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第15話 全て知られていた

 


 ──テッド!?


 目の前に現れた人を見て何故か分からないけれど、一瞬そう思ってしまった。

 でも、それは見間違いですぐに違うと思い直す。

 おそらく思い出の場所と記憶に引きずられただけ。


(それよりどうして彼が、ここに……)


 まず、そう思った。

 そして、彼は“見つけた”確かにそう口にしていた。


(見つけたって何? どういうこと……)


 今、私の目の前に現れたのは……殿下。

 セオドア殿下だ。

 本物のエリザベスが戻った今、殿下と私……ライザはもう無関係の間柄。

 殿下が私……ライザを探す理由などないはずなのに。


「……」


 もう二度と会うことも話すことも無いと思っていた。

 この先は王太子として国民の前に姿を現す殿下を遠くから見るだけだと。

 “エリザベス”と結婚した、なんて話を聞いて……私が一方的に寂しい気持ちを抱くだけ……なのだと。

 だから“また会えて嬉しい”そんな気持ちが溢れそうになる。


(私にとって殿下はいつの間にか大きな存在となっていたのね……)


 今更、そんな事実に気付かされるけどこの気持ちは……捨てなくちゃいけないもの。

 必死に自分にそう言い聞かせる。


 それよりも、殿下が“私”を、探す理由とは……?

 そこでハッと思い至る。


(ま、まさか! エリザベスが今度こそ失踪したとか!?)


 あんな性格だったもの……

 王太子妃教育なんて、耐えられなーいとか言って投げ出してもおかしくない……


「……」


 そのことに思い至り、私の顔色はどんどん悪くなる。

 多分真っ青……だと思う。

 どうしたらいい?

 状況が分からないから下手な発言は出来ない。


 何も言えず固まり続ける私を見ながら殿下は言った。


「……髪も染めてメガネも掛けて変装してるけど……俺には分かるよ、君は()()()だ」

「っ!」


 殿下のその言葉に息を呑んだ。

 どうしてバレてしまっているの? 私の変装はそんなに甘かった?


「ライザ? ……ひ、人違いではありませんか? 私の名前はリリアンです」


 ようやく口に出来たのはそんな言葉。

 そして嘘をついている罪悪感と心苦しさから殿下の目が見れない。


(私は殿下にどれだけの嘘を重ねているのかしら)


 これではエリザベスのことで王家を欺き続ける侯爵とやっている事は変わらないのでは?

 そう思わされる。

 

「リリアン?」


 殿下が不思議そうに首を傾げる。そして事も無げに言った。


「その名前も可愛いとは思うけど、やっぱり“ライザ”の方がしっくり来るなぁ」

「!?」

「だって、俺の中では君はずっと昔から“ライザ”だからね」


 え? 昔?

 と、思う間もなく殿下の腕が私に伸びてあっという間に抱き込まれた。

 久しぶりの殿下の温もりに胸が高鳴るけれどそれどころではない。


「俺が君を……ライザを見間違えることなんてあるはずがないだろう?」

「……!?」


 私は必死で殿下の腕の中でもがくも彼は力を緩める気はない。

 むしろ、もっと強く抱き込まれてしまう。


「あのね? 好きな女性ならどんな格好をしていても分かるものなんだよ、ライザ」


 殿下は私の耳元で優しくそう口にした。


 ───ん? 好き……?

 好きな女性?

 誰が誰を?

 殿下が私、ライザを……?


(違う! 私は“エリザベス”のフリをして……だから、殿下が好きなのはエリザベスなわけで……え? あれ、でもそれだと……えぇ!?)


 脳内で軽くパニックになりかけた私に向かって殿下は続けて言う。


「知っていた」

「?」

「君が……今、俺の腕の中にいる君が“エリザベス・マクチュール侯爵令嬢”ではないことを俺はずっと知っていた」


 ガンッと鈍器を頭で殴られたかのような衝撃を受けた。


「君の名は……君の本当の名はエリザベスでもリリアンでもない。“ライザ”だ」

「……あ」

「ライザが、エリザベスのフリをして王宮に上がっていたことも分かっている」

「……!」

「そのうえで、俺は君を……ライザのことを好きだと言っている」


 動揺で殿下の目が真っ直ぐ見られなかった。

 そんな視線を泳がせている私の目をはっきり見ながら殿下はそう口にした。

 その目も表情も何もかもが真剣で嘘ではないことが伝わって来る。


(どうしよう。頭の中での処理が追い付かない)


 殿下が私のことを好き?

 そんな殿下は初めから私がエリザベスではないことを知っていて……?

 私のことを“ライザ”と呼ぼうと決めたのも、それを知っていたから──??


 あぁ……

 身体の力が抜ける。

 殿下に抱きしめられているおかげで倒れたりはしない。

 それでも、頭の中は大混乱だ。


 でも、そうよ。

 あの時エリザベスに向かって私は自分で口にしていたわ……

 殿下は“私”に優しくしてくれた……“エリザベス”に優しくしてくれたわけではない、と。


(私、心のどこかで分かっていたのかも)


 殿下はちゃんと私を……ライザを見て大切にしてくれているんだって……


(……嬉しい)


 ただただ、その気持ちがが純粋に嬉しい。

 でも、一気に不安が押し寄せる。

 このまま殿下の言葉を、“ありがとうございます”と受け取ることは出来ない……

 だって侯爵に言われるがまま殿下に嘘をつき続けた事実は消えない。

 

 そう考えた私が顔を曇らすと、まるでその考えを読んだかのように殿下が言った。


「俺に嘘をついたことを気にしている?」

「……許される話ではありません。私は罰を受けるべきです」

「そっか。それだと知っていて黙ってた俺も処分の対象かな?」

「……なっ!」


 そんなの駄目!

 そう思った私が顔を上げると殿下と目が合った。

 殿下はとても優しく微笑んでいる。


(どうして、そんな目で……!)


「それよりいいの? ()()()()。君は今、そう口にしたことで自分がライザだと認めたことになるけど?」

「ぅあ……!」


 しまった! 私は今、リリアンで……あぁぁ、もう遅い……

 動揺する私に殿下は続けて爆弾発言を投下する。


「……君が好きだよ、ライザ。俺はエリザベスではなく、君を……ライザを俺の妃として迎えたい。そう思っている」

「……!」


 あまりの衝撃発言に目を大きく見開く。

 私を妃に?

 殿下は何を言っているの?


「む、無理ですよ、だって私は……」


 貴族のマナーをどれだけ学んでも、たとえ王太子妃教育に合格点を貰えても……

 私は平民だ。

 私は侯爵の娘ではあるらしいけれど、侯爵家に正式に引き取られたわけではない。

 そもそも、あんな人の所に引き取られたいとも思えないし。


(だから殿下の隣には立てないわ。そんな資格……ない)


 たとえ今、私が嬉しい……自分もあなたの側にいたい……心からそう思っていても。


「混乱させて申し訳ないと思っているよ、ライザ。でも、聞いて欲しい。無理ではないんだ。なぜなら君はー……」

「ご、ごめんなさい! 殿下!!」

「っ! あ、ライザ!?」


 話を聞いて欲しいと言った殿下の言葉を遮って、私は殿下を突き飛ばし…………その場から逃げるように駆け出した。


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