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青薔薇の花泥棒 十話「新たな糸口」

 五限の講義が終わった後、少し休んでいる内にすっかり日が暮れた。体調に問題は無く、二人の許可を得られたため、自宅に行っていつもの怪盗衣装に着替えた後夜の街を駆ける。

 屋根の上を突っ走って跳んでを繰り返して二十分、目的の警察署に着いた。

 今夜も傷害事件や酔っ払い達の対応をしていた警官が何人もいたため、そこまで厳重ではないだろう。が、油断は禁物だ。

 屋上から身を乗り出して廊下が見える窓を探す。

 この辺りなら見えそうだ。

 四階のバルコニーに降りて身を隠しながら中を覗く。

 懐中電灯を持った警官が欠伸をしながら通り過ぎていった。数分後、別の警官が辺りを見回しながら歩いて行った。さらにその数分後、また別の警官が誰かと連絡を取りながら過ぎ去っていった。

 その後数分経つと、欠伸していた警官が戻ってきた。四階は三人で巡回しているようだ。

 他の階も同様に確認していく。

 どの階も二、三人で警備しているようだ。タイミングを見計らって進めば大丈夫そうだ。

 バルコニーから屋上に戻り、いつものように消音と身を隠す魔法を掛ける。

 扉をピッキングして侵入する。階段を下りて証拠品保管庫を探していく。

 警察署の廊下には無駄な物が一切置かれていない、つまり隠れる手段が別の部屋に入る以外無い。

 警官と十分距離を取って移動しなければ。

 各部屋の扉にはプレートが取り付けられており、何処が何の部屋か分かるようになっている。

 今のところ目的の部屋は無い。

 通りすぎた全ての部屋からは明かりが漏れていなかった。部屋に入った途端見つかるといったことは無さそうだ。

 ある程度進むと署内の見取り図を発見した。どうやら地下にあるようだ。

 階段の方へ戻ろうとした時、慌ただしい足音が聞こえた。

 まずい、一度やり過ごさなければ。

 すぐ側のドアノブに手を掛けた。開いているようだ。

 部屋に入って足音が過ぎ去るまで待つ。

 音がしなくなった。扉を少し開けて隙間から覗いてみる。

 部屋の周りには誰もいないようだ。

 ここから出て地下に向かう。

 地下の警備の状況は確認できていない。もっと気を引き締めなければ。

 道中誰にも気付かれること無く地下へ辿り着いた。

 窓から差し込む街灯の光によって地上階は薄ら明るかったが、地下は闇以外何も映らないほど暗い。明かり無しでこの中を歩くのは非常に困難だ。

 一寸先は闇という状況からここに警官はいないようだ。先程の足音から、何か事件が起きてその対処の為に呼び出されたのかもしれない。

 兎に角、今がチャンスだ。上階の警官が降りてくる前に調べ終えよう。

 小型の懐中電灯を取り出して辺りを照らす。

 あった、証拠品保管庫だ。

 扉には鍵が掛けられているが、もの凄く複雑な絡繰りが施されているわけではない。

 三つのシリンダー錠がキーアウトで保護されている。キーアウトは絡繰り箱のようになっており、各面の仕掛けを順番に動かすことで外れる。

 仕掛けを解いていく。美術館の隠し通路の絡繰りなどよりずっと簡単だ、適当に押したり回したりしている内に一つ終わった。この調子で残りも解いていく。

 全ての鍵穴が露わになった。ピッキングで開錠して入る。

 中は綺麗に整頓されており、事件ごとに証拠品がまとめられている。

 研究所襲撃事件の証拠品は奥の方に保管されている。ここだけ証拠品に大型の家具が含まれてるため非常に目立つ。

 証拠品は何も置かれていない木製の机、がらんどうの本棚、椅子、積まれた数冊の本。

 まずは本に明かりを当てて何の本か確認する。表題を見たところ、遺物の修復方法についての論文のようだ。中に手掛かりになる紙切れなどは挟まっていない。

 やはり調べるとしたら机か。数は五つ、並んで置かれている。全て同じデザインで、机の右と左の両側に三段の引き出しがあるチェストが取り付けられている。

