1−6 存罪、懲役は百生
限界点を越えながらも蓄積されたフラストレーションが、この瞬間にドッと溶ける。幸福海面が数メートル上昇した。熱湯で氷を弾け割るように、脳汁が不満を融解していく…………欲求不満が存在する唯一の価値はこの感覚にあろう、最高の気分だ。
そいつは全細胞を跳ねさせ、耐えることができなくなった生理現象を漏らした。事実上の屍に無理は言えない、筋肉が緩むのは仕方のない事柄だ。けど相手が魔法少女ってんなら無理を言うから。気分が良くないんで即刻やめろください。ってか雨止まないの? 降らしてるのこいつじゃないの?
それにしても、死にはしてないが再生が遅い。目に見えて組織がじわじわ出来上がっていくのは、のろまな虫が寄り集るようにも見える。俺のこれに回復阻害効果はないはず、ただの個体差か? このまま諦めて消えればいいのに。
魔法少女を倒したことに反応したか、ティナドィナが超高速移動で距離を詰める。風前の灯火を吹かせてくれるような立場ではないらしい。庇うように動かれちゃあ、敵と勘違いするじゃない。
「《居無要綯》」
優愉さんの言の葉で奴を押し返す。札が見えない程に崩れながら、文字だけが奴の瞳に貼り付いていた。あれは多分「都合の悪いものを弾く」効果。少し前まで先輩だとしていた野郎は既に、都合悪い者と判断されちまった。勘違いは、違っていなかったのか。
「優愉 響太。今の行動で、猫の考えた【のまほ】はシュレッダーの向こうだ。…………糞茶番はこれにて終幕らしい、これからは晴れて障害物同士だな。
さて、C.O_D。予定を切り上げる、好きな方を殺れ」
ティナドィナが、掴んでいた髪を離した。
「のれのれ」
例の幼女が穴々から触手を引き伸ばし、浴びた雨で生物的な体液を流し出す。ただ、『赤』と定義するにはあまりにも淀んでいて、穢れて黒かった。
「お待ち下さい、先ぱ――いえ、ティナドィナ殿、でしたか。貴方は何者ですか? それくらいは教えてもらいたいですね」
「ん、あぁ。ただの《現状》担当、だ。だが残念なことに、その意味を知る未来はない。もやもやを抱いて逝け」
目を離したわけでもないのに、ティナドィナが消えていたこと、それに驚く暇すらなく、照る触手による刺突攻撃を開始する謎の幼女。コード、とか呼ばれていたか。こいつは一体何なんだ? いや、ティナドィナがヒントひとつ教えてくれないのにわかるわけない。
ぐぢゅにゅる、と少し気分を悪くする液音を鳴らしながら、無数の触手が流れるように出る。程なく、傷口から幼女体が表裏ひっくり返った。靴下を裏返すみたいな、蛙を腹から剥くみたいな、それがまるで当然だと錯覚させるくらい自然に。これが意外にも内臓も神経も、人体の基本となるものはしっかりあるようで、それらが曝されている。汚さのない艶を生むんだが、酷いことに……俺はそれに見惚れてしまった。死相の下に顕現するエロス、上等な血脂の反射、他意のない肉。
全く、なんっってことだ。あらぬ趣向の扉を開けそうで妙な気になる。でもあまりグロテスクなのはやめていただきたいね、気持ち悪いから。
なんか優愉さんは雨合羽魔法少女を看ているが、これが彼にとっては貴重な精神的栄養なんだろう。なぜ殺し合ってる相手に入れ込めるのか――逆か。なぜ好き楽む相手に手を下せるのか。彼にも非情な一面があるのだ、とでも言うのか。
そしてこの触手玉。俺はライダーだの戦隊だのキュアだのにいる敵キャラに倣って変身中に手を下さない思考を持つ、んなことはない。あーでも変身時間が認識できなかったりカウンター的能力があったりするんだっけ。今それは関係ないな。
力は空気を変える。空気は心を引き締める。心は力になる。無限に続くループの出口は、唸る粘液幼女に設定する。
「《赫の衝慟》ッ!」
俺の命を突かんとする触手を受け流す。俺は馬鹿ではないので、見える罠で滑って「うおっ!?」となるような脳筋パターンは踏まない。少し爪を立てることで、肉をうまく捉えた。ドジを踏むのは黎守だけでい…………あれ、あいつ大丈夫なのか?
