてね」

「……あぁ」

 何というか、俺よりずっと頼もしいな。真っ直ぐな声が、その言葉が俺を勇気づける。

 俺もそれができるほど強ければ、不安がらせることも無いだろうに。

 あぁまずい、このままだと思考が暗くなっていく一方だ。

 荷物が詰まった鞄から水筒を取り出し紅茶を一口啜る。身体が少し温まった。

 水筒からは湯気が立ち上っている、保温がかなり効いているな。

 この温度なら、最後の部屋の冷気も暫く凌げるだろう。

 大学生活についてなど、他愛ない会話をしている内に時間が過ぎた。

「そろそろ進むか」

「うん」

 立ち上がり再び廊下を歩いていく。

 数分後、扉が見えてきた。これを開ければ第二の謎解きが始まる。

 石造りの扉には文が三行刻まれている。

「これ、謎解きのヒントかな?」

「さぁ、訳してみないことには何とも言えないな」

 辞書を取り出し翻訳していく。

「『仲間外れの宝石を炎と共に捧げよ』か、これはこの部屋の謎解きについての説明だな。その下には『陽光が常に真実を照らすとは限らない、時に隠すこともある』、最後の行は『壁、床、宝石を傷付けてはいけない、それ以外は好きにしていい』と書いてある。真ん中はヒント、最後は注意事項だな」

「『それ以外は好きにしていい』か。なんでわざわざこんな文載せてるんだろう。謎を解く為に何かを傷付ける必要があるってことかな?」

「まだ分からない、ただの警告ではなさそうだが」

 壊してはいけない物が何か伝えるだけなら、『壁、床、宝石を傷付けてはいけない』、この部分だけで良い筈だ。より分かりやすくする為にこの文を付け足した可能性もあるが。

「ヒントを読んでみたところ、判別方法に光は必要みたいだな。少なくとも天秤は部屋に無さそうだ。まぁ、入ってみないことには詳細は分からないが」

「そうだね。取り敢えず、今のうちに判別方法とそれを使った時宝石がどうなるかについてのページ確認しておこう。中に入ったら一分一秒が惜しいから」

「あぁ」

 緑の宝石の特徴や判別方法を纏めたノートを開く。間違ったところが無いかを確認する為、宝石図鑑も取り出す。

 判別手順のページに目を通す。

 古文書を調べた後に何度か読んだため、内容はある程度覚えている。ただ曖昧な部分があるといけない、入る前に全て暗記しなければ。

 部屋の中で本を何度も読み返していたら貴重な時間が削れていく。それは避けたい。

 宝石の特徴も頭に叩き込んでいく。宝石の変色性や屈折率など。

 錬金術の授業などで習ったことも幾つかある。サクトゥリヒ・シュテラ文明が衰退する前から存在した可能性がある緑の宝石と種類は絞れる。記憶するだけなら難しくない。

 ただ時間制限のある中、情報をきちんと引き出せるかが問題だ。

「アメティス、どう? 大丈夫そう?」

 本との睨めっこが終わりそうなタイミングでリュビスが話し掛けてきた。彼女の方は情報を整理し終えたようだ。

「あぁ。こっちも必要なことは確認できた」

 本を鞄に戻して、一度深呼吸する。

 扉に触れる。彼女も扉をじっと見つめる。

「覚悟はいいか?」

「うん」

「それじゃあ、いくぞ」

 扉を横にずらして足を踏み入れた。

 入口のすぐ近くに台があるのが映った。台の上には砂時計が置かれている。ガラスの容器に入れられた砂は青く光り輝いている。

 砂時計がある台の奥には、緑色の何かが置かれた机と扉がある。

 向こうの扉の前には白骨化した遺体が二人分転がっている。謎解きに失敗した末路か。毒で苦しみ、大切な存在の元にも戻れずこの部屋に閉じ込められたままか。さぞ無念だっただろう。

 リュビスが部屋に入った。俺の背丈のお陰か、遺体はまだ視界に入っていないようだ。

 数秒後、地鳴りに似た音が響いた。同時に目の前の砂時計がひっくり返り、砂が落ち始めた。

 砂時計の大きさから判断するに、制限時間は最低でも一時間くらいか。

「時間が無い、早速探索するぞ」

「うん」

「それと、白骨遺体が出口の前にある。その、なんだ、腹を括っておいてくれ」

 位置の問題で見ることは避けられない。

 せめてこの忠告で心に受ける傷が少しでも減ってくれれば、そう願うしかない。

「……分かった」

 彼女は顔をさらに引き締めながら返事をして、謎解きの手掛かりを探しに行った。

 左側にはブックビューローと椅子と本棚、右側にはクローゼットとベッドが並んでいる。

 本棚は二台あり、全ての段に本が隙間無く詰まっている。

 ヒントが隠されている可能性が高いが今調べるのは止めておいた方がいいだろう。

 全ての本を取り出し、本の間や中にヒントの紙があるかを確認した後、さらに翻訳する。制限時間内にこの一連の作業を終わらせるのは不可能に近い。もっと絞ってからでなければ。

