婚約破棄騒動のその後で
テンプレに挑戦
……………事の始まりは。
「ヒルビア・ノーチェス。お前との婚約を破棄する!!」
卒業式の式典で第一王子が婚約者のヒルビア・ノーチェス侯爵令嬢との婚約を破棄した。第一王子の傍らには彼女に虐められたと涙ぐむ男爵令嬢。
ここまでだったら国の恥だがある意味定番な話。
(起こるかもと言われていたけど実際に起きるとはね……)
起きないでほしかったと思ったし、まさか常識的に起きないだろうと思ったのだ。
でも、ここからは予想外。いや、予想外でもないかこういうパターンも多かったという話だから。
「ヒルビア嬢」
ふと、隣に控えていた第二王子がそっと動き出して、ヒルビア嬢の手を取る。
「ずっと兄の婚約者だと思って気持ちを抑えていました。ですが、もう我慢できません」
跪き、手を取りまるで歌劇のワンシーンのように、
「わたしと結婚してください」
それを聞いて周りの貴族は感動したように拍手を送る。第一王子に捨てられた哀れな侯爵令嬢にずっと片思いをしていた第二王子が愛を告げる、そんな物語のような一幕に涙を流す者も居た。
だが、
「――お断りします」
はっきりきっぱり、全く隙も与えずにバッサリと断り、まさか断ると思っていなかった誰もが呆然と状況を把握できないのに構わず、
「マルティナ嬢と婚約しているのにそんな常識はずれな事を言われて了承するとでも思っていたのですか?」
ヒルビア嬢の言葉に事態にようやく気付いたお花畑の方々がこちらを見る。そう、第二王子の婚約者であるわたくしマルティナ・ハスティに。
「――わたくしという婚約者がいるのに他の方に求婚なさる……。ですが、わたくしは貴方様の幸せを思って身を引きます。ええ、今まで貴方様にお送りしてきた支援すべて撤退して。ああ、わたくしの婚約者だからという理由でお使いになったモノ達はすべて利息込みで返してくださいね」
身分の低い側室の子供であった第二王子が王族として生活が出来ていたのは幼い頃からわたくしの婚約者になったことでわたくしの家からの支援があったからこそ。身分こそ伯爵であるが、もともと商業都市として有名で跡取りである弟が領主として、商人としての才能に恵まれていたので近年ではますます栄えてきた。
「では、父に報告させていただきますのでこの場を退席いたします」
マルティナが頭を下げると、
「ヒルビア・ノーチェスも同じく退席いたします」
といつの間にかヒルビアが隣に立ち同じように頭を下げる。
第一王子と第二王子、それぞれの婚約が破棄なんて前代未聞だろう。
「ま、まてっ!!」
慌てて追いかけてくる第二王子。自分たちが主役の舞台だったのにいつの間にか主役が交代しているという状況が分からないが、誰も突っ込みを入れていないから反対されていないと二人の世界を作り出している第一王子。
カオスな展開だった。
「で、結局婚約は破棄できたんですか?」
ハスティ家の嫡男ソルが、仲良くお茶をしているこの度婚約破棄された令嬢二人に尋ねる。
「どちらも王家が引き留めようとしたのではありませんか?」
にこやかに微笑みながら確認のためにメイドの代わりにお茶菓子を持ってきましたとテーブルに置いておく。見たことないお菓子だが、おそらくソルの作った新作のお菓子だろう。
ソルも前世、異世界で暮らしたことがある人間の記憶を持っている。この領地の発展はその彼の知識を部下と共に活用しているからだ。
ソルが生まれる前は領主になるために勉強していたわたくしですらできない芸当だ。これは前世の経験がものをいうのだろう。これでも姉三人よりも優秀だったのだが。
「わたくしの場合は第一王子が恋人を妻にしたいと必死ですからなかったことにはなりませんし、これで撤回したら我が派閥が黙っていませんから」
ヒルビア嬢の言葉にマルティナも同意する。
「第二王子は破棄を無かったことにしたいと今更もめているけど、お姉さまの嫁ぎ先を怒らせる危険性を考えて手出しできないでしょう。まあ、ソルが生まれた時点で第二王子からすればうまみの無い婚約だと思ったからこその此度の騒動でしょう」
「まあ、それはそれは――見る目がないですね」
マルティナの言葉にヒルビアがくすくすと笑う。
「うまみが無いというか。欲張った結果でしょう。侯爵家に恩を売れば王太子になれると踏んで」
ソルが少し離れた場所にある椅子に腰を下ろす。
「ソルさま。近くに座ったらどうでしょうか?」
ヒルビアが声を掛けると。
「未婚の女性の傍に男性が居るのは礼儀に反しているので」
ソルは答える。弟扱いされてはたまらないという牽制もあるのだろう。
「その当たり前が第一王子には欠落していたのよね。それをヒルビアさまが注意したのを虐めたとか差別だとか」
