ゴブリン討伐
さて、コトミの能力はどのくらい?
「あるじ、この先にゴブリンの群れ10匹ほどいますぞ」
「いよいよゴブリン狩りだね、なんだか胸が高鳴ってきた」
「以前狩り取った小動物達も一応魔物ですがゴブリンとなるとレベルが違います」
当然だがゴブリンは二足歩行が出来有る程度の知能を有し集団行動が常。リーダー格が
いた場合にはさらに難易度が上がり戦術を用いる時もある油断できない容易ならざる相手。
「師匠、心配めさるな我はゴブリンごときに遅れはとりませぬ」コトミ
「って、聞かなかったけど君のランクはいくつなの?」俺
「は、武者修行を重ねてきましたが冒険者ギルドには登録してませんのでGです」
「そっか今回が初めての冒険者ギルドとしての仕事だしパーティも初めてって事なんだね」
「いえ、実は違います、パーティはなんども組んできました・・・が、あまり言えぬ事情が」
「でもギルド登録しないで魔物討伐したら戦果品はどこに行くの?報奨金とかは?
国の規律違反にならないの?」
「は、本来ならば規律違反により犯罪行為となりますが。我の場合は事情があり
「里」という別組織がその様な事は管理してくれてます。詳細は部外者には秘密のため
申す事は出来ませぬ」コトミ
「おい、コトミとやら、もしかして盗賊集団に属していたとかじゃないだろうな」
ケンがいきなりすごむ
「いえ、決してそんな馬鹿な事はしてませぬ、ですが人には話せない事情があるのです」
「うん、誰でも秘密はある。このケンだってあるじの俺に隠してる秘密が一杯あるみたいだし」
「あ、あるじそれは誤解でござるよ。今の主人には言わない方が得と判断してのこと」
「何言ってるんだよ。得か損かなんて聞いてみなけりゃ分からないだろ。」俺
「い、いまはゴブリン退治の時でござる他の話などしてる場合ではござらん」ケン
「っていつもそうやって煙に巻く。」
「という事で我の事についても詮索無用にござる。お互いそれが一番」コトミ
「ぐっ・・」言い返せないケン
「師匠、それでは二手に分かれて剣技を競いましょう」コトミ
「分かった、だが危ないときはお互いに助けを呼ぼうね」
「は、ゴブリンごときに遅れはとりませぬが了解しました、それでは!」
ダーっとコトミは右前方へとダッシュし背を向けていたゴブリンに急襲をしかける
当然だが俺もコトミも隠密魔法を掛けてるのでゴブリンには察知されていない
ゴブリンは全くの無警戒で無防備状態。先手必勝だ。
「む、速い、あるじも遅れをとってはなりませんぞ!ここは戦場にござる」せかすケン
「分かった!オリャア!!!」左前方にいたゴブリンに容赦なく袈裟懸けを仕掛ける
「ドッシュ!」悲鳴を上げる間もなくゴブリンは卒倒した
「あるじ、警戒したゴブリン共が身を潜めました5m先の草むらでござる」ケン
「ありがたいけど自分の修行の為だから助言無用に頼むよ」
「これはしたり。わかりました」ケン
さすがのゴブリンも仲間の一人が倒された事で非常事態を察したのだろう
「グオオオオオ・・」突如としてゴブリンが飛び跳ねて左右に展開し斧を振りかざしてきた
「む、敵ゴブリンは俺が見えてるのかな?」
「多分姿は見えずとも気配は察知したのでしょう。殺気を感じたのかと」ケン
「元々魔物は目で見えなくても相手を察知する能力は有してますので」ケン
「つまり隠密スキルは初手だけ有効って事か」
「さにあらず敵の懐深くはいれたのはとてつもない利」
「確かにこれなら相手がいくら多くても集団戦は不可能だからそれだけで有利だね」
「さよう、目の前の敵だけを討てば良いのです」
上段から向かって右のゴブリン、連携を取って左のゴブリンが下段から同時に斧を振ってきた
「ごめんな、残念だけど斧では俺の間合いの外だ」一端やりすごす俺
「ブンブン」空しくゴブリンの放った斧攻撃は空を切る・・その刹那、間合いを見極めた
俺は一歩ダッシュしロングソードの間合いに入った「シュン!」
閃光一閃左右にいたゴブリンを一振りで両断!