 リュビスはブックビューローの扉や引き出しを開け始めた。

 壁の四隅には窪みがあり、その中で透明な宝石が光を放っている。

 ヒントのこともある、これを調べてみるか。

 入口右側の宝石に近付く。宝石の種類は廊下にあった物と同じだ。

 名前は確か天道石。先程図鑑を確認した時そのページが一瞬映ったため、朧気だが思い出せた。

 その名の通り太陽と同じ光を発する石だ。ヒントにあった陽光とはこれのことだろう。

 宝石の下には円盤がある。縁に一から十二の数字が刻まれている。六の下に太陽、十二の下に月の模様がある。

 時計のようだが針が無い。数字も十二ではなく六が真上に来ている。

 文字盤を指で押してみるが回転する気配は無い。

 この周りをもう少し調査してみるか。

 この部屋の壁は切石積みである。幾つもの長方形のどれかに何かが隠されているかもしれない。

 時計の周りの石を軽く押してみる。円盤の下の石が少し動いた。

 取り外してみると二つの小さな穴が現れた。穴の中央には細長い鉄の突起がある。穴が小さすぎて指で突起を弄ることはできない。

 他の石は退かせない。別の手掛かりを何処かから見つけなければならないようだ。

 他三つの明かりの下にも同様の時計と穴がある。

 部屋の四隅から得られた情報はこれくらいか。

 リュビスがまだ手を付けていない部屋の右側へ向かう。

 まずはクローゼットを開ける。下に作業用手袋が乱雑に放り込まれているだけで、他の衣類や物はしまわれていない。

 次にベッド。枕の側に真っ黒な箱が転がっているのが映った。

 箱は木製のようだ。振ってみるとカラカラと何かが木に当たる音がする。

 止め金具などは付いていない。また絡繰り箱だろうか。

 側面を押したり叩いたりしても面がずれる様子は無い。

 近付けてよく観察してみる。蓋はあるが何かがくっついている所為で外せない。

 力を込めて引き剥がそうと試みるが無理だった。

 ナイフを隙間に突っ込んでみても蓋は離れない。

 中身が何か明らかにするにはこの開かずの箱をどうにかしなければならない。

 今は手掛かりが少ない、箱は一旦放置だ。

 毛布やシーツの下に異変は見当たらない。

 ベッドの下を覗き込む。何かある。

 手元にたぐり寄せる。その何かと床の間にある小石や砂利の擦れる音が耳に入る。

 所々錆び付いた銅の容器一つと、鉄製の長い棒二本の姿が取り出せた。

 容器には赤い魔法石が嵌め込まれている。

 蓋も付いておりこちらは取り外せる。中には消し炭が少し入っている。火消し壺のようだ。

 鉄の棒は俺の前腕くらいの長さだ。太さは右から左に向かうにつれて徐々に細くなっている。右端が鉛筆、左端がネジの先くらいだ。

 この棒を穴に差し込むのか? いや無理だ、突起が邪魔で入らない。

 此処で得られたのはこれくらいか。用途はまだ不明だが一応全部持っていこう。

 次は出口の扉周辺だな。

 リュビスが扉やその周りを叩いている。

 そっちは彼女に任せて、すぐ近くの机を調べる。

 机には親指程の大きさの緑の宝石が五つ置かれている。机の右上には何か文字が刻まれている。

 懐から辞書を取り出す。

「あ、その文章なんだけど、『仲間外れの宝石を嵌め、その下に火を置け』って書いてあると思う、辞書で確認したわけじゃないから間違ってるかもだけど」

 俺に気付いたのかリュビスがこちらに来ていた。

 辞書を懐から取り出して翻訳する。

「大丈夫、間違いは無い」

「よかった」

「扉とかを叩いてたのはこれを読んだからか?」

「うん、嵌める穴が石で隠されてると思って。でも何処にも変なところは無かったよ。やっぱり仕掛けを解かないと駄目みたい」

「まぁそうだろうな。取り敢えず、一度情報を共有しないか?」

「うん」

 今まで見つけた物をリュビスに説明した。

「そっか。その箱、開ける方法はまだ分からないんだ。絡繰りも鍵穴も無いんだよね?」

「あぁ。開ける為の手掛かりはこっちには無かった。そっちで何か手に入れてないか?」

