天才魔法使いの田舎娘、勇者パーティに編入される
魔女の疑いで、王宮の地下牢に投獄されていた。
魔法しか取り柄の無い田舎娘を救ってくれた、涼しい瞳。
あの日と同じ瞳が、信頼を寄せて、目交ぜしてきた。
最後の闘いにと渡された宝剣を、王子が握り締める。
ここまでの道程で、4人の仲間を失った。
残ったのは2人。
昨夜。
『無事に戻ったら……」の先は聞けなかった。
唇を引き結び、大扉を一気に押し開く。
大広間に、女が独り。
表情は窺い知れない……
「お待ちしておりました」
これが魔女。
虚言を弄し、甘言で惑わして意思を挫く。
王城へ戻って謁見するたび、「耳を貸すな」と繰り返し言われた。
王子はフッと鼻を鳴らし、言葉を
「私は貴女でした。貴女は、私になるでしょう」
「……?」
その瞬間を捉え、一歩先に滑り込んだ。
それは意外にも、こちらへ向けた言葉だった。
謎かけにも似た響きを、王子が剣で振り払う。
あまりにも遅すぎる。
手応えは無いだろう。
魔力の塊が、背中に触れる感触。
『 お 静 か に 』
それきり、動けなくなった……
「耳を貸すなと言い含められていました。私と彼は無言で襲い掛かり、魔王を討ち取りました。でも、それはそれは大きな落とし穴―― 」
魔女は気怠く息を吐いた。
「そこの坊ちゃんと同じ、彼に優れた能力なんて無かった。私は懸命に努力して、魔法を習得した。それこそが、奴等の狙いだった―― 」
自嘲気味に苦笑する気配。
「貴女は頑張り屋さんね? ここへ来た娘達、そのどの方よりも強い力を感じる。私は貴女でした、貴女は私になるでしょう。 ……決して忘れないで」
補助魔法に徹して、王子が剣を振るい、あっさり魔王は息絶えた。
それまでは天変地異を思わせる強烈な魔法を連発していた魔女が、身も世も無く泣いて縋って懸命に回復術を行使する、その背中を、王子は無言で貫いた。
その時だ。
宝剣が、膨大な魔女の魔力を吸い上げている。
それは、どこか遠くの器に注ぎ込まれていく。
振り返った王子の表情は、驚愕。
『奴等の狙い……』
注ぎ込む先。
器はどこに?
急いで宝剣を抜いた、刹那。
薄暗く湿った王宮の地下牢。
器にされた、哀れな女達が視えた――
「 魔 物 溢れ っ 統 率 し て 」
ブツ切れに言い残し、息絶えた。
この2人は、何代か前の私達だ。
王子は魔女の亡骸に深く頷いた。
どれほど時を経たのか、感覚すら薄れた。
「魔王様~、なじょすっぺ」
「相変わらず仕事熱心だな」
「ちゃっちゃとせぇ~って」
「そう急かすな、ゲヘへよ」
私達は、ここで。
魔王と 魔女を している――――