 一番左の机から調べてみる。

 右側の一番上の引き出しを取り外す、音を立てないよう細心の注意を払いながら。

 パッと見中身は文房具や白紙のメモ帳くらいだ。加工されているような箇所は見当たらない。

 他の引き出しも外してみるが異常は無い。

 他の机も弄ってみる。

 真ん中にある机の右一番下の引き出しに、明らかにおかしい箇所があるのに気が付いた。

 これらの机の引き出しの内、上から一段目と二段目の深さは同じだが三段目は異なる。三段目は箱の高さが一段目の約三倍あるため、その容積は普通一段目の三倍程になる。

 しかし、今調べている物は容積が二倍程しか無い。つまり上げ底がしてある。

 懐中電灯で照らすと底板と側板の接合部から接着剤がはみ出しているのが分かる。はみ出している箇所もあれば隙間がある箇所もある。明らかに素人が加工している。

 ピッキングの道具で接着剤を剥がしていく。数年経って劣化したからか簡単に崩れていく。

 板を退かすと折り畳まれた紙切れが現れた。どうやら手描きの地図のようだ。

 どうやら大学の講義棟周辺のようだ。建物から少し離れた場所に位置する木々の一つが丸で囲まれている。建物側から数えて五本目、ここを掘れと指示が書かれている。後で行ってみるか。

 懐に地図をしまい、残りの引き出しも開けていく。

 もう手掛かりになる物は無さそうだ。元に戻そう。

 文房具が入っていた引き出しから接着剤を取り出し、仕掛けを復元する。

 チェストの中に懐中電灯を当てながら出した箱をレールに嵌めていく。

 原状復帰したかを確かめる。誰かが入った時違和感を持たれてはいけない。

 問題無し、部屋を出るか。

 扉に聞き耳を立てる、足音や声はしない。扉を少し開けて廊下を見渡す。この辺りに警官はいないようだ。

 サムターンにテープを貼り扉の周りに巻き付ける。部屋の外に出てテープを引っ張るとカチッと音が鳴った。施錠された。さらにテープを引っ張ってテープを剥がして回収する。

 最後にキーアウトを取り付けてここを後にする。

 忍び足で来たルートを戻っていく。

 難無く屋上に辿り着いた。保管庫の扉と同じように屋上の扉もテープで施錠する。

 警察署から離れて大学に向かう。

 あそこに何があるのだろうか?


 屋根を走り抜けて次の目的地に移動した。

 手袋を外して印が付いていた木の周辺を掘る。土は柔らかく、素手でも作業が楽だ。

 十センチくらい土を取り除くと布が現れた。茶色い布、目立ちにくくする為か。

 さらに深いところまで掘り進める。布の塊の全体が露わとなったため、取り出してみる。

 何かを包んでいるようだ。結び目を解くと箱が出てきた。

 また絡繰り箱か。

 スライドや回転、ボタンを押すなどして仕掛けを弄っていく。もう慣れたものだ。

 最後に蓋をずらすと、参考書ほどの大きさの本と文庫本ほどの大きさの本が出てきた。どちらもタイトルは無い。

 参考書サイズの本のページを何枚か捲る。手書きの文字だ。

 どのページにも象形文字のようなものとこの国の公用語の二つの言語が載っている。

 この象形文字、サクトゥリヒ語か? 少し見ただけだから断定はできないが。

 もしそうだとしたらこれは父さんお手製の辞書ということになる。これを持ち帰れば調査が進むかもしれない。

 文庫本の方も流し読みする。こっちは公用語だけ。父さんの文字、今までの手記の続きだ。

 全ページの半分ほどしか埋まっていない。内容はアジトにあった手記と被る点がいくつかあるが、全く知らない情報も一応載っているようだ。

 二冊を箱に戻して懐にしまう。

 もうここには土以外の物は何も無い。家に戻ろう。

 今日は良い収穫があった。これで調査がさらに前進する筈だ。

 二人に吉報を届けられそうだ。



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