「その点第二王子の場合はきちんと礼節を弁えていたけど、婚約者がいるのに別の女性に求婚する時点で終わっているわよね」
二人で互いの婚約者だった人を貶しながら食べるお菓子は格別に美味しい。
「もともとソルが生まれなかったら我が家の婿になる予定だったのよね。暫定末っ子のわたくしが跡を継ぐ予定だったから」
姉が三人いるが三人ともすでに嫁いでいるし、結婚願望もないから領地を少しでも豊かに出来るなら政略結婚でも構わないと思っていたのだ。
第二王子との婚約も幼い頃に王族に恩を売れば商売相手が増えるだろうと客観的に判断したのだ。女伯爵の伴侶として第二王子と結婚したらそのお祝いとして伯爵位から侯爵へと内々で陞爵の話も進んでいたらしいが、弟が生まれたことで婿の話は消え、新たな爵位をもらう計画に変更になったのだ。
そうなるとわたくしとの結婚はあまりいいものとは思えなくなったのだろう第二王子は、あっさり切り捨てるという愚かな判断したのだろう。
「マルティ姉さまにはご迷惑を」
「いいのよ。お姉さま方の嫁ぎ先をろくに知らない時点で婿に来ても領地をよくしてくれないわ。それに前世の記憶があってもわたくしの記憶は領地にいかせないから」
前世職人だった記憶なので実践するのは得意だが、事務仕事は苦手だ。だが、その前世の知識を生かして、作られた布製品はご令嬢に人気で領地は潤っている。
「マルティナ嬢の作り上げた【絞り】加工のドレスはわたくしも気に入っていますわ」
「ありがとうございます。ヒルビアさま」
実際に今着ているのを見ているので嘘偽りではないなと理解している。
新作のドレスに身を包んだヒルビアにソルはずっと見とれているのだが、このままだと先が進まないと、
「デザインはまだあるのですよ」
デザイン帳を取りに行く素振りでソルの傍に行き足を踏んづける。
「っ!!」
こっちを睨んでくるが、そんな場合じゃないだろうと視線で訴えるとソルも理解していたのだろう。そっと立ち上がり、ヒルビアの傍に跪き、
「僕はまだ婚約者はいません。年齢も5歳離れています。爵位を継ぐにしてもまだ先です。ですが……」
なんでそこで長々と言うのかと内心呆れつつ、頑張れと応援しておく。
「僕と婚約してください!!」
実は前世からの片思いだったそうだ。ソルが前世制作に関わっていた乙女ゲームの悪役令嬢……のプロットキャラ。悪役がすごければすごいほど主人公は引き立つと思って生み出したが、主人公を食っちゃうキャラは駄目でしょうと没を喰らい三下の悪役令嬢になったと失意のどん底だったのだが、この世界に転生してそのプロット段階のヒルビアを見付けて喜んだとか。
そんな弟の気持ち悪いくらいのプッシュで興味が湧いたのがきっかけ。ヒルビアと親友になったのだ。
「その、乙女ゲーム? というのは分かりませんが、殿下の状況をしっかり見据えさせてもらいます」
というヒルビアの考えで第一王子を観察していたのだが、ゲームのイベントが起きたので情はあったし、国をよくしていくためなら骨身も惜しまないつもりだったけど、さすがにあんなことされてまで情があったらおかしいというか今までの忠誠心も王族に対しての敬意もすっかりなくなったと。
トドメは第二王子だったとか。
そんな王族を見てしまったからか。
「僕と結婚したら領地で作られる新作スイーツもドレスもすぐに用意できますし……我に返った王子との婚約を断る口実になります。後……」
必死にアピールするソルの好感度は爆上がりで、そんなソルにヒルビアはくすくすと笑いながら。
「正直、恋愛かと言われれば自信はありません。ですが」
そっとソルに触れる手。
「婚約破棄を宣言されて傷が浅かったのはマルティナとソルさまがいたからです」
と悪い例を見たからこそのソルの良さがしっかり伝わって、当然貴族令嬢だから家の事も考えての判断だそうだけど、
「婚約了承しました」
と受け入れる気持ちになったとか。
「マルティナと姉妹になれるのが嬉しいわ。お父様には実は手を回してもらったの」
申し込まれる前にこっちが申し込もうと思っていたと言われて、受け入れてもらえた時点で混乱しているソルは見ててかなり面白い。
まさか婚約破棄騒動の後にこんなことが起きるとはだれも思っていないのだろうなとにやにや見て、王族に嫁ぐ事も無くなったし後顧の憂いもないから染め物の仕事を極めようかなと将来設計を考える。
。
まさか、半年後に婚約破棄した第二王子が付きまとってきて、その時助けてくれた青年が王弟の息子で王位につく際に妃にと言われるなんて予想していなかった。
弟の出番が少なくなった。
追記
ちなみに使用したテンプレは。
乙女ゲーム
断罪の婚約破棄
ざまぁの舞台での別の人からの求婚(王子の弟パターン)
転生者
内政チート
です。