「む、この見切りは熟達者のそれでござる。お見事」ケン
「うん、敵の斬激見切が無意識に出来て後の先つまりカウンター攻撃がセットで出来た」俺
「その呼吸こそが剣技の奥義でござる、初戦で出来るとは・・驚きでござる」
「感激してる暇はない、まだ敵はいるぞ」俺
「いえ、10匹いたゴブリンは全て退治できてます」ケン
「えーー??俺は3匹しか倒してないぞ」
「師匠、どうですか!我は7匹倒しましたぞ」コトミ
見渡すと周囲のゴブリンは全部倒され骸が転がってる。一瞬の間の後消滅し
あとには魔石が出現した。時間にしてほんの数十秒だろうか・・コトミ恐るべし
「君そんなに強いのなら俺に教えを請う必要なんてないでしょ」俺
「とんでもありません、見ましたぞ師匠の技!あんな芸当A級剣士にも不可能でござる」
「俺は君の剣技見る暇もなかったんだけどね」苦笑いの俺
「無理もありませぬ我の技は光速の剣というスキル。目にとまるようでは失格なのですから」
「と言うかコトミは盗賊属性の隠密スキル使ってあるじに見られない様にしたのだろ」ケン
「わ、我は魔物だけに通じる隠密魔法使用出来ないので仕方有りませぬ」コトミ
「まあまあ、そんな些細な事はどうでも良いけどそれ抜きにしても早技だったよ」
「恐れ入ります」ちょっとドヤ顔コトミ鼻がツン
「つまり居合いか」俺は心の中で分析、居合いは初手が全て、相手に見切られたら命取り
居合いだけではいつか手詰まりは必定、コトミもそれを危惧してるのかも
「なるほど、それで俺の見切りを習得したいって訳か」
「えっ?なぜその様な事が分かるのござるか?」焦るコトミ
「うん、まあね、でも今はまだゴブリン狩りの最中、集中しましょう」俺
「御意」
「は、周囲に漂うゴブリンの気配は多い、次の戦場に向かいますぞ」ケン
その後もゴブリンの集団を発見次第二手に分かれて剣技を競う、訳もなく50匹討伐完了
「あるじ、周囲の魔物の気配は完全に消滅しました」ケン
「うん、俺もそう感じた。」俺
「クエストでもゴブリン総数約50とありました、討伐完了間違いないかと」コトミ
コレで南門付近の安全は当面確保された事だろう
獲得したポイントは250Px50パーティの役割分担で割り振られる
当然前衛部隊が多く付与されるが今回後方支援はなく3人平等な扱い
獲得P/3が各自に付与された
ケンに付与されても意味はないがパーティ登録されてる以上ルールなので仕方が無い
今回ケンはゴブリンを一匹も倒してないがケン自身がタイジの剣なので当然の貢献度」
どちらにしてもFランク昇級条件1000Pは軽くクリア出来てる。
尚、今回得たポイントは4167/人、だがポイントの持ち越しは出来ない
つまりGランクで一気に何P稼ごうが昇級したらリセットされて0Pからの再スタート。
次のEランク昇級には20000Pが必要らしい。
参考までに昇級基準Pは以下の通り
G 1000P多分に初心者お試しランク
F 20000P大人数パーティなら後方支援やこまつかいが任務
E 2十万Pこのランクで初めて「冒険者」と周囲から認められる
D 1百万P中級冒険者ソロで達成するのはまず不可能冒険者の80%がここまで
C 1千万P他国との戦争参加等で武勲を上げないと到達至難、リーダー格
B 1億Pボス級魔物を討伐か戦争で英雄クラスの武勲を要する、大隊長格
ちなみにだが貴族称号を得られるAランク以上はポイント制ではなく審査制となる
どんなにポイントを稼いだところで人格や品格、国に対する貢献度がなければ爵位など
得られる訳がない。逆に国から認められればBランク冒険者でも爵位を得る事もある。
主に他国との戦争時に武勲を上げた時などが特例対象となる。
「では、今日の修行は終わりでござるな」コトミ
「でも折角なんだからお互いの技量を測りたくない?」俺
「う・・・師匠にはとても適いませぬ・・己の技量は分かってますので」
「じゃなくて俺に剣技を見せたくないのでしょ?さっきも隠密スキル使ってたよね」
「あのその・・・」
「俺の技だけを盗みたいなんて勝手すぎない?」一応怒ってみる
「うううう、ですが・・・実は里の掟があり」コトミ
「じゃ主従関係もこれで終わりだ。どこへでも好きなところに行っていいよ」俺
「ううう、なりませぬ・・・じ、実は」
「実はなに?」
「父に師匠の技を絶対に習得するまでは師匠の元を離れてはならぬときつく言われてます」
「だけどそれはあまりにも都合良すぎるよね」
「あるじ、だから我は初めから反対したのです。この小娘の魂胆などお見通しです」ケン
「ってケンにまで言われてるよ?どうする?」
「わ、分かりました一度だけ手合わせ願います。万一我が勝利しても主従関係は変わりませぬ」
「大した自信だね。分かりましたそれではこの木刀で勝負しましょう」
「いえ、我はこの剣で無ければ剣技を発揮できませぬ。大丈夫必ず寸止めいたします」
「あの剣は魔剣だし今のあるじの技量では絶対に勝てませぬ」ケンが思念を送る
「分かってるよ。今はコトミの剣技を知りたいだけ、結果は期待してない」
「そこまで分かってるのならお止めしませぬ、存分に戦ってくだされ」ケン
だが俺は負ける気などさらさらない、ケンは知らない現代剣技の奥義たるものを・・
前世の俺では到底不可能な動きがこの異世界では出来てる。ならば頭でっかち(知識だけ)が
逆にこの世界では重要な気がする。つまりイメージが大事。なんとかなる自信が湧いてきた
「それでは始め!」ケンが合図する
「応!」両者が一端間合いを取るために離れたあと猛然とコトミがダッシュしてきた
「む、あれはきっと素走の術、最短距離で間合いを詰める忍者技」まだコトミは抜刀してない
「タタタタタ・・・」一気に間合いを詰めてコトミが一閃!
