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断罪の夜と魔法少女  作者: XsINs
第1部 除章  断罪の夜と魔法少女
7/18

1−7 しがない魔法少女

 冷たい風と壁と床、骨髄の芯まで凍える。夏だから涼しくするのはわかるが、効かせ過ぎだ。過剰じゃないか。冷房だって無料(タダ)じゃない。



 とにかく、水分を摂りたい。喉に液体を通したい。なくても生きられる身体だが、すごく水が飲みたい。スーパーに置いてる安い水、ダンボールに詰められた安い水。潤ってるけど枯渇している、そんな矛盾した電気信号を脳が出している。



 ここは一体どこなんだ? 声の響き方的に随分と広そうだ。(くろがね)島内にこんな地下空間が? それに、あれからどれくらいの時間が経った? 優愉(ゆうゆ)さんらは、相対した魔法少女らはどうなった?



 答えの出ない余計な考察は後だ。脱出の方法を考えよう。まず前提として《赫の衝慟(カラーディプライブ)》は使えない。よくわからんが、景色が良くなかったり色彩に欠ける場所ではうまく使えないことが多い気がする。奪う色がないってことなのだろうかね。経験則上、ここでは不発に終わるだろう。



 魔法少女を殺せる瞬間火力は能力頼りだが、普通の鉄格子であればタネも仕掛けも必要とせずに難なく曲げれると思う。立ち上がり、鉄格子を掴む。このちょっとした動きも、あらかじめ神経毒を射されてたりしたら不可能な行動だったが、それがないなら勿論可能の範疇だ。力いっぱい引けば、棒が根本から綺麗に引っこ抜けた。こりゃあ楽でいい。




「――優愉(ゆうゆ) (ひびき)。それだけ残し一家全員が死んだ、何年か前の事件を知ってるか? 残ったそいつは名前を優愉(ゆうゆ) 響太(きょうた)と変え、魔法少女を狩っている。面白く奇怪な話だよな。内容を知れば、あの蓄えた脂肪の存在も可哀想に見える」




 優愉(ゆうゆ)さんが女? それらしき傷跡すら見た覚えはない。あっ再生したのかぁ。いや、無理がある。意味がわからん。この男は何もかも唐突だ。そんなことより、精神を波立たせないようにしよう。落ち着いてないと隙ができる。




「仲間の素性ひとつ知らないのか、それもまた面白い冗談だな。『(NOT)魔法(MAGIC)』、『のまほ』…………ツッコミどころはあれど嫌いではないセンスだが、『PSEUDO WITCH MECHANISM』とでも改名してくれないか? 君の還り道の名だよ」




 いきなり始まった設定博物館の案内音声はいきなり終わった。これを機に取り壊そう。



 さっきまで邪魔役だった鉄棒を武器に抜擢し、赤坂(あかさか) 啓示(けいし)の右胸に撃つ。火薬も仕込んでないのに爆音が鳴ったのは、音速の壁を突き抜けたからだ。だがそれは刺さることもなく、皮膚の上に止まる。




「俺さ、注射嫌いなんだよ」




 そいつはふざけた自分語りと一緒に、棒を新たに引っこ抜く。それを半分に折って、俺の両膝関節に貫いた。そのまま背後から前方への足払い、滑って地面に近づく腰に、腹から穴を開けてくる七発の凶弾。全て纏めても一息つくより早い、そしてしっかり致命的な反撃を授ける。こいつは人外相手に慣れてるんだ。いやまずこいつ自身が人外だ。銃を出して撃つ動きひとつにだって気付けなかったわ。




「あらら不良(ジャム)っちった。ガタが来たか? これまあまあ愛でてた銃なんだが……ラスト&ガッサー、(モデル)なんたら。見てくれはダセェけどさ…………俺ァ姿形に関してはベルグマン・ピストルが好きなんだ、ベルグマンM1896のNo.3。ほら見ろよ、かっこいいだろう?」




 そう言って新しい銃(ベルグマンとやら)を取り出し、更に二発の追撃。両目を正確に撃ち抜かれた。こいつはスマホの画面を見せてくるけども、それに目を向けた途端電源を落とすような悪戯が好きそうだ。下に太ったフレームとトリガーガードが一体になった特徴的なシルエットも、見えなきゃわかんねえんだよ。



 …………なんで今、見えもしなかった特徴がわかったんだ?




