最終話 身代わりの身代わり令嬢の幸せ
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「ライザ……綺麗だ、とってもとってもとっても……あぁ、夢のようだ」
「セ、セオドア様、大袈裟です!」
「大袈裟なんかではない! だってライザが…………俺の花嫁になるんだから」
(うっ……! 笑顔が、ま、眩しい!)
殿下はそう言いながら蕩けそうな甘い笑みを私に向けた。
──そう。今日は私と殿下の結婚式。
今は、式の前で私のウェディングドレス姿を見た殿下が感極まっているところ。
「……セオドアって、こんな子だったのね」
「あぁ……」
そう後ろで呆気に取られた様子で呟いているのは王妃様と国王陛下。
息子のデレデレ具合に若干引き気味の様子。
「ふふふ、でもセオドアがそうなる気持ちも分かるわね、とても綺麗よ」
「あ、ありがとうございます」
王妃様に褒められて私は照れながらお礼を言う。
「さすが母上! そうだろう! ライザは本当に可愛……」
「ええ、可愛いわ! 私、こんな娘が欲しかったの!!」
殿下の言葉を遮るようにして王妃様も力説した。
(娘……)
その響きはどこか照れくさい。
「ありがとうございます……お義母様」
私がハニカミながらそう口すると王妃様……お義母様に「やっぱり可愛いーー」とさらに愛でられた。
「あー……すみません。家族水入らずの所、申し訳ないのですが……」
「ん? 何だ? カールトン」
そこへ、おずおずと申し訳ない顔をして現れたカールトン様に殿下がちょっと不機嫌そうに対応する。
そんなカールトン様は手に何やら箱を持っていた。
「そんな目で見ないで下さいよ、殿下……えぇと、ライザ様にリーチザクラウ国からの結婚祝いの贈り物が届いております」
「え!」
「レイモンド国王陛下が式には参加出来ないから、と今日に合わせて贈ってきてくださったようですよ」
「伯父様……わざわざ?」
嬉しい! 私の頬が緩む。
セオドア様との結婚をこんなにたくさんの人に祝われていることがたまらなく嬉しくて幸せだ。
「──ライザ。せっかくだ、お礼がてら新婚旅行とでも言い張って今度一緒にリーチザクラウ国に行こうか?」
「!!」
殿下のその言葉に私はパッと顔を上げる。
殿下はとても優しい目で私を見つめていた。
「ルル王女の故郷……見てみたいだろう?」
「見たいです!」
「よし、決まりだな」
私が大きく頷きながら満面の笑みで即答したら、殿下も嬉しそうに笑ってくれた。
「そういうことだから、カールトン。俺とライザの日程調整をよろしく!」
「ぅえっ!?」
カールトン様は仕事が増えた……と頭を抱えて嘆いていた。
あの日のお披露目パーティーは本当に本当に色々な事がありすぎて。
……けれど、あの日を境に私は、セオドア様の婚約者のリーチザクラウ国の王女ライザとなった。
侯爵……元マクチュール侯爵たちのしでかした事が大きすぎて、皆の関心はそちらに向いてしまったのか心配していたほど私が殿下の婚約者となる事に対する反対意見はなかったという。
(一応、隣国の王女という身分にはなったけれど、もともとは平民だった上にやらかしたマクチュール侯爵の娘なのに……)
「いえいえ、ライザ様! それは違いますよ!」
「違う?」
そう思ったのに、何故かキャシーは違うと言う。
「あそこまでの王太子殿下の一途な初恋の話を聞いたらもう誰も文句を言うことなんて出来ませんよ!」
「え!?」
「殿下は手鏡を持ち出してライザ様に渡した時点で、もう全てをライザ様に捧げていたんですね」
キャシーがうっとりした顔でそんなことを言う。
「え、いや……そんなに?」
「はい! お二人が再会出来た奇跡に感謝です。その点だけは“あの女”にも感謝を述べておきましょうかね?」
キャシーは凄くトゲのある声でそう言った。
あの女……キャシーはエリザベスに相当な恨みを抱いているらしい。
私とエリザベスが入れ替わった後の一番の被害者はキャシーだったので、これはもう仕方がない。
そしてそんなエリザベスがどうなったかと言うと……
「それにしても───娼館送りとは殿下もなかなかピッタリな場所を与えましたよね」
「……そうね」
殿下の用意したエリザベスの刑は娼館に送ることだった。
それも……あの日、私が侯爵家から逃げ出さなければ私が連れて行かれるはずだった娼館を選んだあたりに殿下の強い怒りを感じ取れる。
あの人たち……特に夫人はよっぽど私が憎く邪魔で酷い目に合わせたかったのだろう。
彼らが用意したのは、この国で一番の劣悪な環境にあると言われる娼館だった。
(殿下は私から話を聞いた後、私がどこに売られる予定だったのかを調べていたらしく、それで更に怒りが募ったとか聞いたわ……)
そして、隣国で裁かれることになったあの二人。
帰国するレイ伯父様と共にリーチザクラウ国に向かってから、程なくして伯父様から一通の手紙が届いた。
それは処罰の完了を告げたもの──……
リーチザクラウ国で出来る最大限の罰を与えた、と記載されていた。
その手紙を持って私は殿下とこっそり街に行き、お母さんのお墓参りをした。
また、その時にマーサおば様に殿下との婚約報告をした所、大泣きされて大変だった。
別れ際にマーサおば様が最後に言ってくれた「ライザちゃん、幸せになってね」の言葉には“ルル王女の分まで”そんな言葉が込められていたと私は思っている。
そんなたくさんの人の優しさと愛情を感じられて本当に私は幸せ者だと心から思えた。
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そして無事に結婚式が終わり、この後は国民へのお披露目の為にパレードが予定されている。
「ライザ、パレードの途中にどうしても立ち寄りたい所があるんだ」
「途中に? 大丈夫なのですか?」
「うん、特別に少しだけ時間を貰えた」
「そう、ですか。それなら……」
許可が出ているなら構わないけれど、殿下はどこに立ち寄りたいのかしら??