やはり俺の思ったとおり体が動く、動ける。閃光のごときコトミの剣が止まって見える
「シュッ」コトミは確かな手応えの筈だったがなぜか刃は空を切るのみ
「ブン」ではなく「シュッ」尋常ならざる風切音が凄さを物語ってる・・だが
「ば、ばかな!」慌てるコトミ確かに間合いの中にいた筈のタイジの姿がない?
実はタイジは一歩後ろに下がっただけだが居合いの瞬間に下がったのでコトミには
消えた様にしか見えない。
刹那、コンマ何秒だろう・・タイジの切っ先にコトミの喉元、ミリ単位の寸止め
タイジの剣は「シュッ」という音さえ発してない。
「ば、ばかな・・・我が遅れをとった」一瞬一撃で勝負はついた、コトミの完敗
がっくりとその場に崩れるコトミ戦意喪失・・・
「な、なんでござるか?あるじの腕が倍に伸びた???」信じられない現実にケンが驚愕
「ふ、思念だから解説するけどね、これは剣道じゃなくてフェンシングの技なんだよ」
「ふぇ、ふぇんしんぐ?」
「うん、一歩下がったのは全身を使って間合いを倍にするための準備運動」
「なるほど、あるじは剣を振ったのではなく全身を伸ばして突いたのですな」ケン
「こんな技誰も知らないだろ?俺の世界では存在したんだよ」タイジ
「お、恐れ入りました。我はあるじの本当の実力を知らなかった」ケン
「だけどこれは内密にね、コトミにも黙ってて欲しい、ばらしたら修行にならないから」俺
「御意、剣の道は奥が深いものでござるな・・我もまだ修行不足」あきれるケン
半べそでコトミが訴える「し師匠、い、今の技はなんでござるか?全く見えませんでした」
「君は私より強いのだろ?当然みきれなくちゃ」
「ぐ、・・・無念、全く見えませんでした」
「相手が敵だったら君はもう別の世界に旅立っていたね、傲慢は命とりって分かった?」
「は、肝に銘じます、我を破ったのは師匠が初めて・・里の猛者にも一切遅れを取らぬのに」
「いや、世界は広い、いつどんな強敵に出くわすか分からない。油断大敵だよ」俺
なぜかコトミが赤面してうなだれる
「強い人・・・しゅき・・」ボソボソ
「技量が見れたので満足でござろう、ささ町に戻りましょう、日が暮れて来ました」ケン
「ケンは移動魔法使えるって言ってたね」俺
「魔法の初歩でござる。登録した所へは自由に行き来できますぞ」ケン
「じゃ、それで町に戻って」
今回は南門付近でクエストこなしたので歩いて戻っても小一時間で戻れるが
どんなもんだか体験してみたい。
「御意、パーティ登録されてる者も自動的に移動出来ます」
「師匠、ですがそれ使うと後からギルドに運賃請求されます」コトミ
「それはギルド所有の魔道具使った場合だ。我のは固有スキル故只だ」ケン
移動には魔道具や魔法書(呪符)、魔道士による詠唱などがある
「師匠は剣技は神業なのに一般常識を知らないのですね」コトミ
「うん、実は記憶喪失で過去のことなんにも知らないんだよ、色々教えて欲しい」
「え?色々って・・・」なぜか真っ赤になるコトミ。誤解してる
「もどりますぞ、さコトミあるじにつかまって」
「あ、はい・・・」
「ねーコトミ君、つかまるって言ってもなぜ抱っこなの?」
「移動の時の揺れを防ぐためです」ウソ八百
「シュワン・・」
あらかじめ登録しておいた冒険者ギルドの建物前に一行は出現した
「移動完了したよ、降りて!」慌てるタイジ
赤面しつつも強く抱きしめる腕の力が増すコトミ・・これこれ
「これ、コトミ其方は剣の上での主従関係だろうが、師匠を困らせるでない」激怒するケン
「はーい」あっかんべーしつつ降りるコトミ、まだガキなのだ
