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10.幼馴染の変化

 馬車までエスコートしてくれたフィルの手を離すと、フィルが不思議そうに振り返る。


「ここまででいいわ。後は馬車に乗って帰るだけだから。フィルはまだ楽しんでいって」


 婚約者のいないフィルには、結婚相手を見つける最高の場でもある。

 私のせいでその機会を奪うことはしたくない。

 しかしフィルは再び私の手を取るとはにかんだ。


「ネディさえ良ければ家まで送らせて。せっかく俺を指名してくれたのだし」


 指名って、ホストか!


「誰かさんみたいに、私のせいで結婚相手を見つけられなかったって言わないでよ」


 私のむくれた顔に、フィルがおかしそうに笑う。


「そっか。その時はネディに責任をとってもらえばいいのか」


 冗談よね?

 怪訝な顔でフィルを見上げるも、ニコニコと裏表のない笑みを浮かべているフィル。

 ある意味クリストハルト同様、心の中が読めない。

 やっぱりこの二人は兄弟だとしみじみ実感したのだった。


 馬車に乗り込むと、向かいの席に座るフィルの顔を窺う。

 フィルを見ていると警戒心が薄れるから忘れちゃうけど、彼も危険因子の一人なのよね。

 クリストハルトと兄弟だけあって、整った綺麗な顔立ちをしているフィル。

 クリストハルトは見た目だけでも危険な香りがプンプン漂ってくるが、フィルは人懐っこい従順そうな雰囲気だから、つい油断してしまう。

 私の視線に気付いたフィルは裏表のない笑顔で応対。

 ほらね。


「そういえば……フィルはレーネと仲がいいの?」


 見つめ続けていて気まずくなった私は、話題を振る。


「お茶とかには誘われるけど、俺は仕事があるからほとんど関わっていないかな」

「仲良くなりたいとか思わないの?」


 レーネはヒロインの可能性があるだけあって可愛い女性だ。

 舞踏会での貴族令息達の反応がそれを証明している。

 そういえばあの令息達が話していたこと、フィルは何か知っているのかな?


「う~ん……護衛対象だからあまり……」


 フィルが考え込むようにポツリと返答する。

 護衛対象?


「もしかして火事とか強盗とかって話と関係があるの?」

「知っていたの?」

「今日の舞踏会で貴族令息達が話していたから」


 私が割り込んで行った時の様子を思い出したのか、フィルが苦笑いを浮かべる。


「姉上は住んでいた伯爵家が強盗によって火事にされて、伯爵の遺言通りにヴァールブルク公爵家に引き取られたんだ」

「遺言って?」

「父が伯爵から遺言書を預かっていたみたい。自分にもしものことがあったら、妻と娘を頼むと。その際、財産は全て父に委ねるとも書いてあったらしいんだ」


 今までレーネを王都で見たことがなかったから地方の伯爵家だとは思っていたが、公爵がすんなりお願いを聞くあたり相当な財産を保有しているのかもしれない。

 強盗はその財産を狙ったのだろう。

 それにしても……。


「護衛対象ってことは、レーネはまだ狙われているの?」


 ただの強盗が金品を持たないレーネを狙うとは思えない。

 もし狙うとしたら、レーネが持つ遺産。

 だが先程の話から考えても、レーネの遺産はヴァールブルク公爵が管理することになったと思うのだけど……。


「ちょっと複雑な事情があってね。もしかしたらまだ狙われる危険があるんだ」

「じゃあ、私なんかを送っている場合じゃないじゃない!」


 ここでフィルが私を送ったせいで、レーネに何かあったら私が暗殺を仕組んだ犯人にさせられない!?

 全くの無関係ですが!?


「大丈夫だよ。兄上が一緒だから」

「クリストハルト様も護衛しているの?」

「事情は知っているからね。だからさっきの現場にも来たのだと思うよ。俺は外で不審者がいないか確認中だったから」


 都合よく二人が現れたと思ったら、レーネを護衛していたからなんだ。


「レーネには感謝しなくちゃね。そのおかげで私は助かったのだから」


 やはりこの世界はレーネを中心に回っているのだ。

 偶然フィルに助けられたとはいえ、悪役である私は大人しくしている方がいいのかもしれない。

 現に、余計なことをしたせいでクリストハルトには疑われたのだから。

 悪役だから仕方がないとはいえ、なんだか自分の存在がこの世界にとって邪魔者とされている気がするのはやはり辛い。

 物悲しさを隠すように俯く。


「俺は姉上を助けたかったわけじゃないから」


 男らしく力強い声が車内に響き、顔を上げる。

 そこには今まで見たことがないようなほど、大人びた顔つきをしたフィル。

 子どもの時からフィルのことは知っている……はずだった。

 気が弱くて、おどおどしていて、手を引いてあげないと何もできないような男の子。

 だけど今、私の目の前に座っているのは、そんな男の子の雰囲気など微塵も感じさせないような私の知らない男の人。

 この人は本当にフィルなの?

 ドキドキと高鳴る胸とは裏腹に、なんだかいつもとは違う雰囲気のフィルに恐怖心を覚える。


「フィルは昔から優しいからね!」


 自分の知っているフィルとの共通点を見つけ出したくて必死に返答すると、フィルは小さく溜息を吐いて笑みを浮かべる。

 その表情は少し寂しそうだが、今の私にはあのフィルを受け入れられるほどの心の余裕はない。

 だってあんなフィルは見たことがなかったから、どう接していいのか迷う。

 フィルと会っていなかった時間は確実に存在し、その間にフィルが大人になっていたことは分かった。

 だからこそ、会っていなかった期間のフィルに時間をかけて慣れていきたい。


「ごめん……。フィルが子どもの頃のフィルとは違い過ぎて、今は気持ちが追い付いていないの。もう少し慣れる時間をくれれば、必ず今のフィルも受け止めてみせるから!」


 って何言ってるの!?

 あれほど危険因子と関わるのは危険だって言っているのに!

 でも寂しそうなフィルを見ていられない!

 そんなフィルは目を瞬いた後、子どもの頃と変わらない無邪気な笑みを浮かべた。


「ネディが俺を気にかけてくれるだけで嬉しいよ」


 その姿にホッとしている自分に驚く。

 関わらない方がいい相手なら安心しちゃダメなのに……私、どうしちゃったのよ!?


「……それより、兄上は良かったの?」


 自分の感情に戸惑っている私に、フィルが心配そうに尋ねてくる。


「いいのよ。婚約解消しないとか言いながら、結局私を疑ったのだから」


 思い出したら腹が立ってきた。


「早く婚約解消したい……」

「あれ、本気だったんだ」

「私が冗談を言う人間に見える?」

「だってあんなに兄上の事を好きだったのに……」


 それを言われると痛い。

 特にフィルは、一番間近で私がクリストハルトに付きまとう姿を見てきたから。


「目が覚めたのよ」


 前世の記憶という名の覚め方ではあるが。


「婚約解消をしたら領地に行くっていうのは本当なの?」

「本当よ」

「田舎には興味ないって言っていたのに?」

「田舎には田舎の良さがあると気付いたのよ」


 前世の記憶という名の気付きではあるが。


「……もし、俺も一緒に行きたいと言ったら、ネディの傍にいさせてくれる?」


 上目遣いで懇願するように私の顔を覗き込むフィル。

 その姿が子どもの頃のフィルと重なる。

 やっぱりフィルはフィルだな。

 なんだか懐かしくなり、フィルの手を取り思わず返事していた。


「もちろんよ!」


 次の瞬間、秒で後悔した。


 危険因子を連れて行くって、私、死にたいの!?





読んで頂きありがとうございます。

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