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21.イケメンは何を着せてもイケメンだ

 二人を連れて次に向かった先は……。

 ショーウィンドウに飾られた、見たことがある物に眉を寄せる。


「これ、ネディの服に似てない?」

「どうしてこんなところに貴方の服が飾られているのですか?」


 それは私が聞きたい。

 店に入ると店主が私の顔を見て顔を綻ばせる。


「お嬢様! よくお越しくださいました! 以前お嬢様から頂いた服は大事に飾らせて頂いております! あの服を着たいと仰るお客様が多くて、あの服を見本に作った貸衣装を始めたらこれが大盛況でして! それもこれも全てお嬢様のお陰です!」

「そ……そう……」


 まさか私の服から新たな商売が始まるとは……。

 ようはあれよね。プリンセスならぬお嬢様になりたいという女性の願望を、私の服を利用してこの店が叶えてあげていると。

 ま、まあ市民の役に立てたのなら良かったのかもしれないけど。


「この服、試着してみてもいいですか?」


 フィルが一着の平民服を手に取り、店主に見せた。

 いつも高級店ばかりを利用するフィルにとって、市民が利用する洋服店は珍しい物の集まりなのかもしれない。

 店主はどうぞどうぞと、二つ返事で快諾する。

 試着室で着替えるフィルを待つ間に情報収集をしようと店主に尋ねた。


「最近、私以外の貴族令嬢がこの店を利用しなかった?」


 すると店主の顔が嫌そうに歪んだ。

 露骨すぎる。何かあったの?


「いらっしゃいましたよ……傲慢な貴族令嬢が」


 まさか私の事じゃないわよね?


「服を買いたいと来られたのですが、購入した服を試着室で着替えた後は、着ていた服をそのまま放置して出かけたかと思えば、戻ってきたら試着室でまた着替えて、買った服を預かれと言ってきたのです。挙句にその日以降、ほぼ毎日のように試着室だけ利用するので迷惑極まりない客でしたよ!」


 一度買えばお客様的な?

 なんだかおばちゃん根性がある令嬢だな……。


「しかも酷いのが、もういらないから買い取れと命令してきたのです! 断ると『貴族令嬢に逆らう気?』とか脅してきて! お嬢様とはまるで正反対のような令嬢でしたよ!!」


 怒りが収まらないのか、店主がまくし立てる。

 きっと前世の記憶がない私なら、ケチな部分以外は同等の対応をしていたかもしれない。

 それにしても中古品を買い取れとか、随分とドケチな貴族令嬢のようね。

 さすがにこれはレーネではないかもしれない……。

 特徴を聞こうとしたところでフィルの着替えが終り、カーテンレールが開かれる。


「ネディ、どうかな?」


 たぶん普通の人が着たら格好悪いとなるであろう服装も、モデルのようなフィルが着ると大人可愛さが演出されてしまうから不思議だ。


「フィルは何を着ても似合うわね」


 素直に褒めると、フィルが嬉しそうに笑った。


「これを着ていれば平民の恰好をしたネディとお揃いになるかなと思って」


 はにかむフィルに胸が撃ち抜かれる。


「良かったらこの服もネディの服の隣に飾って下さい」


 フィルが今まで着ていた服を店主に渡すと、店主が大喜びした。

 そんなやり取りを静かに見ていたクリストハルトが、おもむろにかかっていた服を取り試着室へと向かう。

 着替えて出てきたクリストハルトの姿に頬が引きつった。

 この兄弟。なんでこんなになんでも着こなせるの?

 身に付けているのは平民服なのだが、不思議と気品溢れる服に大変身したのだ。


「ベネディクト嬢、私の恰好はどうですか?」

「……とてもお似合いで……」


 二人ともどうして私に意見を聞くの?

 絶対に二人の方がセンスあると思うのだが……。

 そんな私の心情をよそに、クリストハルトは満足そうだ。


「私の服も彼女の服の隣に飾っていいですよ」


 そう言ってクリストハルトはフィル同様に、着ていた服を店主に差し出す。

 イケメン二人の服を入手した店主はウハウハ。

 王子様ならぬお坊ちゃま体験の商売でも考えているのかもしれない。


「ところでその令嬢の特徴を、覚えている範囲でいいから教えてもらえないかしら」

「緑の目をした薄茶色の長い髪の令嬢でした」


 レーネと見た目が一致したのだけど……。

 本当にレーネなの? さすがにドケチすぎない??