ギルドへの報告と精算を済ませた後タイジはコトミに今日の分の報酬を渡す
「はい、今日の成果報酬ゴブリン50匹で金貨10枚とクエスト報酬金貨6枚折半だね」
「え?なりませぬ我は修行の身山分けなどあり得ません」コトミ
「何言ってるの実際に倒したゴブリンの数はコトミの方が圧倒的に多かったんだから半々でも
不公平と言われそうなんだけど」俺
「ルールではリーダー格が取り分を決める権利があり倒した数など関係ありませぬ」
普通リーダーは指令役なので狩りの時は手を出さない。
「と言うことは俺に裁量権ある筈、今回は折半が妥当だと思う」
「し、しかし我は父の元で暮らす身金子などほとんど必要ありません」
「何言ってんのお金なんていくらあっても多すぎるって事は無いし自分で稼いだお金だからね」
「ではお言葉に甘えて金貨6枚だけ頂きます」コトミ
「うん、なんか美味しい物でも食べてね」
「それでしたら・・・こんど受付の子と食事するそうなのですが同伴させて下さい」
「ごはんなんて大勢の方が楽しいからこちらこそ宜しくね」
「ヤッター」
「あるじは剣の腕前は我の想定外なのに・・・色恋はアレでござるな」ケンがつぶやく
「え?そうなのだって俺も10歳だけど二人とも12歳だよ、色恋なんて考えられないよ」
「本当あるじは世間知らずですな・・・・ここの世界では15歳前後で皆結婚してるのですぞ」
「え?知らなかった・・・俺なんて35歳でも彼女すら出来なかったのに」
「頭切り替えてくだされ、もはや前世には戻れないのですから今の世界に順応すべきですぞ」
「わかってるけど・・いきなりはついて行けないよ」俺
「さて、コトミ君明日はどうする?クエスト続けるかい?」
「師匠、確か今日でポイント達成しFランクの筈、ならば次回からはDランク討伐が可能です」
「なるほど、そうだね。Dランクと言えばどんな魔物狩れるの?」
「は、単独行動のオークや餓狼、魔蛇、魔蜘蛛などが主でござる」コトミ
「ただしあくまでも単独行動のオークや餓狼が対象で本来やつらは集団戦が得意
数が増えれば時としてCやBランクにもなりますしボス次第で難易度更に上がります」
「いきなり強さのレベルがあがるね」
「大丈夫でござる師匠ならばAランクですら容易いと見ます」
「それにDランクのクエストならば多分結界内に迷い込んだはぐれ魔物が相手、さしたる
強敵ではありませぬ」
「え?そうなの。ケンはどう思う?」
「コトミの言うとおりでござろう。もはや剣技の奥義は深淵の領域、我も驚きの成長ですぞ」
「こんな短期間でそんなことあり得るのかな?」
「あるじの特殊スキルでござろう・・・コトミなどに見せたくは無かったのですが」ケンはコトミを信用してない
「ケンは心配してるようですが勘違いされてますぞ」コトミ
「ふん・・」ケン
「なにが勘違いなの?」
「一端主従関係を結んだ関係ならばあるじの損になる事、つまり裏切りなどは厳罰に処されるのです」
「つまり、ケンが疑ってるようなスパイ行為は御法度ってことだね」
「我を忍者かなんかと勘違いされてるのかと」コトミ
「いや、忍者だよね?」俺
「え、ち、ちがいまする」
「だって隠密魔法とか素走とか居合いとか里がどうのとか・・誰がどう見ても忍者のそれだよ」俺
「ギルドに属さなかった事とかパーティ組んだことあるとか・・怪しすぎるぞ」ケン
「で・・ですから・・それは」
「まあ、いいよ言いたくないのなら秘密にしといてあげる」俺
「だけど、父という名の上忍の命を受けて利害関係を探ってるのは見え見えだからね」俺
「ち・・・ちがいまする・・」半べそコトミ
「いや、もう本当にいいから、その話はやめるし二度と口にださない」