「ブックビューローにあったのは、手燭、蝋燭、黒い紙、水晶玉くらいだったよ。黒い紙には何か書かれてるみたい。多分『光は火に変わる』って意味だと思うんだけど」

 黒い紙の上にある白い文字と辞書を見比べる。彼女の訳で合っているようだ。

「成程。そっちの収穫はそんな感じか」

 水晶玉と黒い紙か。この二つがあれば蝋燭に火を付けられるな。

 これで火を起こせば箱を燃やせる。それで中身を取り出せる。

 箱を壊すことは禁止されていないから問題無い筈だ。

 砂時計のおよそ三分の一が既に落ちている。急がなければ。

「リュビス、水晶玉と紙を持ってこっちに来てくれないか? 試したいことがある」

「分かった」

 入口右側の宝石の前まで移動する。壺を置いて蓋を外した後、手袋を嵌める。

「はい、これ」

 俺が要求する前に彼女は黒い紙を差し出した。

「ありがとう」

「箱を紙で包み終わったら言って。水晶玉の位置を調節するから」

「了解」

 リュビスも箱の開け方が分かっているようだ。流石だ。

 手燭には蝋燭が固定されている。こちらの準備が終わればいつでも火を付けられる状態だ。

 紙を箱に手早く巻き付けて、二本の鉄の棒で挟んで持ち上げる。

 箱が小さいお陰か、楽に掴める。

「準備ができた。頼む」

「任せて」

 彼女は箱の前で虫眼鏡を近付けたり遠ざけたりした後、手を動かすのを止めた。黒い紙の上に小さな白い丸ができている。焦点が見つかったようだ。

 光を焦点に集めて一分ほど経つと煙が立ち始めた。

 あとは炎が出るのを待つだけだが、この時間が早く過ぎないかと歯痒くなってくる。

 収斂火災で発火が起こるまでの時間は最速で五分くらいだろう。この箱の素材次第では二十分、いやそれ以上掛かるかもしれない。

 普段なら大したことないが、制限時間がある今は一分一秒が惜しい。

 この箱の中身を取り出した後もまだ何か謎解きが残されているかもしれない。それが幾つあるのか、解くのにどれくらい時間が掛かるのか、まだ分からない。

 もしかしたら何処かに火打ち石など、これより短い時間で火を付けられる道具が隠されているんじゃないかと考えてしまう。

 しかし、他の道具の在処を示す手掛かりは手に入らなかった。

 この方法を止めて今から闇雲に別の方法を探しにいくのはかなりリスキーだ。

 ただこの方法が正解だと信じて続けるしか無い。

 箱が焦げていくのをただただ見つめる。

 煙が徐々に大きくなっていく。焦げの面積も広がってきた。

 砂時計を何度も横目で確認しながらこの時間を耐える。

 砂が残り半分ほどになったところで小さな火が現れた。

 まだ大丈夫だ、余裕はある。

 そう言い聞かせて大きく脈打つ心臓を落ち着かせる。

 火はたちまち広がり、俺の拳と同じくらいの大きさになった。

 リュビスは水晶玉を箱に当てたまま蝋燭を近付ける。小さな火の塊が蝋燭の一番上に移った。

 火は確保できた、あとは箱に穴が開くの待つだけだ。

 小さな破片が火消し壺の中に落ちた。

 幾つも幾つも壺の中に吸い込まれていく。

 箱の角が一つ消えた。これだけ風穴が開いてれば取り出せるだろう。

「もう水晶下ろして平気そう?」

「あぁ」

 箱を火消し壺の消し炭の上に置いた。瞬きする間に沈火していた。魔法石の効果か。

 穴に棒を突っ込み中身が見えるようひっくり返す。

 入っていたのはネジ巻き二つ、一つを棒で摘まむ。

 右手の手袋を外し、その手をネジにかざしてみる。熱気は感じない、触っても大丈夫そうだ。

 掌にネジ巻きを乗せる。

 この大きさ、天道石の下の仕掛けの穴に嵌まりそうだ。

 仕掛けの突起にネジ巻き二つを差し込む。ピッタリだ。

 右のネジ巻きを一度回してみる。文字盤が反時計回りに動き出した。同時に窪みの上から石版が降りてきた。宝石が放つ光が少しずつ遮られていく。

 真上に来る数字が六から十になった時石版が止まった。高さ十センチ程の隙間から光が漏れている。当然だか辺りが薄暗くなった。