なんてその時は思ったけれど、よくよく考えれば行きたい所なんて一つしかなかった。
「やっぱりここなのね?」
「うん」
そう。
私と殿下……テッドが出会ったあの場所。
「あの日は、我ながらグダグダだったから」
「あの日?」
「テッドの正体を明かした日だよ。そういうわけで……はい、これをライザに」
そう言って殿下は、どうやらいつの間にやら茂みの影に隠していたらしい花束を手に取って私に差し出した。
それを見た私は目を見張る。
──両手いっぱいの花束!
(あの日、確かに悔しがってはいたけれど……まさか本当に用意するなんて……!)
「ライザ。俺は昔も今も君だけが……ライザの事だけが大好きだ。君が王女でも貴族令嬢でも……平民でもね。俺はそのままの君に恋をして……今も恋をしている」
殿下はそっと私に花束を持たせる。
「そして、今日……君は俺のたった一人の“お嫁さん”になってくれた」
「お嫁さん……」
妃ではなく、お嫁さん。
その可愛らしい響きが何だか照れくさくもあり、王子や王女としてではなく、個人としての気持ちに思えて嬉しい。
「ライザがライザらしくいられるようにこれからも俺は努力を続けるよ。そして必ず幸せにすると誓う」
「セオドア様……」
「そして二人でたくさん家族を作ろう? 一人になるのは嫌だ、寂しいとライザが決して泣かないように……」
「あ……」
それは初めて会った時にこっそり泣いていた私が口にしていた言葉……
(本当に本当にそんな些細な事まで覚えてくれていたのね?)
私は溢れそうになる涙をこらえて口を開く。
「ありがとうございます、セオドア様! 私もあなたが大好きです!!」
そう言って私は、一旦花束を下に置いて思いっ切り殿下に抱き着いた。
そんな私を殿下も優しく抱きとめてくれた。
「───ライザ、愛しているよ」
「はい、セオドア様、私もあなたを愛しています」
互いに見つめ合い微笑むと、私たちはそっと唇を重ねた。
───パレードが残ってるんです!!
いつまでたっても戻って来ないことから痺れを切らした護衛が乗り込んで来るまで、私たちはこの思い出の場所でずっとお互いを抱きしめ合っていた。
そして、その日の夜……そう、初夜!!
前に、“覚悟しておいてね?”
確かに殿下はそう言っていたけれど……まさか、本当に眠らせて貰えないなんて思わなかったし聞いていなかった───でも幸せだと思えた。
そして……
それから月日は流れて───……
「おかあさま~」
「リリ? どうかしたの?」
私の元へ可愛い可愛い娘が駆け寄って来る。
「あのね、絵本よんで?」
「絵本? いいけど……テディが起きちゃうから静かにね?」
「テディはお昼寝してるの?」
「そうよー、まだ赤ちゃんだから」
長女のリリ。長男のテディ……
殿下があの日、誓ってくれたように私には家族が増えた。
とってもとっても大事な宝物の我が子たち。
「こら、リリ。お母様をあんまり困らせちゃダメだぞ?」
「おとうさま!」
そこへセオドア様がひょっこりと顔を出した。
子煩悩なこの人は、こうして公務の合間によく現れる。
(ちょっと過保護で心配性なのよねぇ……)
そして、やっぱり……リリは嫁にはやらん! ともう言っている。
親バカ全開よ。
でも、きっとリリもテディも大きくなったら素敵な出会いが待っていると思うの。
そんな子供たちの未来がどうなって行くのか今から楽しみで仕方ない。
「ふふ」
「ライザ? 何で笑ってるの?」
「……幸せで」
「うん?」
「セオドア様と、リリとテディと……それからあたたかく見守ってくれている皆がいてくれて幸せなの」
私が微笑みを浮かべながらそう言うと、セオドア様も嬉しそうに笑う。
「俺はライザのその笑顔が見れて今日も幸せだ」
「ふふ」
そんな事を言いながら、セオドア様の顔がこっちに近付いてくる。
「え? あ、ダメよ……リリが見て……」
「気にしない」
「そ……」
そういうことではなくてーー!!
と言いたかった私の言葉は残念ながら優しい優しいキスにのみ込まれてしまった。
だけど、今日もとってもとっても私は幸せだ。
ある日、無理やり貴族の屋敷に連れて行かれ、異母姉の身代わりを強要され殿下の婚約者になった。
殿下には、他に愛する人がいるから私は身代わりの身代わり令嬢なのね!?
なんて勘違いから始まった私とセオドア様の幸せはこれからも、彼に愛されてずっとずっと続いて行く────
~完~
ここまでお読みくださりありがとうございました。
これで完結です。
もはや定番化している「君を愛することはない」発言するヒーローの手のひら返しに加え、
実はヒロインは〇〇でした!
という私の好きな要素を詰め込んだ話です。
あ、ヒーローが一途なのも私の書く話の定番ですね。
更新頻度とか更新時間が定まらず、フラフラしていたのは、
約二年前に書いた話ということもあり、加筆と修正にかなり手間取ったためです。
今だって未熟なのに、さらに未熟……そんな話にお付き合いありがとうございました。
ブックマーク、いいね、評価、感想……どれもありがとうございました。
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