17.爆弾は投げられた
仁王立ちの私の前に、立ち並ぶ男達。
「で? あなた達がどうしてここにいるの?」
気まずそうな兄弟二人を見据える。
「ネディが昨日『また明日』って言っていたから、俺に届いた招待状の日付を確認したんだ。そしたらやっぱり違っていて……」
「フィルベルトがベネディクト嬢の日付が間違っているかもしれないと、私の招待状も確認しにきたのです」
「朝一でネディに伝えようとグレーデン公爵家に行ったのだけど……」
「私がもう出かけた後だったと」
フィルがコクリと頷く。
「私の方は伯爵令息に確認するために、直接こちらに向かいました」
つまり二人は別々に動いたけど、最終的には同じタイミングで伯爵家に訪れたというわけね。
クリストハルトがいると面倒な事になりそうだったから、人が少ない内に伝えてさっさと帰ろうと思っていたから、想像以上に早く家を出たのよね。
「でも日付が間違えていただけのことで、なぜ二人が伯爵邸にまで押し掛けたの?」
疑問はそこだ。
日付けを間違えていただけなら、私が帰って来ると考えるはず。
わざわざ二人が伯爵邸にまで来る理由が分からない。
「もちろんネディが心配だったから」
「他の男の家に一人で向かった婚約者を心配するのは当然のことです」
それぞれが同時に返答する。
クリストハルトの方は、別れ話をした事をもう忘れたのか?
けど、お仕おき……こちらが優勢であったとしても反撃されたら危なかったかもしれないし、助けられたのは事実。
「二人の事情は分かったわ。……その……来てくれてありがとう……」
罵ることは得意でも、人にお礼を言う事など滅多にない。
照れくさそうにお礼を言うと、なぜか男三人の顔に赤みが増す。
なに、その反応?
「それよりもあなたよ!」
なんだか恥ずかしくなってきた私は、行儀が悪いのを承知で伯爵令息をビシリと指差す。
「私があなたに好意があるような手紙を送ったとか、どういうことなの!?」
「「はあ!?」」
私の背後に立つ男二人が同時に声を上げる。
驚いて振り返るも、一人は紳士的な笑みを浮かべ、もう一人は可愛くニコリと微笑む。
なに? 怖いんですけど……。
気を取り直し、咳払いをしながら伯爵令息に向きなおる。
「それで? その手紙とやらはどこにあるの?」
「それは、ネディが……ひっ!」
愛称で呼ばれて思わず眉間に皺が寄る。
伯爵令息はその顔が怖かったのか、小さく悲鳴を上げた。
私が怖い割には視線が私より上なのは、気のせいだろうか?
「いえ! あの……ベネディクト嬢……いえ! ベネディクト様? ……グレーデン公爵令嬢……」
なぜか私の呼び名を色々呼び始めた伯爵令息。
しかも呼ぶ度に何かの反応を窺っているような……。
チラリと視線を後ろに向けるも、相変わらずの仮面の笑みと可愛い笑みが並んでいるだけ。
首を傾げながら、再び伯爵令息に向きなおる。
「手紙はクリストハルト卿に見つかるといけないから燃やして欲しいと書かれてあったので、燃やしました」
つまり私になりすました犯人は、証拠隠滅を図りたかったと……。
「禁断の恋だからね……」
照れくさそうに頬を赤らめる伯爵令息にドン引く。
キモッ!
私が体を引くと同時に、今度は伯爵令息の顔が青ざめる。
さっきからこの子、顔が赤くなったり青くなったり忙しいわね。
「私の字とそっくりだったというのは、どういう意味?」
怯えた目で私を見上げる令息に話を続ける。
「そもそもグレーデン公爵令嬢とは手紙のやり取りをしていないから、過去の招待状の返事の名前くらいしか判断が出来なかったんだ。でも名前の字が同じだったから、本人だと思って……」
誰かが私の筆跡を真似て、この伯爵令息との仲を深めようとしていた?
犯人の目的は何?
「封蝋はどうだったのよ」
私の手紙なら必ず、グレーデン公爵家の印璽で封蝋されているはず。
「僕とのやり取りが世間に広まると、僕の立場も危うくなるからって気を遣ってくれたんだ。とても優しくて、文面からも繊細で心の綺麗な人なんだと思ったよ」
それ、私じゃないから。
それに浮気しようとしている時点で、清らかではないことに気付いて欲しい。
「でも……今日、グレーデン公爵令嬢に責められて……」
伯爵令息が羨望の眼差しで私の前に膝を突く。
「僕の女王様だと思ったんだ!!」
変な新世界開いちゃったよ!!