「あるじはこころが優しすぎますなぁ」ケン
「だって騙されたとしてもそれは俺の見る目が無かったって事だけだろ」俺
「確かに・・・あるじがそう言うのでござるなら我もこれ以上は申しませぬ」ケン
「とにかく明日からDランククエスト受ける、今日はこれで解散だね」
「はあ?解散といっても行く方向は同じ宿でごるが?」ケン
「いや、解散なんだからどこ寄り道してもお互い勝手って事だよ」俺
「分かりました。それでは自由行動って事で」コトミ
「じゃ、俺はこれから買い物行くから先帰ってね」
「は、自由行動ですので我は自由に行動します」
「って、自由って言ってるのになに腕組んでる訳?」
「自由行動です」コトミ
「訳わかんない・・」呆れるタイジ
「それにしても呆れたよ」俺
「なににでござるか?コトミの事ならあるじは不問と言ってましたぞ」ケン
「コトミ君のことじゃないよ。この世界の話!」
「この世界がどうしたのでござるか?」
「いや、びっくりするほど日常生活品の種類が少ない、と言うか全くないね」
「何を言われるかおよそ人類の叡智の結集、これ以上の用品などあり得ませぬぞ」
「じゃ体洗うのに一体なに使ってる?」
「は、一般平民は籾殻でゴシゴシすればたいがいの汚れは取れます」
「いや、全く取れないし綺麗になんてならないよ。最低でも石鹸だな」俺
「せっけん?石で磨くのですか?人間の肌でそれはちょっと難しゅうござろう」
「とにかくケン、これ作って」俺は石鹸の概念を図解して見せた
「ほほう、材料はアイテムボックスにありますがこんなもの作ってなにするのでござるか?」
「ケンはなんでも作れるでしょ?文句言わないで作って」
「は、はい、それでは」ものの数秒で石鹸が現れた
「あと、歯ブラシと歯磨き粉」図面を見せたらすぐにケンが作ってくれた
「あるじ、いちいち紙に書くのも面倒だし貴重な紙の無駄遣いでござる
思念で直接送信くだされば我は理解出来ます」
「おお、それは便利だね、早速」ビビビと思念を送る
「風呂桶も作って」
「し、しかしこんな大きい物どうするのですか?」
「普段はアイテムボックスに収納しておいてもらって町を出たら出してひとっ風呂浴びる」
「はあ?風呂・・・そんな物は前代未聞でござるな」
「とにかくこの世界は不潔すぎる、俺には耐えられないから」
「はあ?不潔ですか・・・そんな事いう人間は初めてでござるな」
やはり中世時代では公衆衛生概念など皆無の様だ。
「まあ、アニメの異世界物ってほとんどがこの問題に主人公が悩まされるんだけどね」
「ほう、またまたアニメという大賢者の登場ですな」
「で、ケン聞くけどお湯って魔法で出せる?」
「ファイアーボールに水をくぐらせる術を使えばどんな温度のお湯でも可能でござる」
「もう一つ聞くけどアイテムボックス内での時間経過はあるの?」
「は、よくぞ聞いてくれました。我の所有するアイテムボックスは両方可能でござる」
「つまり?時間経過なしも任意での時間経過も可能って事?」俺
「現実の時間経過は勿論時間を早くしたり逆に遅くするのも無限大で可能でござる」
「それはすごい。アニメの世界を超えてるね」俺・・いや実際は猫型ロボットと同等か
「おー大賢者様の上を行くとは光栄でござる」ケン
「じゃ、石油とか石炭とか醤油も生成可能なんだね」俺
「は?せきゆ?しょうゆ?一体なんでござるか?」
「いつか必要な時が来るかも知れないけど今は説明いらないと思う」俺
「複雑な機械とかも生産出来るの?」
「勿論でござる、図面さえあれば全て可能でござる詳細がなくても概念だけで大丈夫ですぞ」
