表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/39

第8話 王子様の仲良しアピール(?)

 


(シャーレ伯爵領って……どこかで聞いたことがある)


 頭の中で懸命に地図と地理を思い出す。

 ───そうよ。どこかで聞いたも何も、マクチュール侯爵領の()()()()だわ!

 これは、本当に偶然?

 エリザベスはどこかに行っていたけれど戻って来た?

 本当にずっと領地の近くにいたなら侯爵が気付かないのはおかしいもの。

 しかも、私と同じだと言うこの珍しい髪色がそのまま、ということは、エリザベスは少なくとも変装はしていない?

 まるで見つけてくれと言わんばかりだわ……


(……なんであれ、エリザベスが戻って来るのも時間の問題かもしれない)


 チクッ

 そう思ったら何故か胸の奥が痛んだ。


 無理やり侯爵家に連れて行かれたと思えば、エリザベスの身代わりを強要され、貴族令嬢のマナーを叩き込まれた。

 エリザベスが戻って来たら私はこのお役目から解放される。

 王宮に上がるまではずっと早くそうなればと願っていたはずなのに。


 だけど、結局エリザベスは見つからず私が王宮に上がることになってしまい、王子様と顔を合わせて新たな日々が始まった。

 そんな王宮での日々は辛いどころか……むしろ温かい。

 侯爵家にいた時とは比べ物にならないくらいだ。


 “婚約者(エリザベス)を愛さない宣言”をした殿下のことだから、てっきり身代わりの自分なんて冷たくあしらわれるとばかり思っていたのに。

 色々と振り回されてはいるけれど、殿下は優しい。

 そして、ちゃんと“私”を見てくれている……そんな気がする。


(もしかして私、王宮(ここ)が居心地がいいと思っている……?)


 私はそんな自分の気持ちに戸惑いを覚えた。




「──エリザベス様? どうかされました?」

「……え! あ、いえ」


(──いけない、そのことはいったん置いておいて今はどうにかこの質問に答えないと……でも、なんと答えれば……?)


「残念ながら別人だろうね、彼女はずっと王宮にいたし」

「で、殿下?」


 なんて答えるべきか躊躇っていたら、殿下が私の肩に腕を回してを抱き寄せながらそう言った。


(ちょっ……有難いけど何故、抱き寄せる必要があるの……??)


「確かにこの髪色は珍しいけど、何もエリザベスだけとは限らないからね」

「っ!?」


 殿下が愛おしそうに私の髪に触れる。

 

(だから、それーー! その仕草は何!!)


「……まぁ、そうですわね。でも、何故かエリザベス様の気がしてしまったんですの。勘違いでしたようですわ。エリザベス様、ごめんなさい。変なことを申し上げましたわ」

「……いえ」


 私は首を横に振ってそう答えた。


「似ていると言えば……ところで、エリザベス様。以前と随分と雰囲気……印象が変わられましたね?」


 今度は別の令嬢が口を開いた。


「!!」


 その言葉にドキッとする。

 つ、ついに来た……“エリザベス”との比較!!


「あら、そうですか?」


 とりあえず平静を装ってそう答えるも内心はどうしよう……という気持ちでいっぱい。


「婚約されたからでしょうか? すっかり落ち着かれて。人ってこんなに変わられるものなんですね」

「えー、ですが、あれだけ傲慢でしたのに?」


 他の令嬢まで横から口を挟んで来た。

 ───やめて、これ以上この話を広げないで!!

 

「私は直接お話したことはなかったけれど、夜会やパーティーでお見かけする時はいつもどこか偉そ……あ、失礼しました。えっと、堂々……? とされていて……」


 取り繕って言い直してくれたけど“偉そう”と言おうとしたのはバレバレだ。


(エ、エリザベス……! あなたって人は!!)


 傲慢、ワガママ、偉そう……悪評しか聞かないのは何故なの……!


