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青薔薇の花泥棒 十一話「紅い月の雫と女神像」


 警察署に侵入してから調査は順調に進んだ。

 火曜は辞書を使い図書館や教会の本の表題を翻訳し、紅い月の雫に関係しそうな物を選び取った。まぁこれを殆どやったのはサフィールだが。

 今日、水曜の空き時間は選定した本の文章を訳して重要そうな文を掻き集めた。各本の一部の文を飛ばし飛ばしやったため、選び取った本の半分くらいは終わった。

 授業終わりにその続きをやり何とか全ての訳が完成した。

 そして現在、情報を得られた情報を纏める為に三人で図書館のグループ学習室に集まった。それぞれ翻訳した紙を見せ合い、被っている内容に線を引き、新しい紙に情報を整理していく。

「よっし、これで全部書き出したな。そんじゃ確認していこうぜ。ざっと情報を分けると、紅い月の雫がある場所とそこに行くまでの試練? みたいなやつの二つだな」

「紅い月の雫は聖地アネラニアの巨大ウェラモ・ヴァルファト・リベ像の中にあるみたい」

「ちょっとマイナーな観光地にそんな大事なモンが隠されてるとはびっくりだよなぁ」

 確かに。自分が知ってるものから新事実が幾つも出てくると、先人の知恵というものは偉大だと感嘆させられる。技術が発達した現代でも、過去の全てを知り尽くしたわけじゃないと再認識させられる。

「聖地は手鏡が隠されている古城から南に十キロほどしか離れていないらしい。間に森があるから向かうのはそこそこ手間が掛かるが」

「城とそんなに近ぇのか。聖地行く時ついでにそこも寄るか?」

「まだお城の内部の詳細は分かってないからまだ決めない方がが良いんじゃない? 準備が万全の時に向かわないと危ないよ」

「そうだな。この後調べた結果次第だな」

 昨日の内にどの本が何に関係しているかをサフィールが分類し記録を残してくれたお陰で、本を探す手間は省ける。サクトゥリヒ語の翻訳にも慣れてきた。早い内にその判断を下せるだろう。

「で、女神像についてだな。像にはめちゃむずの謎解きがあってそれを全部解いてやっとお目当てのモンが手に入るそうだ。謎解きゴリ押し解決対策か知んねぇけど、中で攻撃魔法・回復魔法は禁止、壁とか床とか、特定のモンをぶっ壊すと即死するとかいう呪いも掛けられてるらしい。警備が厳重すぎんだよなぁ」

「それはそうだろう、邪神の封印に関係する物だからな」

 現に組織の奴らが狙っている。生半可な鍵じゃ簡単に世界が滅ぶことになる。

 幸い、何を壊していけないのかは古文書に記されている。それらと天井、床、壁に気を付ければ即死は回避できる。

「だけどよー、入口から百マスのスライドパズルがあってそれ揃えねぇと入ることすらできねぇとか、俺どうすりゃいいんだよ。一人入るごとにドアが閉まってパズルがシャッフルされて完全ランダムで問題出されるんだろ? それに加えて、解いてる奴の周りにデケぇ結界が張られるから、一人でやらなきゃなんねぇし」

「何も全員で行く必要は無いんじゃない? 誰か一人は外に残って見張り番をした方が良いと思う、アイツらが後から入ってくるかもしれないし。謎解きしている間に闇討ちされたり、魔法無しの睡眠薬を使われたりする可能性も無いわけじゃないから」

 確かに奴らと中で鉢合わせるのは避けたい。呪いの所為で満足に動けない、リュビスに至っては一切の攻撃手段が奪われる。女神像内部で丸腰の状態の彼女を守るのは厳しいだろう。向こうが大人数で来たらかなりまずい。攻撃に制限があるのは奴らも同じだが、人数が多い分あっちが有利だ。

「中にいる場合もあっからその場で判断する感じだな。俺も行った方が良い場合は……そん時は頑張るわ」

「あぁ、その時はこっちもどうにかして教える。結界があるとはいえそれは女神像の外の話だ、中までは影響しない可能性もある。声さえ聞こえれば望みはある」

「おう、ありがとな」

 各パネルに番号を振ったスライドパズルの写しを俺とサフィールそれぞれが持てば教えられるだろう、時間は掛かるだろうが。

「次は内部の謎解きについて確認しよう。謎解きがある部屋は三部屋。まずは最初の部屋についてだな。この部屋の謎は、種類と本数が正しい花束を作って男女の像に持たせるというものらしいな。そして間違った花束を持たせると部屋が水没する、つまり溺死する」

「当たり前だけど総当たりはできないね。時間制限は無いみたいだから、じっくり考えられるだけまだマシかも。部屋にヒントになる本があるみたいだから、しっかり読み解けば何とかなると思う。あと、答えを提示するまでは部屋の出入りは自由だから、最悪出直すこともできる」