「他には何か言っていなかった?」

「最初に服を買われた日は集積所の場所を聞かれました。その数日後にあちらの外套を買われた時は、『かげひなた』に用があると言っていましたね」


 そう言って店主が指したのはフード付きのマント。


「『かげひなた』?」

「雨漏りの修理から、探し物までなんでもこなしてくれると評判のお店のことだよ」


 私の問いに反応したのは店主ではなくフィルだった。

 いい印象のお店のようだけど、『かげひなた』って単語だけ聞くと、表裏がある印象になるけど?


「平民の味方っていう意味で付けられた名前だと聞いたことがあります」


 店主が自慢気に補足する。

 つまり弱い者に味方して、強い者には逆らうってことなのかな?


「王都の市民はあそこの店にいつも助けられていますからね。もちろん私にとってはお嬢様が一番ですけどね!」


 随分と私の服で儲けているようだ。

 とりあえず目の色は、配達のお兄さんと服屋の店主の情報と一致した。

 そして集積所の場所を聞いたことからも、レーネの可能性は高い。

 性格だけは……ちょっと疑わしいが。

 あとは服屋の店主が最後に言っていた『かげひなた』。

 平民が感謝するような店に、マントを着て素性を隠して行ったというのが気になるわね。


 店主にお礼を言って店を出ると、早速店主が二人の服を飾る姿がショーウィンドウに映る。

 チラリと私の隣に立つ二人を見上げる。

 今からこんなにキラキラした顔の平民服を着た二人を連れ歩くの?

 それこそ伯爵令息じゃないけど、周囲から女王様みたいな勘違いされたりしないだろうか?


「とりあえずその『かげひなた』とやらに言ってみましょうか」


 次の目的地を告げると二人が立ち止まる。


「あの店にベネディクト嬢を連れて行くのは反対です」

「別に付いてきて欲しいとは頼んでいないから」

「そうじゃないんだよ、ネディ」


 クリストハルトを睨む私をフィルが止めた。


「とりあえず馬車の中で話をしましょう」


 クリストハルトに促され馬車に乗り込む。


「それで? 何で反対したの?」

「店主が言っていた外套を羽織って『かげひなた』に行ったということは、おそらく裏稼業の依頼をしたのではないかと思います」

「裏稼業?」

「『かげひなた』の実態だよ」

「あの店は平民に対してはとても良心的な店で、タダ同然で仕事を引き受けることもあると言われています。だけどそれを維持できる資金をどうやって賄っているか……」


 お金のある人間からの義援金で賄っている?

 でも裏稼業って言っていたよね。


「裏稼業って……まさか……!」

「そうです。貴族からの負の依頼もこなしているのですよ」


 二人が神妙な顔で私を見つめる。

 日のあたる場所と日のあたらない場所を意味する、『かげひなた』。

 だからこの名前なのね。

 ということは……?


「カロリーネの署名を偽造した犯人も分かるかもしれないってことね!」


 目を輝かせる私に二人は絶句する。

 私、間違った事言っていないよね?

 だって強盗犯雇ったならその店使った可能性が高いし?


「実はもう、その事件については情報収集が終わっているんだよ」

「え?」

「『かげひなた』の支配人が、リースマン侯爵令嬢が『かげひなた』で依頼されたと聴取に応じたそうですよ」

「あちらもヴァールブルク公爵家が狙われたとあって、捜査に協力的でね。署名も馬車を襲った強盗犯もすぐに引き渡してくれたんだ」

「でも署名は偽物なんだよ。署名した人物については何か言っていなかったの?」

「女性というのは分かったけど、顔は隠れていてよく見えなかったって」

「そう……」


 口元に手を当てて考え込む私に、二人が顔を見合わせた。

 『かげひなた』ではもう、得られる情報がないと思っているからだろう。

 本当にそうだろうか?

 裏表がありそうな『かげひなた』という店名からして、素直に聴取に応じたということに違和感がある。


「直接話を聞きたいわね」

「「え!?」」


 嫌な予感に兄弟の声が重なる。


「さあ、次は『かげひなた』に行くわよ!」





読んで頂きありがとうございます。

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