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27.嵌められたのは

「私が手引きしますから、すぐにここを出ましょう!」


 グータラ出来なくなるショックからぼう然としていると、レーネが扉の鍵を開けようと動き出す。


「余計なことをしないで頂けるかしら?」

「余計なって、どういうことですか!? 私はベネディクト様を助けようと……」

「なんであなたが私を助けるの?」

「え?」

「あなたは私の家族でもなければ友達でもない。それなのにわざわざ危険を承知で牢獄にまで会いに来て、挙句、私を助ける? 理解できないわ」

「ベネディクト様はお兄様の婚約者です。それだけで私には助ける理由があります。ベネディクト様に何かあれば、悲しまれるのはお兄様ですから……」


 レーネが悲しそうに目を伏せる。

 その演技に思わず顔が歪む。

 私とクリストハルトとの婚約解消を一番望んでいる人間が、よく言うわ。

 白々し過ぎて反吐が出る。


「脱獄したように見せかけて、私を殺そうという魂胆なのでしょ。殺害予告犯の私が脱獄して死んでいたとしても、自業自得で片付けられるでしょうからね」

「酷い……。私は純粋にベネディクト様を助けようとしているだけなのに……」


 まだ本性を現さないのね。

 もしかして私がどこまで真相を知っているのか分からないから、出せずにいるのかしら?


「自分の親や妹を焼き殺せるくらいの人間なら、もう一人始末するくらいわけないわよね」


 不敵に笑うと、先程まで可憐な女性を演じていたレーネが真顔になった。


「そういえばサンドラの婚約者があなたにとっても会いたがっていたわよ。自分が注文してあげたお酒で、伯爵邸を燃やしたのか確認でもしたいのかしら?」


 令息はきっと好意で会いたいと言っているのだろうが、レーネの本性を出したい今はこの方が効果的だ。


「ふっ……ふふふっ……」


 案の定、清楚な女性を演じても私がついてこないと悟ったレーネが、口角を上げて笑い出す。


「まさかそこまで調べていたなんてね。悪女視点ってやつかしら?」

「自分が火事を起こしたって認めるのね?」


 私の問いに、レーネがゾクリとするような笑みを浮かべる。


「そうよ。だって遺産を相続するなら私一人いれば十分でしょ。それにあいつらが生きていたら邪魔でしかないわ」


 恨みが強いのか、吐き捨てるように言い放つ。


「私は今、とても幸せなの。素敵な男性に囲まれて、遺産を相続しただけで周りもちやほやしれくれる。最高のお姫様気分を味わっているの!」


 酔いしれているような様子から一変、冷やかに私を見据える。


「だからその世界を壊そうとしているあんたも、あいつら同様邪魔なのよ」

「でも残念ながら、もっとも安全な場所に隔離されている私の口封じは難しいでしょうね。言質もとれたし、朝には全てを暴露してあなたと立場が逆転できそうだわ」


 煽ろうとするも、レーネは馬鹿にしたように声を上げて笑い出した。


「あははっ! あなた本当に馬鹿なのね。なんで私が今、ここにいられるのか考えもしないの?」


 看守を味方に付けていると言いたいのだろう。

 それよりも、誰かから私が馬鹿だと聞かされていたのだろうか?

 心当たりが多すぎて、犯人が特定できないわね。

 真顔に戻った私を見て、満足そうに鼻を鳴らす。


「私から見ればあなたは今、檻に閉じ込められた小鳥のようよ」

「あら。この私を小鳥扱いしてくれるなんて、優しいところもあるようね」

「随分と余裕のようだけど、羽を捥ぎ取られても同じことを言っていられるかしら?」

「回りくどい言い方をせずに、私をどうするのかはっきり仰ったらどうかしら? ああ……それとも、令嬢ぶりたくてわざと遠回しな言い方をしているのかしら? 小間使いのレーネさん」


 癪に障ったのか、ギリッと奥歯を噛みしめる音が聞こえる。

 しかし自分の方が優位だと考え直したのか、悪女顔負けの笑みを向けてきた。


「笑っていられるのも今のうちよ」


 自分の服の中を探るような音が聞こえてきた。

 そして続けて衝撃的な一言を放つ。


「あなたは私に殺されるのだから!!」


 ……その言葉。

 待ってました!!