「とんでもない魔剣だね・・・つか最強アイテムって言うべきかも」
「何度も言いますが我は何でも作れますが発想は出来ませぬ、全てはあるじの力頼み」
「うん、なんとなく俺がこの世界に呼ばれたのが分かってきたような気がするよ」
「あ、そうだ!」
「またなにか閃きましたか?」
「アイテムのコピーとかは出来るの?」
「はは、そんな事は簡単にございます。アイテムボックスに取り込んだ物はすべて複製可能ですぞ」
「勿論無から有は不可能なので素材の有無次第ですが」ケン
「ぅて事は魔法も有限ってこと?」
「勿論でござる魔法発動の為の素材集めは過去のあるじ達の最重要任務の一つでした」
「と言うことは俺もいずれは素材集めが必要なんだね」
「さよう・・・ですが先々代のあるじが・・その手の素材集めを生業としてまして
最早無尽蔵ともいえる量なので当分、というかもう素材集めは必要ありませぬ」ケン
「ヲタクがいたんだね」
「は?おたく?なんですかそれ」
「専門分野だけに執着する変わり者って意味さ」
「おたく・・おたく」
「あ、そんなの覚えなくていいから」
「とにかくあるじが所望する物はなんでも出来ると言う事でござる」ケン
「じゃ、これコピーして」俺はスマホを手渡した
「複雑怪奇な珍品ですな、もちろん完全複製可能です」あっけなくスマホをコピーしてしまった
「どれどれ・・」
「おおっ通話出来る!これでお互いの通信が簡単になった、コトミ君にあげよっと」
「ば、馬鹿な!思念通信以外で遠隔意思疎通が出来る技などこの世に存在しませぬ」
「しかも思念通信の技は高等技術。普通はAランク以上の資格が無ければ出来ないのです」
「え?だって俺とケンの間では出来てるよ」
「上位の魔剣ならば主人に対してのみ可能なのです」
「ふーん、そうなんだ」
「常識ですぞ」ケン
「だって現実にここに存在してるじゃん」
「きっとそれはあやしき妖術かあやかし魔法の類いでしょう」
「いや、文明の利器って言って欲しい」
「っても不思議だなあこのスマホ充電何日もしてないのに常に100%充電されてる??」
「多分ですがあるじの魔力がその電力とやらを兼ねてるのかと推測しますぞ」
「なるほど、魔力で充電可能なんだ、なんて便利な」
「いや、そのすまほとやらの原理は分かりませぬがこの世の全て魔力が動力源でござるから」
「なるほど、街灯とかもガスで灯ってるのかと思ったが魔力なんだね」
「御意、ですから魔法でほとんどの用は足りてるのです」
「歯ブラシもないこの世界なのに一体なんの用が足りてるの?」俺
「あるじがおかしいだけですその様な発想はこちらの人間にはできませぬ」
「本当に中世程度の概念しか存在しないんだね」
「中世?なんですかそれ」
「いや、なんでもないこっちの話」
「と、言うか弟子のくせにコトミはあるじをまたせ過ぎですぞ。これはきつく言い聞かせねば」
怒るケン
「まあまあ、なんでもコトミ君は今まで買い物などしたことがないとか、服も初めて自分で選んでる
女の子なんだからそりゃ時間かかるよ」
「だったら自分一人で買い物するべきですぞ、なぜあるじを待たすのか理解できませぬ」
「それが女心ってやづだろうね、俺も知らないけど」
そんなケンとのやり取りが聞こえたのか聞こえないのかコトミが小走りで戻って来た
「師匠!お待たせしましたいい買い物できましたぞ。見て下さい」
コトミは早速購入した服に着替えていたのだ
「おおっ君ってやっぱり女の子だったんだね。ちゃんとした服着るとカワイイ」驚く俺
まさしく中世風のおしゃれな服は可愛らしい。ヲタク風に言わせればゴスロリ基調?
