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君を諦める事は出来ない(セオドア視点)

 


「ごめんなさい! 殿下!!」

「っ! あ、ライザ!?」


 そう言ってライザは俺を突き飛ばしてその場から逃げ出した。


「待ってくれ、ライザ!」


 そう呼びかけるもライザは行ってしまった。


「……はぁ」


 自分が色々と急ぎすぎたことは分かっている。

 ライザからしてみれば、エリザベスの身代わりをしていたという嘘を俺に知られていただけでなく、突然俺に好きだと言われ、更には妃にと望まれた。


(これは話も聞かずにパニックを起こし逃げたくもなる……)


 でも、俺はまだ伝えたいことの半分もライザに伝えられていないんだ。

 だから、このままにはしておけない。


(この場所のことならよく分かっている。そして、こういう時のライザがどこに逃げて隠れようとするかも……俺には分かる)


 ライザはまだ、俺が“テッド”だと知らない。きっと気付いていないからあそこに逃げたはず。

 そう思って俺はライザが逃げたと思われる方へと向かう。


「ごめん、ライザ。俺は君を諦めることは出来ないんだ」



 そう呟きながら、俺はここに来るまでの事を思い返した。



「はい? しばらく街に行って滞在する?」


 俺の言葉にカールトンが怪訝そうな顔を向けた。


「侯爵家から逃げ出したライザは、街にいるはずだ」

「何故、そう思うのです?」

「逃走したものの、ライザは荷物を殆ど持たずに逃げているはずだ。資金だってどれくらいあるか……だから今はまだそんな簡単に遠くには行けない」

「だとしても、殿下。公務が……」


 カールトンが困ったように呟く。


「仕事はするさ。だけど、その合間に俺はライザを探したい。その為には王宮にいるままだと動きづらいんだよ」


 誰か知り合いと会えて匿ってもらえているならそれでいい。

 でも、もしも頼れる人がいなかったら?

 街であんな美少女が一人フラフラしていたら、襲ってくださいと言わんばかりだろう!


「……ですが、そんなに時間は与えられませんよ?」

「構わない」


 そうして俺は王宮を出て街に滞在し、ライザを探すことにした。


 時間が出来ると、ライザと出会ったあの場所にも毎日向かった。

 うまく言葉に出来ないけど、ライザならここに来るんじゃないか?

 そんな気がしたんだ。


 ──そして……ようやく今日、本当に彼女は現れた。

 あの、綺麗な白金の髪は染めているし、眼鏡を掛けていて瞳の色も分かりにくい。

 でも俺には分かるんだ。

 俺の色褪せていた世界にあの日、色をくれたのはライザ、君なんだから。



 そうして、ようやく見つけた彼女には逃げられてしまったわけだけど。


 ───ライザの気持ちが知りたい。

 色々と急かしてしまったけれど、ライザが俺のことをどう思っているのかを知りたい。


 それに、ライザが心配していることはする必要のない心配なんだ。

 エリザベスの身代わりの件だって、侯爵家を罪に問う事はあっても、巻き込まれた被害者のライザを罪に問うことはないのに。

 それに本物のエリザベスのあの様子を見ればライザのことを責める奴なんているわけがない。

 むしろ、使用人たちはライザにこそ戻って来てくれ……そう思うだろう。

 そしてライザが一番懸念しているであろう、彼女が平民だという件。

 だが、“真実”をライザに伝えたらまた、混乱させてしまうだろうか?


───────

────……



『そなたの言う“その娘”が本当に私の妹、ルル……の娘なのか?』

『間違いありません。二十年以上前に行方知らずとなられたルル王女のものと思われる指輪を彼女は持っています』

『指輪……あぁ、ルルの瞳の色の……アレか』


 先日、隣国に赴いた俺は国王陛下へのお目通りを願った。

  “長年、行方知らずとなっている妹君、ルル王女の件で話がしたい”

 そう伝えると妹王女を溺愛していたと言うその兄、現国王はすぐに面会の場を設けてくれた。


『彼女の持っていた指輪の印章は間違いなくこちらの王家のものでした』

『確かにあの指輪はルルと共に所在不明となっているが……本当に?』

 

 当時の隣国の王女、ルル。

 現在は王妹となる彼女は表向きには病気療養の為、いっさい人前に姿を表さなくなり今も療養中と言われているが真実は違う。

 ルル王女は失踪していた。

 王女の行方を案じた父親の元国王と兄の現国王は、国外逃亡の可能性がある事から内密に近隣諸国に王女の事を通達していた。

 その国の王族もしくは要人だけが知る話。

 しかし、肝心の王女は見つからず、無情にも時だけが流れた。


『その娘はルルに似ているのだろうか?』

『私はルル王女の顔を知りませんので』

『それもそうか。よいか? ルルはな……』


 そう興奮しながらルル王女の事を語る陛下はただのシスコンに見えた。

 王女に似ているかどうかは分からないが、ライザが母親の違うエリザベスと似ている事を考えると父親に似ていると思うのだが……

 そう思ったが口にしなかった。


『それで? ルルはそちらの国で誰の子を産んだんだ?』

『……我が国の侯爵家の一つ、マクチュール侯爵家当主ゲールです』

『──マクチュール侯爵家のゲールだと?』


 陛下が意外にも反応を見せたので驚いた。


『ご存知なのですか?』

『何を言っている? ……知ってるも何もマクチュール侯爵家のゲールは───……』

『え?』


 その後、陛下からもたらされた話でずっと疑問に感じていたことがスッキリした。


(だから、ライザとエリザベスは……)


 侯爵の事は調べていたがそこまでは調べていなかったことを悔やんだ。


『まぁいい。それで? そなたはその情報を持って来て何を望むのだ?』

『はい。私が望むのはー……』


────……


そんな陛下とのやり取りを思い出していると、ちょうど考えていた場所に到着した。そしてそこには……


(……ライザ)


 やっぱり思った通り……ライザはそこに居た。

 そして、話も聞かずに俺を突き飛ばして逃げ出した自分のことを強くを責めていた。


「私、最低だ。このまま逃げるのはやっぱり駄目…… 戻って謝って罰してもらうべき……」


 ライザはブツブツとそんなことを呟いていた。

 放っておくと物騒な思考に突き進んでしまいそうなので、俺は慌ててライザの元に向かう。


(俺がライザを罰するはずないだろう?)


 ……まぁ、どうしても何か責任を取りたいと言うのなら、遠慮なく俺の側にずっといるように命令してみようか?

 

(……いや、命令でずっと側にいられるのは嫌だな)


 ライザの意志で俺を好きになって欲しい。

 王太子なんて厄介な立場である俺と生きる道をどうか選んで欲しいんだ。


「……ライザ」


 ライザは俺の所に戻ろうとしていたようで、ちょうど立ち上がった瞬間に俺は声をかけた。

 ビクッとライザの身体が跳ねる。

 そして、おそるおそる振り返ったライザの顔は「どうしてここが……?」そう語っていた。


「ライザ……」

「……殿下。申し訳ございません、私、」


 泣きそうな顔で謝ろうとするライザを見ていたら、たまらなくなって俺は腕を伸ばしてライザを抱きしめた。


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