明かされる事実②
「い、従姉妹……?」
「侯爵夫人は、リーチザクラウ国に当時留学していたマクチュール侯爵……この頃は侯爵令息だね、に恋をして無理やり押しかけるようにして嫁いで来たそうだ。元の身分は公爵令嬢」
「公爵令嬢……」
思ってもみなかった話に私の身体は震える。
お母さんと侯爵夫人が従姉妹同士……身内だった?
言われてみれば、侯爵は随分と夫人の顔を気にしていた。
てっきりお母さんに手を出したことを責められているのかと思ったけれど……
(私を娼館に売るのを早めようとしたのも夫人がずっと早くしろと強請っていたからなのかもしれない)
出身国が違えども妻の方が身分が高いというならあの関係性も納得だ。
「国王陛下曰く、ルル王女と夫人……昔の二人は姉妹に間違えられるほどとてもよく似ていたそうだ。まぁ、大人になってからは変わったかもしれないけどね」
「……」
侯爵夫人を見てもお母さんの面影など感じなかった。
ひたすら睨まれていたので、怖くてまともに顔を見ていないので仕方ないのかもしれないけれど。
「私とエリザベスが似ているのは……父親が同じだけでなく、母親同士もよく似た身内だったから……?」
「そうだと思う」
殿下は頷いた。
侯爵夫人の私に対するあの憎悪の目は……私が侯爵の子供だから……だけではなく……
そもそも夫人がお母さんの事をよく思っていなかったから、なのかもしれない。
(夫人がお母さんに酷いことをしていた可能性だってあるんじゃ……)
「……」
「ライザ!」
膝から崩れそうになった私を殿下が支えてくれる。
「ありがとう……ございます」
「ごめん。立ったままする話ではなかった……座ろう」
「……はい」
殿下に手を取られ私達は一旦腰を落ち着かせることにした。
「……殿下」
「何かな?」
場所を移動して座って話すことになったのは良いのだけど……
「近くないですか?」
「気のせいだよ」
「……」
「……」
殿下は気のせいだとにっこり笑ったけれど……
何故か距離が近い。
それに肩を抱き込まれているので、どう考えても密着している。
「好きな人と触れ合っていたいんだよ」
「っっ!」
そんな直球で言われてしまうと……恥ずかしくて顔が見れなくなってしまう。
(私の頬が熱い)
「……その顔は、もしかして意識してもらえてる?」
「し、知りません!!」
「素直じゃないなぁ、でもそんな所も好きだよ」
「~~!!」
「はは、そういう所も可愛いね」
私への気持ちを隠すのをやめた殿下はついに私を翻弄し始めた。
ずるい人だ。
気恥しさに耐えられないので話を変える事にした。
「~~えぇと! そ、それで! 殿下が急に隣国に行くと言ったのは……」
「そう。ライザとライザのお母さんの事をはっきりさせる為だ」
「……」
わざわざ私の為に? ……忙しいはずなのに。
でも……
暗い考えがふと頭の中に浮かんでしまう。
これって私を逃がさないように囲い込む為なのでは?
それに私が隣国の王族の血筋の者だと判明したなら、政治的利用することだって出来ー……
「ライザにね、家族がいるんだよって知って欲しかったんだ」
「え?」
思いがけない言葉に驚いて顔を上げる。
「唯一の身内だったお母さんを亡くしてから、ライザの血の繋がった家族と呼べるのはマクチュール侯爵家の者達だけになってしまっただろう?」
「あ……」
あんな人達、家族だなんて思えなー……
「でも、嫌だろ? あんなのしか、家族と呼べるのがいないなんて。いや、むしろ呼びたくもない、か」
「……」
「ライザの家族はあんな奴らだけじゃない。他にもちゃんといる。それを知って欲しかったんだ。俺はライザに家族を作ってあげたかった」
「家族……を?」
胸がキュッとした。
私のことを思ってくれたの?
私を囲い込むためとか政治的利用とか関係なくて、ただただ私に、独りではないと……家族がいるんだっていう事を知らせる為に?
