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私こそが王太子妃に相応しい!②(エリザベス視点)

 


 ──無事に入れ替わりも終えて、これからのバラ色の日々を想像していた私の元に驚きの連絡が入った。


「え? ……殿下がお戻りになられた?」

「はい。急遽、予定を変更しこちらに戻られるそうです」

「まぁ!」

「日付が変わる前には戻られるかと」


 なんてこと!

 お父様の話では一週間は帰って来ないと言っていたのに。

 まさか、こんなに早く会えるなんて!


「分かったわ。なら、最高の私でお出迎えしないとね! ふふふ。さぁ、支度をするわよ!」

「……は、はぁ」


 何だか変な顔をして私を見てくる侍女にもっと派手なドレスはないのかと聞いたら、ますます変な目で見てくる。


 当たり前でしょう? さっさと着替えたいのよ!

 今、私が着ているこのドレスは、現在この部屋のクローゼットにある地味なドレスと同じ様な異母妹が侯爵家で着ていた地味~なドレスなんだから!


(ま、おかげで入れ替わりもスムーズにいったからいいけどね)


 そうそう。

 変だと言えば……

 さっき、私を部屋まで案内した護衛の様子もおかしかった。

 部屋に着いたとたん、まともな挨拶もしないで凄い勢いで戻って行ったのよね……

 何あれ、すごく失礼。


(なんなの? ここの人達。私を誰だと思っていて?)


 そう怒鳴り散らしたいけど今はまだ我慢。

 そういうことは殿下を私の虜にしてからでないとね!

 でも、私の方があの身代わりよりも数百倍は美しいのだから、すぐ虜になるのは分かりきっているけれど!



 そうして、とうとう殿下が戻って来たわ!


「殿下、おかえりなさいませ!」


 私は最高の笑顔で殿下を出迎える。

 殿下はよほど急いで戻って来たのか、少し疲れた様子だった。


(まあ! これは私が癒して差し上げないと!)


「…………あぁ、戻ったよ…………エリザベス嬢」

「殿下?」


 あら? 気のせいかしら。声が冷たい……ような。

 これは疲れているせい?


「急遽、予定が変更だなんて大変だったでしょう?」

「……そうだね」

「殿下、お疲れでしょう? 今夜は私が……」


 私はそっと殿下に近付き彼の腕を取ろうと手を伸ばした。


「──いや。それには及ばない。結構だ。遠慮させてもらう」

「……殿下?」


 私の手を振り払うようにして殿下が一歩下がった。

 行き場を失っ私の手が間抜けに見える。


(はぁ? ちょっとどういうことよ? 婚約者であるこの私が誘っているのよ!?)


「っ! 殿下、ご遠慮なさらず……」

「疲れているんだ。悪いが一人にさせてくれないか? こんな時間だし君ももう休むといい」

「え? あ……」


 それだけ言って殿下はくるりと身体の向きを変えて奥の部屋へと行ってしまった。

 そうして私はその場に一人取り残された。

 私はギリッと唇を噛む。


 ──理由は知らないけど、急いで戻って来たのだもの。

 疲れていて今夜が“その気“にならなくても仕方がないわ。

 でも、明日からは……!


 そうして迎えた翌朝。


「は? 朝食は別?」

「はい。殿下はとっくに朝食を済まされ、すでに公務を開始しておりますゆえ、エリザベス様はこちらでごゆっくりどうぞ」

「ちょっと待って? 私は殿下にお会い出来ないの?」

「お忙しい身ですから」

「……」


 は? どういうことよ? 話が違うじゃないの!

 納得がいかず、殿下の側近だというこの男を睨みつけた。

 それなのに、その男は顔色一つ変えずに私に向かって言った。


「エリザベス様。朝食の後はこれまでの総復習を致しましょうか」

「総……復習?」


 何よそれ、とっても嫌な予感しかしない言葉なんだけど!!


「もちろん、()()()()()()()()()()()の総復習ですが?」

「えっ!」


 思わず私の顔が引き攣る。

 やめてよ、冗談でしょ? なんで今?


「おや? 先日、その話をしたら、あなた様は頑張ります! と笑顔で答えていたではありませんか」

「っっ!」

 ちょっと身代わり異母妹! 何勝手に安請け合いしてるのよ!


「……きょ、今日は気分が乗らないわ……別の日にしてちょうだい?」

「そうですか……殿下にはそのように伝えておきますね」

「待って! で? 殿下に……伝えるの?」

「当然でしょう?」

「っ!」


 何を馬鹿な事をと言わんばかりの顔で、殿下の側近……カールトンとか言ったかしら? は首を傾げた。


(どいつもこいつも私をバカにしてっ!!)


 私は怒りで両拳をギュッと強く握りしめる。

 だけど、困ったわ。

 この調子では、部屋の改善もドレスの改善も言いづらいではないの。

 ──いえ、でも言わなくちゃ!

 私は髪をかきあげ、足を組み直してから、カールトンに告げる。


「ねぇ、私の部屋とドレスの事なんだけど」

「何でしょう?」

「ちょっとこれまでは黙っていたけれど……部屋が手狭な気がするの。それと、ドレスもちょっと地味な気がして……ほら、未来の王太子妃には華やかさも必要でしょう?」

「……」


 え、何? どうして黙り込むの?

 少しの沈黙の後、カールトンは、ため息を吐きながら言った。


「全て用意したのは殿下ですが……そうですか、それも気に入ってはいなかったと。分かりました、これも殿下に報告しておきましょう」

「え! ちょっと待って、気に入っていないわけじゃ……」


 私は慌てて止める。

 その言い方だと明らかに私への好感度が下がってしまう。


「そうですか? それなら、そのままでよろしいではありませんか?」

「うっ!」


 おかしい。何一つ私の思い通りにいかない。

 こんなはずではなかったのに!!


***


 身代わりの異母妹と入れわってから数日後。


「どういうことよーー!!」


 数日も経ったのに、殿下が私に目もくれない!!

 なんで会えないの?

 誰に何を聞いても「殿下はお忙しいのです」ばかり!

 

「何故だか分からないけど、公務の合間に頻繁に外に出ているらしいのよね……」


 “エリザベス”のことを気に入ってるはずなのに……

 さっさと既成事実を作って私の立場を安定させたいのに、その誘いすら出来ないってどういうことなのよ!

 私のこの美貌よ? 絶対にすぐ手を出してくると思ったわ。

 なのに手を出すどころか、前評判通りの冷たさ……


「あの身代わり異母妹は“エリザベス”として上手くやっていたはずなのに! 何が違うのよ!」


 殿下は“エリザベス”を愛するようになったのではなかったの?

 姿絵と釣書で“私”を選んで、王宮に上がった“エリザベス”を気に入って……


(“あのこと”をなんて誤魔化すかをずっと考えていたのに何なのよ!!)


「それに、周りの態度もなってないわ!」


 未来の王太子妃を敬う姿勢が全く見えない。

 どこか冷ややかな目で私のことを見ている気がする。


「どいつもこいつも腹が立つ! ……私が無事に妃となったらもれなく全員クビにしてやる!」


 その為にも早く殿下とは結ばれないと……!


「……お父様に相談しなくちゃ」


 私の気持ちは苛立ちと焦りばかりが募っていった。


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