「は、恥ずかしい・・・」もじもじコトミ
「だけどその格好では狩りには行けないから着る時なさそうだけど?」
「食事に誘ってくれると約束したではないですか!」怒るコトミ
「え?食事程度でそんなにおしゃれするの?」
「し、知りませぬ・・・」プンプン怒るコトミ
「まったくあるじは剣技だけ一流でその他は駄目でござるな」呆れるケン
「え?そうなの」全く理解出来てない俺、彼女いない歴生まれてからずっとの俺
スキル全開なのだ。
「受付女との食事は日を改めてですが今日の所は宿にて一緒に夕食ですね」コトミ
「うん、同じ宿で暮らすのだから食事は一緒でいいからね」俺
「じゃ速く帰って夕食ですね」
ルンルン腕を組み帰宅をうながすコトミ・・・急に機嫌が直ってるし、訳わからん
帰宅を急ぐ二人だがコトミが話しかける
「師匠、いずれは家を借りる必要がありまするぞ」
「うん、ケンとも相談中だよ。今度物件を見に行く予定だ」
「ならば我も一緒に行きます」
「え?なんで」
「師匠とパーティメンバーなのをお忘れですか?」
「それが?」
「なにも分かってませぬな、パーティを組むと言う事は移動も修行も一緒
つまり同じ場所で暮らすほうが遙かに効率的なのですぞ」コトミ
「えーー、同じ屋根の下で男女が暮らすのってやばくない?」
「なにを申されてるのか分かりませぬ」コトミ
「う、ご、ごめん君をそんな目で見ては駄目だね、心から謝るよ」
「いえ、そんな目で見て欲しいのですが・・」ぽっと赤面するコトミ
「くだらん事言うな!今はお互い修行中の身。色恋などは邪魔そのもの」
ケンが声を荒げる
「全くその通りだよ。今はそんなこと考えてる暇なんてない。実用第一で家を借りるし
そこにコトミ君が一緒に暮らすのは当然だと理解したよ」
「は、師匠大変失礼しました。今後は剣技の修練のみに邁進いたします」目が覚めたコトミ
「うん、それでいい」なぜかトヤるケン
って言ってるそばから食堂に並んで座るコトミ
「実は冒険者としての報酬を得られたと父上に話したら住み込み従業員の仕事は
しなくても良いと許可を得ました。すべて師匠のお陰でござる」コトミ
「初日から給料金貨6枚とはとんでもないことだと父上が申してました」
「さっきも言ったけど全部コトミ君の実力だから。正当な報酬だよ」
「いえ、それは違います教えを請う者はに無報酬が当然の掟」コトミ
「そんな掟、俺は知らないし俺は俺のやり方で今後も通すから」
「はあ・・・」呆れるコトミとケン
「でも、まさか初日からこんなに稼げるとは思ってもみませんでした」
「うん、もっとランク上げれば収入は増えるからね」
「は、これからも精進せねばなりませぬ」身を引き締めるコトミ
「ところでコトミ君は修行中なんだよね?」
「修行中でござる」
「なんで横に座るの?」
「対面だと恋仲と勘違いされます故」
「いや、逆だろそれ」
「何事も修行です。」全く意に返さないコトミ
「じゃなんでべったりくっついてるの?」
「ここの宿は食事が美味しくて大繁盛大混雑してますな」
確かに夕食時という事もありごった返してるのは事実
「駄目だこりゃ」呆れるケン
「修行中だよね」
「修行中でござる」
「じゃ、なんで部屋に入ってくるの?」
「さきほど説明した通りでござる。パーティメンバーだからです」
「それは家借りた後の話でしょ?」
「は?誰がそんなこと決めたのでござるか?」
「誰って・・・ここは宿だし部屋も狭いし君の父親だって住んでるだろ?」
「は?何を言ってるのか分かりません。それがパーティになんの関係が?」
「それに宿にも主従関係とパーティの件話は通ってます見て下され」コトミ
「あ、なんで?ベットが二つ並んでる」驚く俺
「なにごとも修行でござる」あっけらかんとしてるコトミ
「変な修行にはならないよね????」
「大丈夫でござるわれが監視します」ケン
「師匠のせいでもありますぞ」コトミ
「え、なんで?」
「報酬を渡すと言うことは相手を一人前と認めた証。なので父上も我を
丁稚奉公扱いは出来ぬと家を追い出したのです。責任取ってください」
「ぐ、そんな習慣があったのか・・・この世界の事知らないと大変って事だね」
「だからあるじの世間知らずに呆れてるのでござる。心配で心配で」ケン
「なので今日から宿代は二人分、相部屋なので二人で銀貨5枚だそうです」コトミ
「一人分としては割引って事か・・・今後はもっと稼がないと駄目だね」俺
食事込みとはいえこの狭い6畳間で日本円換算一日1万~2万・・早く引っ越さねば
「師匠はさっき誓った事もうお忘れなのですか?」コトミ
「あ、いや、忘れてはないけどいきなりとは思って無かった」
「これも修行です遅かれ速かれこうなる運命」コトミ
「運命って・・・大げさすぎ」俺
