11.引き取られた理由
重いドレスに身を包んだ翌日。
身体的、精神的に疲労している私は、だらしなくソファーに横たわっていた。
クリストハルトにはいじめの主犯と疑われ、フィルとは一緒に領地に行く約束をしてしまい……。
全ての行動が裏目に出てしまっている。
私は慎ましく生きていきたいだけなのに!!
自分の運命に嘆いていると、扉が叩かれ侍女が慌てて入ってきた。
「お嬢様、大変です! 昨日、クリストハルト卿が強盗に襲われて怪我を負われたそうです!」
「なんですって!?」
昨日って、私達が帰った後という事!?
もしかしてフィルが言っていた、『複雑な事情』と関係があるのかしら?
そうだとしたら確認しておきたいわね。
だって自分が起こした事件にされていたら、たまったものではないから。
というわけで、会いたくはなかったがクリストハルトを見舞う名目でヴァールブルク公爵家を尋ねた。
クリストハルトの部屋に案内されると、クリストハルトは元気そうにベッドに座り、その傍には椅子に座り付き添っているレーネの姿。
私の姿を見るや、立ち上がろうとするクリストハルト。
しかし足に怪我を負ったのか、バランスを崩し倒れそうになるクリストハルトを傍にいたレーネが支える。
「別に立って迎えてもらわなくても結構よ」
抱き合う形になっている二人に淡々と言い放つと、二人は慌てて離れた。
「私、少し席を外しますね!」
レーネは真っ赤な顔で出て行き、クリストハルトはそのままベッドに腰掛ける。
「怪我をしたと聞いたけど、元気そうね。彼女が付き添っていたなら、見舞いの必要もなかったかしら?」
見舞いに来た目的は別にあるから、この男が誰と仲良くしていようが私には関係ないけど。
「昨日は疑ってしまい申し訳ありませんでした」
ベッドに腰掛けながら、クリストハルトが頭を下げる。
「な……何してんのよ!?」
プライドの高いクリストハルトが、私に頭を下げるなど初めてのことだ。
「一瞬でもベネディクト嬢を疑ってしまいました。婚約者なら真っ先に信じるべきだったのに……」
そこは『婚約者失格だ』とか言ってくれればいいのに。
そうすればその後の話も円滑に進められるから。
「謝る必要などないわよ。これが私とあなたが築いてきた絆の程度なのだから」
クリストハルトが私の話も聞かずに私を疑った時点で、私とクリストハルトの間に信頼というものが欠片もないことが証明されたのだ。
私ならやりかねないと……。
はっきり言って、私ならあんな部屋に連れ込むような姑息な手段は使わない。
みんなの前で正々堂々と恥をかかせる!
どちらも褒められた行為ではないが。
だがこれで分かったのは、クリストハルトが悪い行いイコール私と決めつけていたことだ。
姑息な手段は使わないという私の信念など、気にも留めていなかった。
だから結局、クリストハルトは私という人間を全く見ていなかったということになる。
「こんな疑心暗鬼な関係で婚約は続けられないわ。お互いのためにもこれで終わりにしましょう」
目を見開き、何か言いたげに口を開こうとするクリストハルトを無視して部屋を出る。
少し強引な気もするが、結果オーライ?
クリストハルトにはレーネだっているのだし、私と婚約解消しても困らないし大丈夫よね?
あとは昨日の状況を聞きたいから、フィルに会いたいのだけど……。
使用人に声をかけようと廊下を見回していると、レーネがフィルを連れて早足でこちらに向かってきた。
「お兄様は中に?」
神妙な顔つきで私に尋ねるレーネ。
「ええ。いるわよ」
答えると入室の許可も得ずに、レーネがクリストハルトの部屋の扉を開ける。
緊急事態なのかな?
口を挟めずに黙ってレーネ達の動向を見守っていると、困惑したような顔のフィルと目が合う。
え? なに?
嫌な予感に閉められた扉を静かに開けて中を覗き込む。
クリストハルトの前に立つフィルが口を開く。
「兄上を襲った首謀者が判明しました」
私を見た時の困惑したフィルの顔を思い出す。
まさか……私が首謀者になっているとか!?
待って! 違うの!!
話を遮ろうとフィルの前に割り込むも、次に発したフィルの言葉に思考が停止する。
「どうやらリースマン侯爵令嬢が依頼したようです」
……へ?