 ヒントは当然だが全てサクトゥリヒ語だ。それを翻訳する間に時間切れで死ぬといったことが無いのは有り難い。まぁ謎解きのヒントで辞典ほどの厚さ・文字量が出てくるとは思えないが。

「次に二つ目の部屋についてだな。この部屋の謎は、見た目に違いの無い五つの緑の宝石に紛れている仲間外れを見つけるというものだ。こちらは時間制限があり、解けなければ毒ガスが充満して死ぬ。宝石を傷付けても毒ガスが噴出する」

「無理矢理仲間外れ作って突破は無理ってことだな」

「おまけに一度部屋に入ると、解くか時間切れになるかどちらかを満たさないと出られない」

「うわっ、二部屋目から急に殺意マシマシだな。仲間外れの見分け方だけどよぉ、重さで判断するとかいう単純な方法じゃねぇよな、もっと複雑で時間が掛かる方法だよな。間に合うのか?」

「そこにある設備の数次第だな。宝石を判別方法はいろいろあるからな、光を使って屈折率を見たり、フィルターに透かして色の変化を見たり。人が錬金術で新たに作り出した特殊な物だと、薬剤に浸して薬の色の変化で判断することもあるな」

「薬を使う方法は種類も多いし時間も掛かる。宝石を傷付ける薬品を除いても、十数種類はある筈。それが全部、ううん、半分以上あった場合手当たり次第試す時間は無いと思うよ」

「うーん、てことは部屋のどっかにヒントが隠されてるパターンだな。もしくは予め方法を絞っておくか。宝石・鉱石の図鑑読んどかねぇとな」

 俺が知っている方法以外も確認した方が良いな、特に緑の宝石によく使われるものを。

 短時間で緑の宝石の種類を判断する方法。色、光、五つの中にあの宝石が紛れていたらもしかしたら。いや、部屋の状況と置かれている物の詳細が不明な以上まだ断言できない。

「最後に三つ目の部屋についてだな。この部屋の謎は、四つの宝石を正しい位置に入れ替えるパズルだ。この部屋には目的の紅い月の雫もある。人間と同じくらいの大きさの女神像に嵌め込まれていて、パズルを解くことで外れるそうだ。また、この部屋は入った瞬間室温が下がる仕掛けが施されていて、解けなければいつか凍死するようになっている。勿論解くか死ぬか、条件を満たさなければ部屋の扉は開かない。あと女神像を壊そうとすると呪いが発動して首を切られる」

「入れ替えパズルか。宝石の最初の位置やお邪魔ブロックの位置が分からないから、来る前に解き方・手順を考えるのは無理だね。この部屋の謎に対して事前にできることといえば、暖かい服や飲み物を用意することかな」

 このパズルを解くには体温を下げないことが不可欠だ。二番目の部屋は時間が来てしまえば勝手に毒ガスが噴出されてしまうが、この部屋の場合は対策次第で解く時間を増やすことが可能だ。

 まぁ、パズルの難易度によってはこの行為に意味が無いかもしれないが。

「えーっと、これで翻訳した内容は全部だな!」

「うん、今のところ分かっていることはこれだけ。もう少し謎解きの詳細について調べてから聖地に向かった方が良い気がする、命懸けの謎解きが三つもあるし」

「うーんでもよ、紅い月の雫や聖地の謎解きの項目は全部調べたからなぁ。これ以上は何も無えと思うぞ」

 古文書を一番調べていたのはサフィールだ。各本の項目のタイトルを、紅い月の雫、聖地、古城などジャンルごとに纏めて紙にメモしたのも、調べ終えた項目をチェックしたのも彼だ。誰も調べていない項目があったら今言うだろう。

 調べ終えた項目のいくつかの文節は端折ったがその文量は少ない。そもそもその文節は謎解きには関係の無いページに書かれていた。新たな情報は得られないだろう。

「恐らく、これ以上紅い月の雫や聖地に調べても無駄だだろうな」

「そうだなぁ。じゃ、聖地に向かう日を決めちまうか。組織の奴らより先に回収しねぇとだから、準備の時間も込みで考えると今週の土日だな」

「そうだね、一日でも早く皆を助けないといけないし。防具の強化とか準備、頑張るよ」

「その日で異論は無い。俺も準備手伝う。ついでに古城についても調べておこう、有力な情報が得られたらそこにも向かおう」

「了解、俺も準備手伝うからな。よしっ、これで決めること決めたな! 取り敢えず今日は引き続き情報集めようぜ!」

 情報共有を終わらせて再び三人で図書室の本を閉館ギリギリまで読み漁った。



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