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1.私は悪役令嬢?

 私の今世の名前はベネディクト・ハンス・グレーデン。

 今年十八歳になった、グレーデン公爵の可愛い一人娘。

 自分で可愛いというあたり、私がどういう幼少期を過ごしていたのか想像に容易いだろう。

 そう。私は父である公爵に、とっても可愛がられて育った令嬢といったところだ。

 しかし湖で溺れたことで思い出したことがある。

 それは、私の前世は日本人だったということ。

 今世の私が我儘令嬢だとしたら、前世は人と揉めないようにヨイショしながら生きていた。

 まさに社畜の鏡のような人間!

 今世で我儘なのって、その反動?

 そんな前世の趣味はライトノベルを読むこと。

 特にざまぁは大好物。

 私のストレス発散に一役も二役も買っていた。

 あの頃は今とは真逆のストレス社会だったな……。

 過ぎた日のことはどうでもいい。

 問題は、私が前世の記憶を取り戻し、転生先が我儘令嬢だったというところだ。

 これはまさに……。


 悪役令嬢そのもの!!

 私自身がざまぁをされる立場になったのだ!!


 マズい! 非常にマズい!!

 何がマズいって?

 ライトノベルで描かれる登場人物たちは、転生と気付いてからは小説の中とかゲームの中とかある程度の情報が与えられる。

 だが……。


 全く情報がない!!


 この世界がなんの小説なのか、なんのゲームなのか、さっぱり分からない!

 ということは、先読みして動くことも、自分がどういう断罪をされるのかも全く分からないから、どう立ち回っていいのかも分からない!

 分からないオンパレードなのだ!

 私はあらゆるライトノベルの内容を思い出す。

 その結果、導き出された答え。


 可愛い女の子と美青年には近づくな。


 いやいや!! もうすでに美青年とはお近づきになっているし!!

 一緒に小舟に乗っていた彼。

 彼の名前はクリストハルト・アウレール・ヴァールブルク。

 ヴァールブルク公爵家の長男で、私の一つ年上の十九歳。

 私は幼少の頃から彼に夢中になっていた。

 だから我儘令嬢の私が次にとる行動は決まっているよね。

 一方的な婚約。

 ……終わった……。

 だが! まだ諦めない!

 何故ならヒロインらしき子には会っていないから!

 今まで出会った令嬢を振り返っても、クリストハルトが目にかけた子はいなかった。

 だったらヒロインとのいざこざが起こる前に、婚約解消をして王都から逃げる!

 部屋で考え込んでいると、湖に落ちた私を心配した友達の侯爵令嬢カロリーネ・ロミルダ・リースマンが見舞いにやって来た。


「お元気そうで安心しました。湖に落ちたと聞いた時は驚きましたわ」


 室内の中央に設置してあるソファーにお茶が用意されると、カロリーネが話始める。


「クリストハルト様はお見舞いにいらしていないようですね……」


 気遣うような仕草で、私を心配するカロリーネ。

 記憶が戻る前の私ならこの言葉だけで怒り狂い、クリストハルトにすぐに会いに行っていたかもしれない。


「クリストハルト様もお忙しいのでしょう」


 いつもとは違う反応にカロリーネが目を瞬く。


「……ご存じだったのですか? 伯爵令嬢の事」


 今度は私が目を瞬く。

 私のその反応にカロリーネは咄嗟に口を押えた。


「伯爵令嬢の事って何かしら?」


 嫌な予感に頬が引きつる。

 私が怒っていると勘違いしたようで、当惑するカロリーネ。


「ヴァールブルク公爵の旧友の伯爵ご夫妻が亡くなられて、公爵が伯爵夫妻の子どもで私達と同じ歳の令嬢を養女に迎え入れたそうですわ」


 普通ならクリストハルトが忙しいのとその伯爵令嬢になんの関係があるのだと聞くところだが、私は瞬時に察した。

 きっとその令嬢がヒロインなんだ!!

 会話の流れから考えても、クリストハルトはその令嬢に夢中になっているのだろう。

 これは一刻も早く婚約解消を申し込まなければ!

 善は急げと立ち上がる。


「クリストハルト様に会いに行かれるのですか?」


 カロリーネが私を見上げながら、さも当然のように尋ねる。

 クリストハルトとその令嬢を引き離しに行こうとしていると勘違いしているようだ。

 今の段階で婚約解消を計画しているなどと話せば、その令嬢に嫉妬していると思われかねない。


「寝てばかりでしたから、少し運動しようと思いましたの!」


 突然始めたラジオ体操に、カロリーネは目を丸くして驚いている。

 そりゃあそうだ。

 突然「ふんっ! ふんっ!」と鼻息を鳴らしながら手足を振りまわす様は、ラジオ体操がない異世界人からしたら不思議な光景この上ない。



 カロリーネが私の奇怪な行動に首を傾げながら帰ったのを確認し、早速父の元を尋ねた。


「ネディ。具合はどうだい?」


 執務を中断し、私に駆け寄る父。


「もうすっかり元気になりましたわ、お父様」


 ラジオ体操が出来るくらいにはね。

 父は私を来客用のソファーに座らせると、お茶を用意させた。

 昼からお茶ばかり……お茶太りしそう……。


「それで? 何か話があるのか?」


 しかめた顔がさらに悪役顔を倍増させた私の顔を紅茶に映し出していると、父が本題に入った。


「実は、クリストハルト様との婚約を解消したいと考えているのです」


 顔を上げ、率直に答える。

 すると父は音を立てながらティーカップを乱雑に置き、物凄い剣幕で迫ってきた。


「あの男が何かしてきたのか!?」

「いえいえ!」


 あまりの剣幕に押され、小刻みに首を横に振る。


「そうだよな。何もしていないよな。見舞いにも来ないくらいだからな!!」


 言いながら怒りが沸々と込み上げてきたのか、最後の方は恐竜のように叫ぶ父。

 駄目だ! この勢いのまま婚約解消などしたら、グレーデン公爵家とヴァールブルク公爵家の全面戦争が起きてしまう!!

 そうなったら悪役の私は、クリストハルトに成敗されてしまうかもしれない!

 こういう時はどうすれば――!?

 そうだわ。私はライトノベルでいうところの悪役令嬢なのよね?

 いつもは我儘三昧の悪役令嬢だけど……。


「お父様。落ち着いて下さい」


 憤怒している父をなだめるように、静かに呼びかける。

 私の落ち着きように父も冷静になったのか、前のめりになっていた体を元に戻す。


「この私がクリストハルト様如きの対応に、傷付くとでもお思いですか?」


 大人しくなった父を確認して、ティーカップを手に取り紅茶を一口含む。

 その私の動向を静かに見守る父。

 落ち着いたところでティーカップを下ろし、傲慢な態度で口の端を上げた。


「あんな男、こちらから捨ててやりますわ」


 悪役なら悪役らしく優雅に振舞ってやろうじゃないの!





ご無沙汰しております。

久しぶりの連載で最後まで書ききれるか、少し心配しております。


いつも連載を読んで下さっている方は、書き方変わった? と気付かれたかもしれません。

作者もどうしようか迷ったのですが、書籍で書かれている書き方の方が読者様が読みやすいかと思い変更してみました。

読みにくかったらすみません……。


読んで頂きありがとうございます。

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