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20.犯人の手がかりを追って

 それにしても二人はレーネの所業に全くショックそうじゃないんだけど。

 レーネはヒロインなんだよね?


「二人ともレーネはそんなことをしないって疑わないの?」


 すると二人は口を揃えて即答。


「裏がありそうな感じだったから」

「裏がありそうな女性でしたから」


 再度自分に問う。

 レーネってヒロインなんだよね?

 結ばれるべき相手に裏がありそう宣言されるヒロインって……。

 もしかして私の行動が変わったから?


「いつから裏がありそうって思ったの?」


 またしても二人が声を揃える。


「初めて会った時から」

「初対面からです」


 つまり最初に会った時から二人ともレーネに悪い印象があったということ?

 だとしたら私の行動は全く関係なくない?

 それとも私の前世の記憶が戻らないまま暴走し続けていたら、断罪されてレーネがヒロインになっていたとか?

 ヒロインも悪役も悪女ってどんな物語よ。

 でもクリストハルトは少なくとも、私を嫌っている時からレーネを警戒していたってことだよね?

 その前に、クリストハルトってレーネに構っていたから私の見舞いに来なかったんじゃないの!?


「おかしいわね。湖に落ちた後、クリストハルト様はレーネに夢中だから私の見舞いに来れないと聞いたのだけど?」


 あくまでも私を利用していたカロリーネ情報だが。

 訝しそうにクリストハルトを見つめる。


「レーネに構っていたから見舞いに行かなかったわけではありません……」


 クリストハルトは気まずそうに視線を逸らす。


「その……すぐに助けなかった事が申し訳なくて、会わせる顔がなかったのです」


 そういえばどうやって岸まで辿り着いたのか覚えていない……。

 今の話では最終的にクリストハルトが助けてくれていたってことだよね。


「私、あの時の事をあまり覚えていなくて、てっきり自分で岸まで辿り着いたのかと思っていたわ」

「一度はベネディクト嬢自身で浮き上がってきましたが、そのまま力尽きたので……」


 それでもすぐに助けようとしなかった事は事実だったんだ。

 だけど溺れた時よりも悲しみを感じない。

 きっとこの数ヶ月で、私の中のクリストハルトに対する気持ちに距離を置けるようになったのかもしれない。

 その証拠に今の私の心はとても穏やかだ。


「そうだったの。助けてくれたお礼を言っていなかったわね。ありがとう」


 素直な気持ちでクリストハルトにお礼を言うも、そっぽを向かれた。

 せっかくお礼いってあげたのに、その対応はないんじゃないの?

 不貞腐れる私の前には、訝しそうに隣に座るクリストハルトを見つめるフィルの姿があった。


 私達がまず向かったのは、ドM令息がいる伯爵邸である。

 私を騙った犯人がレーネであると確証が欲しかったからだ。

 カロリーネ、私と立て続けに起こった身近な人間の筆跡偽造問題。

 同じ筆跡を真似るという技法が使われたことからも、繋がりがないとは思えない。

 伯爵邸に到着し令息に面会を求めると、応接室に通された。

 私を真ん中に両隣りに座る兄弟。

 そこに転がり込むように部屋に入ってきたのはドM令息だ。


「また会いに来てくれたのですか、僕の女王……」


 恍惚な笑みを浮かべていた伯爵令息の顔がみるみる青ざめる。


「ネディを独占できると思うなよ」

「私の婚約者に変なあだ名を付けないで下さい」


 兄弟二人に訳の分からない説教をされたドM令息は、心なしか落胆したように私の向かいのソファーに腰をかける。


「早速だけど、偽の私との手紙のやり取りはどうしていたの?」


 偽の手紙という証拠は残ってはいないが、レーネが犯人ならヴァールブルク公爵家の使用人に頼む事はできない。

 となるとどうやって手紙の受け渡しをしていたのか。


「毎回同じ番号が書かれた封筒が一緒に同封されていました。僕はその封筒に手紙を入れて配達員に渡していただけです」


 番号しか書いていない封筒でどうやって届くというの?

 そういえば前世では、コインロッカーを使った荷物の受け渡しという方法があったわね。

 確かロッカー番号と暗証番号で受け渡し可能とか……。

 もしかしたらそういうサービスが、ここでも存在しているのかも。

 令息に書いてあった番号を聞き、さっそく郵便が集まる集積所に向かった。

 もちろんあっさり帰る私に恍惚な笑みを浮かべたあと、青ざめている伯爵令息を放置して。


 集積所には予想通り番号の鍵付きのボックスがあった。

 このボックスのメリットは自らが足を運ぶため、配達員よりも早く荷物が受け取れる事であり、長期的なやり取りをしたいと希望される人に、専用ボックスの番号が付いた鍵を渡している、と受付の人から説明を受けた。

 主に何度も同じ相手とやり取りをする商人達が使用しているそうだ。

 しかし肝心の客についてだが、誰が借りたのか名簿を見せてもらったが、分かったのは『サンドラ』という人物が、リースマン侯爵家で行われた舞踏会の前日に鍵を返しているということだけだった。

 溜息を吐いていると、戻って来ていた配達員のお兄さんが私達に声をかけてきた。


「その番号の女性ならよく覚えているよ」

「その話、詳しく聞かせなさい!」


 かぶり付きでお兄さんに迫ると、私の形相が怖かったのか、お兄さんが一歩後ろに下がる。


「ネディ。落ち着いて」

「婚約者の前で他の男に迫るのは感心しませんよ」


 兄弟二人が私をお兄さんから引き離すと、お兄さんも安堵したように胸をなでおろす。

 手綱を引かれているような関係になっているのは、気のせいだろうか?


「それでその女性というのはどういう女性だったのですか?」


 一息ついているお兄さんに、クリストハルトが紳士的に尋ねる。

 さすがはクリストハルト。普通は庶民相手ならタメ口で話すところも、情報を聞き出すために丁寧に対応している。

 男性もそんな紳士的な対応のクリストハルトに感動したのか、姿勢を正して丁寧に答えてくれた。


「この鍵を利用する客のほとんどは商人か平民になりますが、この女性は平民なのに貴族令息と手紙のやり取りをしていたので、覚えています」


 平民と言い切るということは、平民のような恰好をしていたということかな?


「平民以外の特徴は覚えていないの?」


 私が尋ねると、さきほどのかぶり付きを思い出したのか、お兄さんが眉を寄せながら体を少し引いた。

 噛みついたりしないのに、酷くない?


「髪はスカーフで隠れていたので見えませんでしたが、一度話しかけた時に見つめられたあの魅力的な緑色の目には、胸が高鳴りました」


 緑色の目。レーネの特徴と一致するわね。

 だけど今のところ目の色以外、レーネと断定できる要素はない。

 配達員のお兄さんにお礼を言い、集積所を後にした。


「ネディ、どこ行くの?」


 考え込みながら歩き出す私の後ろを二人が付いてくる。


「お兄さんは『サンドラ』という女性を平民女性だと言っていたわ。貴族令嬢が平民女性に見えるようにするには格好を変えればいいだけ」


 レーネは一度、私の平民姿を見ている。

 時期的から考えても、もしかしたらそれを見て真似たのかもしれない。

 簡単に平民の恰好に化けられるといえば、きっとあそこだよね?





読んで頂きありがとうございます。

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