それにしても、爪研ぎに使ってやっても痛くなさそうだな。むしろこっちのが捲れちまいそうだ。ただ怯んだのか、触手を引っ込めている。バネのように引っ込めて――バネぇ? あ、回避体勢。
「「「のれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれののれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれののれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれのれの」」」
槍の如く全方向に触手を伸ばしやがる。河豚でもこんなことはしない。空気を刺し斬る音と一緒に、一本一本全部が意思を持ってるかのように「のれのれ」とか響きやがって、耳障りの悪さにおいてもこの上ないぞ。何か重いモノでも背負いたいのか? 気にし過ぎたら洗脳されてしまいそうだ。
後ろに飛んで隙間を掻い潜りはしたが、二本が左足を貫通した。まあまあ気になるが、気にしない方向で行こう。ついに神経イっちまえたかな。アニメのキャラみたいに、腕が持っていかれようが冷静でいられる狂い方だけはしたくないと思っていたんだが。
二人は少し距離があったこともあり、被弾していない。羨ましいな畜生めえ。
しかぁし、《赫の衝慟》は一発限りの秘技じゃない。二度でも三度でも何度でも、落ち着いた静かな精神が擦り減り果てるまでなら使い古せる。そして、殴るだけでもない。たしか殴るより蹴るほうが強いらしいと聞いたことがある気もするし。前足だけ上手く使えてもなぁ、四肢ってのは読んで字の通り四つあるんだぜ。
足に流れを停滞させるイメージを練る、爆発寸前の榴弾に成れ。本当に榴弾みたく爆発したら木端微塵どころの問題ではないけど、肉片は飛び散っても刺さらないから殺傷能力ゼロだし無駄爆だ。限界ちょっと超えたとこまで耐えろ。
パリリと魔力的なあれが溜まってきた感じのところで気合を入れ、足首に近くの触手を絡めこっちに引く。そして持ってこられた本体(?)に、一撃の必殺を喰らわせる!
「《暴紅衝脚》!」
触手のクッションに守られた幼女の灯火を凪ぐ。雲を蹴ったみたいな抵抗のない感覚だったが、言い切ろう。これは確実に入った。
攻撃は全身を使うことで威味を持つ、素人ながらそれは雰囲気的にわかっているつもりだ。腰を捻りながら指先をねじ込む感じで動いたと思う。殴るより力が入りにくい気がしたが、やはりその威力は馬鹿にならんかったようで、受けは耐えられずに裂けた。
そりゃあもう尋常じゃないまでに、粘液とくっ付いた血が爆発四散。生命の核心にでも当たったのか知らんが、「やったか」とフラグ建設しても回収しに来ないだろう凄惨な死に様。ザマァ見やがれ! ぽっと出の人外にゃ誂え向きの最後じゃい! 荷物抱えて異世界ファンタジーにでも帰りやがれ!!
さて……じっくり脳を回す余裕ができたことだし、状況を改めて整理するか。さっさとこの混乱から抜け出したいんだよ。
まず、雨と魔法少女がひとり降ってきた。だが目視で確認できる前に赤坂 啓示の仲間(多分)の魔法少女ナコが横入りして、んで先輩ことティナドィナがそいつとの距離を詰めた直後に、俺も巻き込んで何らかの技を放つ。目が覚めた時にはナコは倒れてて、ティナドィナは誰かもわからぬ謎の触手幼女の髪を掴んでいた。俺が『戻ってきた』ことに困惑していたが、そこら辺は詳細不明。最初の雨と一緒に来た魔法少女だが、言うこともなく一撃。その後ティナドィナの失踪と同時に触手幼女が攻撃を開始したが、さっき潰して今に至る。
この一瞬で随分と詰め込まれた情報量、戦場で即座に理解できるわけねえだろ。
「おや、倒したのですか。結局この子は一体何だったのですかね? ティナドィナについても少し考えなければなりませんし、ここ数日の面倒は喉が詰まりそうです」
死にかけの魔法少女を引きながら、優愉さんが触手幼女の確認に近付く。躊躇いなく挽肉に手を入れ、何かを探すように弄っている。音が粘っこいのは、思ったより粘液な粘液ってことだろうか。いかん、疲れからか知能が下がっている。
赤い手を白日下に曝す時、半透明のジェルを出す球体が握られていた。眼球? 血とは違う生臭さが少々あるが、匂いがなくても俺は変わらず「気持ち悪い」と言うだろう。それにしても、優愉さんの趣味が悪すぎる……いや、多分、何かしらの理由がある。そうじゃなけりゃあ、なぁ…………うん。
とにかく、これからどうする? まずは家に帰ろう。それから全部考え
※ ※ ※
「――――あ゛ー………………あ? ん、んん?」
起床を促す役割を担ったのは、時期に合わない冷風。眠気を喰ったのは、鎖で手足に架せられた箱。
「疲れが溜まっていたのか? よく眠れたようで何より」
松明の炎を背景に、赤坂 啓示が立つ。俺とそいつの狭間では、鉄棒が並んで天井から生えている。おーいおいおい、これじゃまるで『檻』じゃないか。
ああ、そうか、そうだ。これは檻なのか。関係ない話に介入させられるのだけは嫌だな。
なんか懐かしい感じだ。