 左のネジ巻きもねじる。文字盤が右に回転する。石版が上にずれて光が戻っていく。

 五が真上になるとまた石版は停止した。

「この二つのネジ巻きで光量を調節するみたい。入口の文章、『陽光が常に真実を照らすとは限らない、時に隠すこともある』、あれはこの謎に関するヒントだったんだ」

「そうだな。多分あの文は、今の明るい状況では見える物が見えなくなっているということを表しているのだろう」

「つまり部屋を暗闇にすれば隠された物が明らかになる、そういうことでしょ?」

「あぁ、その通りだ」

 恐らく文字盤の十二が真上になれば窪みは塞がる。右を回せば四増加し、左なら五減少する。あと数回巻いて増加量が六になるよう調節する必要がある。

 右を巻く回数をx、左をyとする。4x-5y=6、x=4、y=2。

 右をあと三回、左をあと一回捻った。

 これで此処の宝石の光は完全に遮断された。

「よし。他の三つも解きにいく、付いてきてくれ」

「うん」

 他の窪みの前でも同様に仕掛けを動かしていく。作業を進めるにつれて闇が濃くなる。

 最後の一つを弄っている頃には、まともに映る物が蝋燭の火と砂時計くらいになっていた。

 リュビスに手元を照らしてもらいながらどうにか終わらせた。

 暗闇の中、出口の方から石同士が擦れる音がした。

 視線をそちらに向けると、扉の右隣に発光する謎の紋様が浮かんでいる。

 紋様が刻まれた部分の石が飛び出した。縦横無尽に宙を舞った後、床に落ちた。

 これにより新たな窪みが現れた。

「あれ、もしかしたら宝石を嵌める穴があるかも」

「早速調べるぞ」

 砂はもう四分の一しか残っていない。

 窪みに触れ指でなぞっていく。

 上の方にさらに小さなへこみがある。俺の親指がそこにピッタリ収まった。

「宝石と同じくらいの大きさのへこみがある。間違い無いようだ」

「じゃあ、あとは一つだけ違う宝石を見つけるだけだね」

 彼女は机の方に振り返り、足を数歩踏み出した。

 宝石が炎の側で輝いている。

 一箇所だけ暗闇になる前の机の状態と異なる点がある。

 左から二番目の宝石だけが赤紫に変わっていた。

 成程。アレキサンドライド、もしくはカラーチェンジ・ガーネットあたりが紛れ込んでいたのか。

「これだ」

 彼女は宝石を掴み即座にへこみに嵌めた。そしてその下に手燭を置いた。

 ガチャリと音がした。その後は静寂に包まれる。

 蝋燭の薄明かりの中でリュビスが息を飲んだのが映った。

 左側から光が差し込んできた。光は徐々に大きくなる。扉が開いたようだ。

「よかった、先に進めるよ」

「あぁ」

 外に出ると緊張が一気に緩んだ。廊下にいる間は何も気にしなくて良いから助かる。

 仕掛けや謎解き云々より箱が燃えるのを待つ時間が一番肝を冷やした。

 早く火が付いてくれたから良かったもののそうでなければ――。

 背筋が凍る。

 兎に角、無事脱出できてよかった。

 リュビスの方を向く。彼女はさっきの部屋をじっと見つめている。

「どうかしたか?」

「あ、いや。あそこのご遺体、此処から外に運び出せないかなって。毒で苦しんで、さらに何百年も閉じ込められて可哀想で。せめて埋葬くらいはしたいの」

「そうだな、全て終わった後ちゃんと弔おう。今はまだやるべきことが残ってる。それに俺達だけでは無傷で遺体を運ぶのも埋めるのもとてもじゃないが難しいからな」

「うん、皆が帰ってきてからだね」

 ただ搬送するだけなら俺達だけでもできるが、無傷でとなると無理だ。これ以上遺体が傷つくのは彼女も望まないだろう。それに何処に埋めるかなどいろいろ問題がある。

 事件解決後に然るべきところに事情を説明し、協力してもらった方がいいだろう。俺が直接頼みにいけるかは分からないが。

「ごめんね、立ち止まってて」

「問題無い。それじゃ、行くぞ」

「うん」

 長い廊下を歩いていく。

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