(落ち着くのよ……私)


 私は胸に手を当てて深呼吸してから答える。


「殿下の婚約者として相応しくなるために心を入れ替えましたの。もちろん過去のことは……反省しておりますわ」

「まあ! エリザベス様……」


 私は悲しそうに目を伏せる。


「ですから……恥ずかしいので以前の私のことは忘れてくださらないかしら?」


(侯爵が言うように、やっぱり記憶にございませんとかで誤魔化すのは無理よ……怪しすぎる)


「そうなんだ。俺がこうして彼女を深く愛してしまったからね。彼女もその気持ちに応えようと必死に変わってくれたんだ。実は、いじらしくて可愛いだろう?」

「!?」


 なんと殿下が私の作り話に乗っかって来た。

 そして、そんなことを言いながら更に私を自分の方へと強く引き寄せる。


「まぁ!」

「殿下ったら……!」

「熱々だわ」


 皆、殿下の言葉にあてられて頬を赤く染めている。

 なるほど、この体勢だから余計に説得力が増すらしい。


(さすが殿下。演出がうまいわ!)


「ですが、それなら、これも単なる噂でしたの?」


 また別の令嬢令嬢がそう言えば……と前置きして訊ねてくる。

 今度は何なの? もう勘弁願いたい。


「噂、ですか?」


 私が聞き返すと、その令嬢はにっこり笑って答える。

 その笑顔に胸がドキッとした。

 

「殿下がこれまでなかなか、婚約しなかったのは初恋の女性が忘れられなかったから、という噂ですわ。えぇ、実は今でも殿下は強くその方を想っている……とか」

「……!」


 令嬢の目の奥は笑っていないので“その相手はエリザベス(あなた)ではないのでしょう?”そう言っている様に聞こえた。


(この質問は絶対にわざとよね……だけど、残念でした……! もうその話は耳にしていたから今更、驚くことはないのよ)


 私はふふっと笑う。少しでも余裕があるように見せなくては!


「殿下の初恋の方……ですか? それが本当だとしてももう過去の話ですから。今の殿下は“私”を愛してくれていますので。ねぇ、殿下?」


 私がそう口にしながら殿下に笑顔を向ける。


「──……あ、あぁ、俺は君を愛しているよ」


 ん?

 いきなり話を振ってしまったせいかしら?

 微笑みながらそう答えてはくれたけれど、ちょっとだけ殿下の言葉がぎこちない気がする……


「……ま、まぁ! そう……でしたのね、オホホ」


 意地悪な質問をした令嬢は思う通りの反応が見られなかったせいか、明らかにガッカリした様子を見せる。


(……私が殿下に忘れられない人がいると知ってショックを受ける所を見たかったのでしょうね。残念でした)


 それよりも。

 私は、チラリと殿下を見る。


(目の前の令嬢よりも、殿下の方がショックを受けた様な顔をしているのだけど? え、大丈夫なの?)


「……っ!」


 殿下が何か物言いたげな様子で私を見る。


「……」

「……」


 そっか! きっと今、話題に出た“初恋の女性”についての説明をしたいのね?

 殿下は私が既にその話を耳にしていたってことを知らなかったから。

 なるほど、なるほど……と内心で大きく頷く。


(大丈夫です、殿下! 私……いえ、エリザベスはその方の身代わりだと知っています。安心してください!)


 私はそう伝えたくて殿下に向かってそっと微笑む。

 それなのに……


「うっ…………ザ」


(って、あれぇ?? なぜ!)


 どうしてしまったのか。殿下の顔色はますますおかしくなっていった。



***



「……ライザ!」

「はい、どうされました?」


 ようやく人の輪から抜け出して、少し風邪にあたろうとバルコニーに出て休んでいると、殿下が必死な顔をして私の名前を呼んだ。


「さ……さっきの令嬢が口走っていた俺の“初恋の女性”の話だ!」

「え? あ、はい。そのお話でしたか。すみません、実は既にその話は耳にしておりまして」

「え!?」


 私の言葉に殿下が目を大きく見開いて固まる。


「……知って……いた?」

「はい。殿下には初恋の忘れられない人がいるらしい、と。ですから私は彼女に言われたことは全く気にしてお……」

「っ! ───ライザ!!」


 全く気にしておりません!

 そこまで言いかけた所で私の言葉は殿下に遮られ、しかも抱き締められた。


(えぇぇぇ!? 殿下ーーーー!?)


 ここまでの話から何故こうなったのか分からず、殿下に抱きしめられたまま、私の頭の中は大混乱に陥った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