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初恋の女性が婚約者として現れた (セオドア視点)

 


 ───ど、どういう事だ……!?

 俺は今、ものすごい衝撃を受けている。


(ライザ……だろう? だよな? は? どうしてここに? ……マクチュール侯爵令嬢エリザベスはどうしたんだ?)


 その日、“婚約者”の顔を見た俺は軽いパニックに陥った。


─────……


 ついに逃げることが叶わず、結ぶはめになってしまった婚約。

 その婚約者が本日、城にやって来た。


 マクチュール侯爵令嬢、エリザベス。

 どうやら見た目だけは()()に似た容姿をしているらしい。

 初恋の彼女が忘れられず、ずっと婚約者の選定はのらりくらりとかわしてきた。

 しかし、さすがにもう逃げられない所まで来ていた。


(いつかは結婚しないといけないことは分かってる。それでも……)


 平民の彼女と俺は絶対に結ばれない。

 そう分かっていてもずっと心の中には彼女がいる。


「殿下! いい加減、誰でもいいから婚約者を決めてください!」

「……」


(誰でも良くはないだろう?)


 側近のカールトンが毎日お決まりの小言を今日も言い始めた。

 毎日、毎日しつこい。いい加減うんざりだ。


「その、初恋の女性だかなんだか知りませんが、どんなに好きでも平民は妃にはなれません。もう諦めましょう!」

「……」


 言われなくても分かっている。

 それなのに勝手な事を言いやがって……!

 

「あなた様は王太子です! このまま独身ではいられません」

「……そうだな。それなら、歳も近く白金の髪にアンバー色の瞳を持つ女性だったら考えてもいい」

「本当ですか!?」


 その言葉を聞いたカールトンは、目を輝かせた。

 それもそうだろう。

 今までどんなに勧めても首を縦に振らない俺が初めて“考えてもいい”と言ったのだから。


(残念だったな、カールトン。その今あげた容姿は“彼女”の容姿だ。全てどんぴしゃな貴族令嬢などいるまい)


 俺はそう思っていたのだが───


「殿下、いましたよ! 白金の髪に、アンバー色の瞳のご令嬢が!」

「……は?」


 何を言ってるんだ? あれは彼女の……ライザの容姿だぞ?

 

「どこの誰だ?」

「マクチュール侯爵家です! 年頃も近いですし、お妃として身分も問題ありません」

「…………」


 な、なんだと!?

 言葉を失う俺にカールトンは笑顔で姿絵を差し出して来た。


「……」


 ライザに……似てなくは……ない、か。いや、むしろよく似ているな……

 だが、違う。

 彼女はライザではない。


(それに、高位貴族特有の傲慢そうなオーラがなんとなく見える)


 マクチュール侯爵令嬢、エリザベスは、顔立ちはよく似ていたが、ライザの持つ可愛くて優しい雰囲気とは真逆の印象を受ける令嬢だった。


「大丈夫です、殿下。ちょっと問題行動が多いという噂を耳にしましたが、こういう令嬢は妃の地位を与えておけば満足するタイプですとも!」

「おい!」


 いやいや、駄目だろう。問題行動ってなんだ!?



 ──それからも、俺は断固拒否の姿勢を見せたが“考えてもいい”と言ってしまった為、押し切られる形で婚約は決定した。

 が、肝心のマクチュール侯爵令嬢、エリザベスは婚約者に決定し王宮にあがるよう通知を出したところ、


 “不慮の事故にあってしまった為、家で療養する時間を下さい”


 そう申し出てきた。

 正直、何だか色々怪しかったが、俺としては引き伸ばされるのは願ってもないこと。なので、文句も言わずに乗っかった。


 だが、本日。

 怪我が完治した、と言うマクチュール侯爵令嬢がついにやって来てしまった。


(……このまま話が流れてくれれば良かったのに)


 マクチュール侯爵家としては、何としても嫁に出したい所だろうしな……

 そう思ってがっくり肩を落とした。




「君がエリザベス・マクチュール侯爵令嬢か」

「……初めてお目にかかれて嬉しく思います。マクチュール侯爵の娘、エリザベスでございます」


 そうして現れた、マクチュール侯爵令嬢。

 顔は下を向いているから見えない。

 だが、髪色は困った事にライザと同じ……間違いなく白金の髪だった。


(カールトンの報告に嘘はなかったのか……)


 だが、何故か噂とは違う様子がチラチラ垣間見えて不思議に思う。

 そして、“君を愛することはない”そう取れる言葉を口にしたにも関わらず怒り狂う事もしない。

 

(どういう事だ?)


 噂通りの令嬢ならここで怒り狂うはずだろう?

 それで、破談になっても構わない。そんな気持ちで口にしたのに……


 この令嬢……どんな心づもりなのか顔を見て聞いてみたい。

 そう思って顔を上げさせた────



 ──ライザだ! 目の前にいる彼女はライザだ!

 俺が彼女を間違えるはずがない!!

 でもでもでもでも……何でだ??

 え? 本当に何で彼女がここにいる!? 夢か? そうだ。これは夢だ!

 だって彼女は平民で、俺の婚約者に決定したのは侯爵令嬢で……


 彼女から見えないようにそっと頬をつねる。


 痛い。

 違う、これは夢ではないんだ!