リースマン侯爵令嬢って……カロリーネのことよね?
え? カロリーネが首謀者?
え!?
「ええええええ!?」
あまりの仰天ニュースに『え』しか出ない。
この部屋の誰よりも驚く私に、逆にみんなが驚く。
「カロリーネってなんでカロリーネが!?」
目の前に立つフィルの胸倉を掴み前後に揺する。
私じゃなくて幸いではあるが、カロリーネがクリストハルトやレーネを狙う理由が分からない!
「落ち着いて、ネディ。有り得る話ではあったんだ」
フィルが胸倉を掴んでいる私の両手を、自分の両手で包み込む。
「有り得る話?」
首を傾げながらフィルを見上げていると、クリストハルトが教えてくれた。
どうやらヴァールブルク公爵家とカロリーネの実家のリースマン侯爵家の間では現在、レーネを巡る確執が起きているらしい。
その発端はリースマン侯爵とレーネの実家の伯爵家にある。
じつはレーネの実家の伯爵家は、もう何代も前のリースマン侯爵が子どもの一人に与えた土地らしいのだ。
しかしその土地は維持費がかかるわりには収益が見込めない土地で、侯爵の代が変わるごとに忘れられていった土地となってしまった。
侯爵家から見捨てられたと感じた当時の伯爵は、侯爵家から独立し自分の力で伯爵領を立て直そうと何代にも渡って努力し続けた。
「運がいいのか悪いのか、最近になって伯爵領で鉱山が見つかったんだ」
語るクリストハルトが溜息を吐く。
「つまりリースマン侯爵が、その鉱山は侯爵領の物だと主張しているのね」
そう考えれば先程フィルが言っていた『有り得る話』も繋がってくる。
遺産を持つレーネさえいなくなれば、伯爵領は必然とリースマン侯爵の元に返ってくる。
もしかして伯爵邸を狙った強盗も、リースマン侯爵が仕向けたもの?
「伯爵は自分達を見捨てたリースマン侯爵家を恨んでいた。だから自分の死後の管理を――」
「ヴァールブルク公爵に委ねた」
私が答えにたどり着くと、クリストハルトが驚きながらも頷く。
こういう話に興味がない私が、真剣に聞いているのだから驚くのも無理はない。
「だけどなぜカロリーネがレーネを狙うの? リースマン侯爵本人がレーネを狙うなら分かるけど……」
私の質問に全員が口を閉ざす。
カロリーネが犯人だというのは先程聞いたばかり。
明確な答えを出せないのは仕方がない。
「じゃあなんでカロリーネが首謀者って分かったの?」
後ろに立つフィルを見上げる。
「リースマン侯爵令嬢の名前が署名された、強盗犯を雇った契約書が見つかったんだ」
「カロリーネは何て言っているの?」
「無実を主張している」
やっぱりカロリーネが自ら手を下したというのが納得いかない。
だって伯爵領の問題は父親達の問題であって、娘達には関係のないこと。
う~ん……と自分の腕に肘を突きながら考える人状態で難しい顔をしていると、三人の視線を感じた。
「ところで……ネディはどうしてここに割り込んできたの?」
首を傾げているフィルの、純粋な視線が突き刺さる。
その純粋な疑問に背中から冷や汗が流れ出る。
まさか自分が犯人にされると思ったなど、口が裂けても言えない!
いつも読んで頂きありがとうございます。
そろそろ事件が始まる予感なので、その前に今後の方向性を決めていきたいなと思っている今日この頃。
実はこの作品……最終的に誰と結ばせるかまだ決めておりません!
ということで、明日から投稿予定のクリストハルト視点二話とフィルベルト視点二話の、『いいね』票数でどちらとのエンドを迎えるか決めたいと思います。
連載を追ってくれている読者様の特権ということで。
もちろん強制ではありません。
読者様がどちらと結ばれて欲しいと思っているのか参考にしたいだけなので、投票するもしないもあなた次第。
ちなみに現在の『いいね』ランキング一位が同票で、『1.私は悪役令嬢?』と『3.不可解な婚約者』となっているため、作者迷走状態に入っています。
なので皆様の『いいね』で方向性をはっきりさせて頂けると、とても助かります。
期限は『17』を投稿するまでとしたいと思います。
皆様の『いいね』、お待ちしております!