すると背後からカチャリと嫌な音と不穏な空気が漂う。
「そんなに責められるのが好きなら、俺と思う存分剣の稽古でもしましょうか」
「お前じゃ生温いだろ。私が二度とそんな気持ちにならないように少し遊んでやる」
後ろの男達も何言っちゃってんの!?
「そ……それで! いつから手紙のやり取りをしているの!?」
このままではR15では収まらない事態になる!!
慌てて話を戻す。
「初めて手紙が来たのは確か……ヴァールブルク公爵家の舞踏会が終わって数日後のことです」
私がクリストハルトに嫌われよう作戦を決行していた時ね。
あの頃はもうクリストハルトに想いはなかったし、この伯爵令息との禁断の恋とやらが社交界で広まったとしても、私には全く問題はなかった。
だって私の悪名は轟きまくっているから。
今更汚名の一つ二つ増えようが気にしない。
むしろクリストハルトとの婚約解消も、円滑にいけたのではないかと思うと、もっとやってくれても良かったかも。
ただ犯人が分からないのは気味が悪いわね。
そういえばリースマン侯爵家の舞踏会の日、レーネを取り巻きに囲ませて私とクリストハルトの結婚がどうこうと怒っていたわね。
まさか私とクリストハルトの婚約を解消させるために、カロリーネがこれらを仕組んだ?
とするとカロリーネに脅されたレーネが実行犯とか?
どちらにしても証拠がない。
まあ、この程度のいたずらなら可愛いものだから放っておいてもいいのだけどね。
どうせ私になりすましたってメリットなど何一つない。
伯爵令息に背を向け、帰ろうと歩き出す。
「僕の女王様! また会いに来てくれませんか!?」
「もう二度と会うつもりないから」
「その冷たい眼差しがたまらない」
自分を抱きしめるように、両腕を胸の前で抱えながらうっとりとした笑みを浮かべる伯爵令息に鳥肌が立つ。
「ベネディクト嬢は馬車で待っていて下さい」
「ネディは先に馬車で待ってて」
兄弟二人の声が重なる。
二人が今から何を起こそうとしているのか私には分からない。
だが、一つだけ心配な事はある。
「ぎゃあああああああああ!!」
閉める扉から断末魔、再び。
伯爵令息の芽生えた新世界が、これ以上開かれないことを願うばかりだ。
スッキリとした顔で馬車に戻って来た二人は、なぜか私が乗っているグレーデン公爵家の馬車に乗り込んできた。
「自分達が乗ってきた馬車で帰らないの?」
ヴァールブルク公爵家の馬車も停まっているのだけど?
「こんな危険な目に合った婚約者を、一人で帰らせるわけにはいきません」
「俺は早馬で来たから馬を休ませてあげないと」
こうして訳の分からない理由を告げた男二人を引き連れて、グレーデン公爵家への帰路についた。
異変を感じたのは公爵家目前の事だった。
馬車が急停車し、たくさんの兵に取り囲まれる。
何事かと馬車から下りると、立派な鎧を身に付けた厳格そうな男性が取り囲む兵達の間から現れた。
「だ……団長?」
私の左隣に立つフィルが呟く。
フィルが団長と呼ぶいうことは、この人達は王宮騎士団?
なんで王宮騎士が私達を囲っているの?
「ベネディクト・ハンス・グレーデン公爵令嬢。レーネ・イルメラ・ヴァールブルク公爵令嬢を襲撃した首謀者として、貴女を拘束させて頂く」
「首謀者ってどういうこと!?」
戸惑う私を余所に団長が淡々と告げる。
「カロリーネ・ロミルダ・リースマン侯爵令嬢が自白したのだ。あなたに強要されて、ヴァールブルク公爵令嬢の馬車を襲わせたと」
まさかの爆弾投下に頭は真っ白になった。
だが、一つだけはっきりしたことがある。
ほら見なさいよ!
やっぱりこういう展開になったじゃないの!!
長期間放置してしまい、申し訳ありませんでした。
この作品を消そうか随分悩みましたが、非表示にしても半年以上放置しても覗きに来て下さる方がいらっしゃったので、完結まで投稿することにしました。
覗きに来て下さっていた皆様のお陰で、再度書く気が起こりました。
ありがとうございます。
読んで頂きありがとうございます。