「羨ましいよな。魔法少女は『死がない』みたいなモンでよ。ま、完全不死身ってわけじゃねえけどさ。それに比べ君は…………なァ? 恨むならその違いを恨め」




 空気が停滞して動かない石造の廊下を、キャリーケースみたいに引き摺られている。最初は冷たいと思ってた床も、俺が通過すれば血の温もりを得た。速度が緩やか過ぎる再生と同時に頭から排出された金属を見ると、火薬を(ぼっ)する音がフラッシュバック。戦地帰りのこわれた敗残兵か? 俺は。悲しいが、意外と間違ってないのかも。




「疑似魔法少女改造機構、長いから勝手に“魔女回機”と呼んでいる。カイキの字は回転の回に機械の機。君はその電池役だ。役不足はなかろう、さ」




 役不足がない、つまり俺に見合った役か。正しい意味でそれを言ってるのかは疑問。だとすれば中途半端に評価されているみたいで気分が悪い。



 連れられたのは、ありきたりな卵型の機械が並ぶクローン製造巨大施設的なのじゃなく、布団が敷かれただけの小部屋。先客として、食人魔法少女リンドがいた。脳天を()ぎった悪趣味な想い出は電波より(はや)く忘れたい。忘れられるものならな。




「カイちんさんよォ」



「だれが……誰が、カイちんだ…………クソ野郎……」



烏舞(からすま)、君は自分の記憶を過信しない方がいい。今年ももう半年行った、調整してないってことは、だろ?」




 赤坂(あかさか) 啓示(けいし)は癪に障る野郎だ。去り際まで情報を小出しする。道を間違えた承認欲求か、かまってちゃんなムーブは見てて聴いてて気持ち悪い。




廻陸(かいろく)……ごめんね、私の能力で再生が進まないようにしてるから」



「ハッ…………誰、だよ、お前」




 そういえばずっと上半身だけで、首根っこを掴まれてここまで来ちまったのか。発声も詰まっている。不調に違和感を覚えない自分自身に違和感を覚える。




「私は、國代(くにしろ) 亜音(あのん)



「……へえ」




 この女は何を、何ふざけたことを言っているんだ?



 そいつは確かに知っている。いわゆる幼馴染ってやつで、物心付いた時から一緒にいた、唯一好きになれた他人。だがずっと前に死んだ。死んだはずだ。ああ、クソ。赤坂(あかさか) 啓示(けいし)、奴の言葉が妙に残り響く。一丁前に人の頭語りやがって、俺の何を知っている?



 ああ、そうか。俺の何かを知っているのか。



 つまりあれか、俺も元はこいつらと同じってことか。んでそれを聞かされて心が揺らぐ展開、そんなところだろう。



 ふざけるな。



 俺は創作の登場人物じゃない。人間だ。意思を持った個だ。記憶の改竄でもしたのか知らんが、ならば逆に「全ては作られた記憶」とでも解釈してやる。そう考えるとなんだかぜんぶどーでもよくなってきた。暴走して皆殺し、俺以外バッドエンディング。最悪な物語のオチにぴったりなシナリオだ。壁があるなら壊せばいいし地下に埋められりゃあ出口を掘ればいいし屍の名を騙る奴がいたならば名札を喰い破ってやればいい。そうしよう。人の肉を貪ったんなら然るべき終わり方よ。今からラスボス系主人公のレールを嘗めて生きることにする。誰にも文句は言わせない。言うな。言わないでくれ。邪魔をしないでくれ。




(かい)…………(ろく)……!」




 “変身”していない少女が、涙を浮かべている。残念ながら、夢にまで出てくる、知った顔だった。




廻陸(かいろく)……手…………っ!」




 俺の手が、彼女の、人間(・・)の、俺か知るままの亜音(あのん)を絞首している。今この空間に、魔法少女なんざいない。いなかった。魔法が解けた、ただの人間が目前にいた。



 ああ、まただ。またおかしくなってた。あの時と、ティナドィナに質問責めをした時と、その時と同じだ。変なスイッチが入って、自分じゃあ戻れなくなる。乗っ取られたみたいな、俺が知らない別の俺によって主導権を奪われたみたいな。




亜音(あのん)…………?」




 駄目だ。何もわからねえ。理解が及ばん。誰か教えてくれ、答えを提示してくれ。この状況に至る全要因を、一秒間の出来事も欠けることなく、俺に説明してくれ。どうにかしてくれ。助けてくれ。記憶を正してくれ。




亜音(あのん)、お前、何やってんだよ……!」




 さもなくば、脆くなってる感情が(かみ)()けてこわれる。

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