「捕らえろ!!」


 牢屋に男性の声が響き渡る。

 次の瞬間、どこからともなく現れた看守達が一斉にレーネに襲い掛かる。

 ドサリと押さえつけられたような音とともに、カラカラと何かが転がる音がした。

 小窓から外の様子を窺うと、看守達によって地面に押さえつけられたレーネが、目の前に現れた男性を見上げていた。


「フィ……フィルベルト……」

「グレーデン公爵令嬢殺害未遂と伯爵邸放火の疑いで捕縛する」


 フィルがレーネを見下ろす形で宣言する。

 すると近くの騎士が、転がっていた小瓶のような物の蓋を開ける。


「なんだこれは!? 酒か!?」


 たまらずすぐに騎士が蓋をするも、こちらまで漂うアルコール臭に思わず鼻と口を塞ぐ。

 相当濃度の高いお酒なのだろう。


「伯爵邸を放火した時に使った酒の残りか。これだけ濃度が高いと、臭いだけで酔うだろうな。換気の悪いこの部屋に投げ込み、ネディが酔ったところで殺すつもりだったのだろう?」


 確信しているようなフィルに、レーネは黙ったまま地面に視線を落としている。


「だから教えてあげたでしょ。朝には立場が逆転できそうだって」


 小窓から勝ち誇ったようにレーネを見下ろすと、レーネが悔しそうに私を睨んだ。

 実はカロリーネの件があって、もしかしたらレーネが私に接触してくるかもしれないと、私もフィルも考えていた。

 レーネはきっと、私がレーネを調べていることを聞かされ、私がどこまで真相に行きついているか探ったはずだ。

 そこで私がフィルと共に伯爵領に向かったことを知った。

 私達が真相を突き止めていたらまずいと思ったレーネは、私が王都に入る前に捕らえさせ、どこまで真相に近付いたのか聞き出すつもりでいたのかもしれない。

 もし私が全てを知っていたら殺すつもりで……。

 フィルも何らかの方法で狙うつもりだったのかもしれないけれど、私が捕らえられてから忙しく動き回っていたため、接触が出来なかったのだろう。

 そのため私から狙うことにしたようだ。

 私が釈放される前には接触はしてくるだろうと思っていたから、タイミングを見計らって捕らえるように計画を立てることができた。


 ここまで上手く事を進められたのは、カロリーネの件で箝口令を敷いていたからというのもあるだろう。

 私がカロリーネを使って馬車を襲ったという話になった時、実際に兵達が私を捕らえようと動いていた。

 レーネはその情報を得て、自分がカロリーネを誘導したとは誰も気付いていないと思ったに違いない。

 だからきっと今回も私を捕らえれば、万事上手くいくと高を括っていたのだ。

 だが実際は、カロリーネの時にレーネを招き入れた看守は内密に処罰を受けている。

 しかしフィルから今回の件を協力すれば減給に留めると言われ、レーネを再び招き入れさせるために協力させたのだ。

 そしてその陰にはクリストハルトの協力もあった。

 王都に残っていたクリストハルトはレーネを見張っていたのだが、偽装した手紙をレーネが直接公爵に持って行ったらしく、事前に止めることができなかったそうだ。

 経緯をしたためた手紙を受け取った私は、クリストハルトにレーネが密かに屋敷を出るようなら早馬で知らせて欲しいと伝えておいた。

 だからレーネが私の元に来る前に、準備を整えられたいたというわけだ。


「フィルベルト様」


 部屋の鍵が開けられている間に回想をしていると、一人の看守が敬礼をしながらフィルを呼び止める。


「ヴァールブルク公爵閣下より手紙を預かっております」


 手紙を受け取り、中を確認するフィル。

 これでレーネを尋問すれば、真相が全て明らかになるわね。

 遺言の真偽に関しては後手に回ってしまったけれど、仕方ないか。

 私は部屋を出ながら連行されていくレーネを見送る。

 すると手紙を読んでいたフィルが口を開く。


「父がネディに謝罪したいって言ってるんだけど、どうする?」

「情報が早いわね」


 レーネは今、捕らえらればかりなのに、もう公爵に情報が渡っているの?


「実は放火の事実が明らかになった段階で、父に手紙を送っておいたんだ」


 フィルがとった行動の理由が分からずポカンとしていると、困ったような顔をされた。


「今なら迷惑をかけられたネディが直接頼めば、手紙を見せてくれるんじゃないかなと思ったんだ」

「ああっ!!」


 納得したように声を上げる。


「確かに絶好の機会だわ!! お手柄よ、フィル!」

「俺はネディのために最善を尽くすだけだから」


 微笑まれて顔が熱くなるのを感じる。

 忘れていたわ……。

 私、フィルから熱い告白を受けていたんだった!!





読んで頂きありがとうございます。

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