「だからね? 俺は陛下に何が望みだって聞かれてこう答えた」
「?」
殿下はお母さん……ルル王女の情報を持っていったことで、陛下に何が望みなのか聞かれたのだと言う。
「ライザを家族として受け入れて欲しい、と。いつかライザと顔を合わせることがあった時は家族として温かく迎えて欲しいってお願いした」
殿下がちょっと、図々しかったかな、なんて照れ臭そうに言う。
どういうこと?
殿下は……殿下の願いは──
「わ……私との結婚の許可を願ったのではないの……ですか?」
「違うよ。確かに俺はライザと結婚したいからライザの身分保障は必須だよ? もちろん陛下の許可はいずれ必要になるし、その下準備もあって行動はしたけど、でもそれは今じゃない」
「え?」
今じゃない?
そこまで言って殿下は私の顔をまっすぐ見る。
その顔も瞳もとても真剣だった。
「ライザの気持ちも聞いていないのにそんな勝手な真似するわけないだろう? 俺があの場で勝手に陛下に結婚の許可を願い出てしまったら、ライザにとって俺との結婚は命じられた“強制的なもの”になってしまう」
「……」
「そんなのは嫌だ。俺は、ライザの意志で俺を選んで欲しいんだよ」
「……」
言いたいことはたくさんあるはずなのに声も言葉も出なかった。
ただただ、殿下の想いだけがまっすぐに伝わって来て、自然と目から涙が溢れた。
「え? ライザ!? ど、どうしたの!?」
私の涙を見て殿下が動揺する。
さっきまで、あんなにかっこいい事を言っていたのに途端にオロオロし始めた殿下を少し可愛いと思ってしまった。
今度はクスッと笑ってしまい笑みがこぼれた。
「!? 今度は笑っ!? えぇ? ちょっと、どういうこと……?」
ますます狼狽える殿下を見て胸が温かくなる。
(あぁ、私……殿下のことが好きだわ)
そんな気持ちがストンッと自分の胸に落ちてきた。
──この人の側にいたい。この先もずっと。
隣国の王女の娘だなんて言われても、正直、簡単に受け止めきれるものではない。
お母さんがマーサおばさまに言った面倒な運命という言葉。
その通りかもしれない。
ただの平民だったはずの私は、侯爵家に連れられてエリザベスの身代わりを始めた所から、知らず知らずのうちに大きな荷物を背負ってしまったみたいだ。
(でも、殿下はきっとそんな私の荷物を一緒に抱えてくれる人)
荷物を奪うでもなく、一方的に持つのでもなく……一緒に抱えてくれる。
だから好き。
だけど、今も王太子妃に自分が相応しいなんて全く思えない。
ダンスは相変わらず最悪だし、勉強面だってまだまだ駄目なことばかり。
(唯一、褒められたのは熱心さだけ……)
それすらも、噂で聞いていた“エリザベス”なのに、と思われてのことに違いないから。
(だから私は“ライザ”として皆に認めて貰えるようにならなくちゃいけない!)
「……殿下、私!」
私は自分の決意を伝えようと、未だに目の前でアワアワ、オロオロしている殿下に自分から抱き着く。
「ちょっ! ラ、ライザ!? こ、今度は何!?」
「殿下……いえ、セオドア様! 私は───」
あなたの側にいたいです!
私もあなたの事が好きです!!
そう伝えようとしたその時、カツンッと地面に何かが落ちる音がした。
「……?」
何の音かしらと思って下を見るとそこには見慣れた手鏡が落ちていた。
そう。私がテッドから貰ったあの手鏡だ。
でも……
(あれ? 今、私のポケットから落ちたの?)
そんな感じしなかったけどなぁと、不思議に思ってポケットに手を入れる。
そしてギクッとした。
(───え? どういうこと?)
──手鏡はポケットの中にあるじゃないの!!
それなら、今ここに落ちている手鏡は?
私のではない───
「うわっ! びっくりした。落としちゃったか……割れてないといいけど……」
「……!」
そう言って殿下が慌ててその手鏡を地面から拾う。
「で……殿下? それは……」
「うん? どうしたのって、あっ!」
私の視線の先にある、拾ったばかりの手鏡を見て殿下は「しまった……」と言わんばかりの顔をした。




