17.調理
朝になった。天気はあまりよくなく、雨がぽつぽつと降っていた。
「うーん、なんか不安になる天気だなあ」
大翔は空を見てため息をついた。
「大翔、天気なんて気にするなよ」
俺が声をかけると、大翔は少し微笑んだ。
「今日はハンバーグとクリームシチューを中心にしたメニューだよな」
俺が大翔に確認すると、大翔は元気よく頷いた。
「うん」
「ハンバーグってなあに?」
いつのまにか起きたアイラが、大翔の肩にとまって俺たちに質問した。
「肉を細かくして、丸めて焼いた料理だよ。肉汁がじゅわって出てきてとっても美味しいんだよ」
大翔がアイラに優しく説明する。
「そうなんだ。アイラも食べられる?」
アイラは心配そうに大翔にたずねる。
「うん、ちゃんと人数分作るから大丈夫だよ」
「やったあ!」
アイラは大翔の肩から飛び立つと、ひらひらと俺たちの周りを飛び回った。
「じゃあ、朝ごはんを食べたら、今夜の食事会に向けて料理を始めよう」
「分かった」
俺が笑顔で返事をすると、大翔も笑顔でエプロンを身に着けた。
大翔は手作りのベーコンと目玉焼き、サラダと白いご飯をみんなの分、準備すると食堂に並べた。
「大翔、ベーコンなんていつ作ったんだ?」
「びっくりした? 健、ベーコン好きでしょう?」
俺はベーコンを一口食べた。良い香りで、肉の味も良く、とても美味しかった。
「実は、今日のクリームシチューに使おうと思って、昨日のうちに、このベーコンを作っておいたんだ」
「大翔、すごいな」
「へへっ」
大翔は得意げに笑った。
「大翔、健、おいしいね」
アイラは口の周りを半熟の目玉焼きの黄身で真っ黄色にしたまま、嬉しそうに言った。
「ごちそうさま」
俺が言うと、大翔も言った。
「ごちそうさま」
「美味しかった!」
アイラはご機嫌で大翔のそばを飛んでいる。
「じゃあ、片づけをして……今日の食事会の準備に取り掛かろう」
「そうだな」
大翔と俺は、汚れた食器をキッチンに運んだ。俺が食器を洗い始めると、大翔は夕食の材料をキッチンの作業場に並べ始めた。
固まり肉を包丁でミンチにし、クリームシチューの材料を刻む。
パンケーキの材料は計って、冷蔵庫にしまった。
サラダの材料を見て、大翔はため息をついた。
「うーん……やっぱりしなびてる……。健、森の入り口まで行って、サラダの材料になりそうな野草を探したいんだけど……いいかな? 料理の下ごしらえは大体できてるし……」
俺は大翔の言葉を聞いて、ちょっと考えた後に頷いた。
「分かった。でも、食材を探すのは、森の入り口だけだぞ? 奥にはモンスターがいそうだし」
「うん」
大翔は俺の返事を聞くと、すぐに二階に行って武器と防具を身に着けて、冒険の準備をした。もちろん、食材をいれるためのおおきなカバンを肩にかけている。
俺も身支度をすませると、アイラに聞いた。
「アイラも一緒に食材を探しに行くか?」
「……うん。大翔と健が一緒なら、行く」
俺たちはアイラを連れて、森の入り口で食材を探すことにした。
森の入り口にはいろいろな野草が生えていた。
「あ、この木の芽、食べられる野草の本に載ってた。……こっちの草も載ってたよ」
「大翔、この草も……レタスに似てないか?」
「そうだね! うん……ちゃんと、食べられる野草の本に載ってる。こっちは小さな玉ねぎみたいだ……無毒って書いてある!」
思っていたより、たくさんの野草を手に入れることができたので俺たちは、ほっとしていた。
「健、大翔、これ、おいしいよ」
アイラが少し森の入り口より奥のほうから、両手に何かをもって戻ってきた。
「……これ、木苺みたいだね」
大翔がアイラの持ってきた木の実を本と見比べて、言った。
「食べてみて!」
アイラが大翔の口元に、木苺を一つ近づけた。
「うん……甘くておいしいね。これ、まだあるの?」
「うん。もう少し奥にいっぱい、なってるよ」
アイラの案内で森の中に大翔が入っていった。
「おい! あんまり奥にはいかないって言っただろう!?」
「少しだから平気だよ……」
大翔はそう言ってアイラの後をついて行った。
「しかたないな……」
俺も大翔の後に続いた。
森の中は雨のせいかひんやりとしていた。
「ここだよ!」
アイラの指さす方向には、木苺がたわわに実っていた。
「やった。これだけあれば、ジャムも作れるよ」
大翔が一生懸命木苺を摘んで袋に入れていった。
「……大翔、気をつけろ! 何か……生き物の気配がする!」
「え?」
俺のほうを向いた大翔の後ろに、大きな角を持ったウサギが現れた。
「大翔! アイラ! 逃げろ!」
俺は角ウサギに向かって、剣を振り上げた。
「わ!」
「きゃあ!」
大翔とアイラが俺の後ろに逃げた。
俺は剣を角ウサギに振り下ろした。
「ぎいいぃ」
角ウサギが血を流している。俺は剣を角ウサギの喉あたりに突き刺した。
「!!」
角ウサギはおとなしくなった。
「大翔、アイラ、大丈夫か?」
「う、うん」
「大丈夫」
大翔は動かなくなった角ウサギに近づいた。
「……死んでる」
「……ああ」
「角ウサギって、おいしいのかな?」
大翔が興味深そうに、角ウサギの死体を観察している。
「持って帰るか?」
「うん」
俺は角ウサギの足を縛って、肩に担いだ。
「それじゃ、家に帰ろう」
「うん」
「はーい」
俺たちは食材をもって、家に帰った。