「さあ、明日も早いのですもう寝ましょう」コトミ
「え、もう寝るの?かいた汗とか拭かないの?気持ち悪くない?」
「師匠、なにを言ってるのですか、体を清めるのなんて魔法で一瞬ですぞ」
「あるじはなんにも知らないのでしたな」ケンも呆れる
「なるほど、だから石鹸も浴槽も存在しない世界なんだ」俺
「ウオッシュの魔法を使えばスッキリですぞ」コトミ
「俺でも使えるかな?」
「いや、それは普通魔剣の仕事です」コトミ
「なるほど、肌身離さず持ち歩く魔剣ってのは便利グッズでもあるわけだ」
「ですから魔剣にも天と地ほどの実力差能力差があるのです」コトミ
「師匠のもつケンとやらは最上級の更に上の魔剣と見ました」
「え、そうなの?」
「鑑定はごまかしてますので憶測に過ぎませぬ」こそっと思念を送るケン
「とにかくウオッシュとやらやってみて」俺
「実は毎晩あるじが寝てから発動させていたのですけどね」ケン
「そうなんだ・・・とにかく今やってみせて」
「御意、ウオッシュ!」発動させた
「シュシュシュ」なにやら体中がシュワシュワしたが一瞬で終わり
「なにこれ?全然スッキリなんてしないじゃん」俺
「なことはありませぬ、体中の汗や体臭は全て除去いたしました」ケン
「いやいや、髪の毛油でベトベトだよ」
「あるじは我が儘でござるな、こちらの人間は皆これで満足してますぞ」
「それは文明の利器ってやつを知らないからだ」
「とは申されてもこれ以上はござらん」ケン
コトミもウンウンとうなずいている。女の子がそんなゴワゴワ髪の毛じゃ台無しだけど・・・
「ケン今から思念送るから作って」
「は、ご命令とあらば・・・はあ?なんですかこれ」
「半畳程度の広さしかないけど簡易シャワールームさ」
「はあ、作るのは容易い事ですが理由がわかりませぬ」
「いいから言うとおりに作って」
「御意」シュっと完成
なんと俺の発案で給湯器付き、天井に水タンクを置き内部を水魔法で満たし
配管の途中にファイアボールをくぐらせて湯温調整出来る仕組み
排水は一旦排水タンクに集めあとでまとめてケンに処分(分解)させる。
つまり先々代の集めた素材を使って水を発生させ使用後は元の素材に戻す循環設計。
エコだろ?気持ち悪いけど人体から出た老廃物も全て分解すると貴重な素材になるとかw
前世でそんなことしたら電力コストが大変なことになるがこの異世界では全て魔力で補える
「突き詰めれば魔力も資源と言えますが。この世界は魔素で満たされてますから」
とはケンの話
「簡易シャワーだけどちゃんと扉ものぞき見防止もついてるから安心だ」
「はあ?一体これで何をするのでござるか?」首を傾げるコトミ
「中に入ってシャワーの蛇口あけると暖かいお湯が出てくるからそれで髪と全身を洗う」
「あるじ、言われたとおりシャンプーとリンスとやらも作りました」ケン
「これは奇っ怪な魔道具の類いでござるな」コトミがシャワーの蛇口をひねって驚いてる
「ここの宿ではこの大きさで精一杯だけど充分体洗えるから」俺
「では師匠から先にどうぞ」コトミ
「うん、言っておくけど絶対に扉開かないからね」魔力でカギを掛ける装置を設置済み
「それに音も外に漏れない仕組みだから絶対に安心安全防音設計なんだ」
「それは凄いですな」なぜかちょっとがっかりしてるコトミ
10分後
「あーさっぱりした!さあ、今度はコトミ君が使って」俺
「あるじ、すごいです本当に音聞こえませんでした。」コトミ
「うん、親しき仲にも礼儀ありだしやはり若い男女だからね、コレ大事だから」
「そ、それでは我もこのあやしき魔道具使ってみまする」
「いや、そんなに構える必要ないからリラックスして気軽に使ってね」
半畳程度とはいえちゃんと脱衣所も完備されてる
10分後
「いやあ、驚きましたぞ!なんたる魔道具、身も心も洗われた気分にござる」コトミ
「だろ、一度清潔を体感したらもう後には戻れないし不潔の不快さがよくわかるだろ」
「御意、師匠の言うとおりでした。」
コトミの黒髪ピカピカサラサラ・エンジェルヘアー
「湯船つかるのが一番だけどこれでも充分ホカホカ、冷めない内にベット入ると気持ちいいから」
どどどっとベットに体投げ出すコトミ・・・ガキそのもの
「師匠なんだか極楽でござるぅ・・・・zzzzzzz」
ベットに入ると秒でコトミは深い眠りの世界に落ちてしまった様だ
「なんだか忍者とは思えないほどの無防備だね・・」呆れる俺
「心の底からあるじを信頼した証でござろう、コトミは修行中ながらかなりの使い手
相手に気を許すなんてたぶんあるじが初めてなのではないかと思いますぞ」ケン
「そうなんだ・・・なんか照れるね、じゃ俺も信頼に応えてとっとと眠るよ」
「明日も早うございまする故、早寝が肝要でござる」
どんな珍道中がまってるのだろうか