 胸がトクントクンと高鳴る。


(あぁ、ライザだ。目の前の彼女はライザにしか見えない)


 ずっと会いたかった。

 ずっと、忘れられなかった……会えなくなってから何度も何度も夢に見た……


(どうしたらいい!? 何を話したらいい?)


 何より俺のことを覚えているか……?

 これを聞きたい!

 

 ────いや、いきなり聞くのは駄目だろう。

 ライザは侯爵令嬢のエリザベスと名乗っている。

 これは間違いなく訳アリだ。

 

(それに、もし忘れられていたら俺が立ち直れない!!)


「…………」


 あぁ、可愛い。

 絶対、将来もっともっと可愛いくなると思ってたけど、やっぱり可愛い。


「……エリザベス?」


 何でエリザベスのフリなんてしているのか、分からないが、この際理由なんてどうでもいいな。

 このままライザが手に入るなら……俺は気付かないふりをするだけだ!


(だが、一応確認しておこう)


 そうして、俺は本来はカールトンが案内するはずだった部屋までを自らが案内する事にした。

 そうしていくつかの質問を投げかける。

 そして、噂に聞いた通りのエリザベスの性格なら不満を言うであろう部屋も彼女はすんなりと受け入れていた。

 必要なものがあれば……と言いながら浪費はさせないと釘を刺してみたら……これまたあっさりと……


(ライザだ。君はエリザベスなんかじゃない! やっぱりライザだ!!)


 “ライザ”と呼びたい。

 何を好きこのんで好きな子を他の女の名前で呼ばなくてはいけないんだ。

 冗談じゃない! 絶対に嫌だ。

 どうにかして彼女をエリザベスではなく“ライザ”と呼びたい。


(……! そうだ! エリザベスの愛称の一つに“ライザ”がある! よし、この方法で誘導すれば……)


 そうして、俺はライザと呼ぶことに成功した!


「ライザ」

「は、はい!」

「大丈夫か? 嫌ではないか?」


 ライザは無言だったけど頷いてくれた!


「なら、良かった……ライザ」

 

(やっぱりだ、やっぱり君なんだ……)


 俺は嬉しくて嬉しくて微笑んだ。



***



「カールトン」

「はい」


 執務室に戻るなり俺はカールトンを呼び付けた。


「商人を呼べ」

「は?」

「いいから。今すぐ呼んでこい!」


 カールトンが俺の言葉に驚いている。

 そして、訝しむ。


「今すぐ? な、何のためですか? 先日呼んで買い物したばかり……」

「ライザ……コホンッ、エリザベスに贈り物をしたい。それと、用意していたドレスを取り替える!」

「はぁ?」


 ますます、カールトンが変な目で俺を見る。


「事前に用意していたドレスでは駄目だ! 彼女には全く似合わない!」

「いや、何言ってるんですか……あなた様がエリザベス様は派手好きらしいからアレでいいと……」

「それから、小物は花柄を揃えるように事前に伝えろ!」

「えーと? 殿下……人の話を聞いてますか……?」


 だってライザは花が好きだ。

 あの頃、可愛らしい夢を語っていた……


(あの時のキラキラした顔は可愛かったな)


 ライザの好きな物を贈ったら、またあんな顔が見られるだろうか?

 俺はウキウキしながら彼女が好きそうな花柄の物を選んだ。

 ちなみにその間、カールトンが仕事をしろと睨んでいた気がしたけれど気付かないふりをした。



「気に入ってくれたかな? 君が──ライザが好きだと思ったんだけど」

「は、はい! 気に入りました。ありがとうございます」


 そう、お礼を言ってくれたライザの顔が嬉しそうだ。


(やった! 笑った! 笑ってくれた……!)


「なら良かった。それにライザのその顔が見れて俺も嬉しい」


 嬉しくて嬉しくて俺も微笑んだ。


「えっ……その顔、ですか?」

「あれ? 自覚ないの? 今、ライザは嬉しそうな顔をしているよ?」

「嬉しそうな……顔?」


 ライザは無自覚なのか。

 それで、そんな可愛い顔をするとは……!


「我ながら、多すぎたかな、とは思ったけど……君のライザの喜ぶ顔が見たかったんだ」

「っ!」


 ちょっとキザだったかな?

 でも、いいや。君への想いが少しでも伝わってくれたら……


「!」


 ライザが照れた!

 これは貴重だ……あぁ、可愛い……

 駄目だ。これ以上こうしてるとおかしな事を口走ったり、思わず抱きしめたりしてしまいそうだ。


「ライザ……」

「は、はい!」

「食事にしよう」

「……はい」


 情けないけど、この時はとりあえず食事に逃げるしかなかった。




 まさか、二度と会えないと思っていたライザに会えるとは思わなかった。

 なぜか、侯爵家令嬢エリザベスのフリをしているが……


(そこは調べておくか)


 後から()()が出てきても邪魔だからな。


 ──だが。

 初恋の女性との再会で浮かれていた俺はすっかり忘れていた。

 エリザベスがライザだと、気付く前に“君を愛することはない”というような発言をしていたこと。

 そして、俺の初恋……ライザのことが思っていたよりも、周囲に知れ渡っていたことを──


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