2−4 伝えたい、気持ち。
背後に竜頭状の砲門を構成し、骨が焦げる火炎を放つ。私ごと、剣山めいた触手を焼き切る。そこで迷ってはいられない。引き合いに出す痛みがないならば、天秤に吊る必要もない。皮が縮み剥がれたのか、風を強く感じる。だから何だ。私はこれから、相対するモノを二度と風も感じられないようにするんだから、ただの等価交換。力と責任、罪に対する罰、その後者を前借りしている。つまり、それに合う力を発揮しても、罪を犯しても良い、その権利がある。義務がある。
「――――て――――――」
放て、放て、死ぬまで放て。天使の金言と悪魔の囁きが一口に揃う。これを幻聴だと振るう喉があるなら、もろとも消して飛ばす。
「――ま行くから――――」
? 何……? 天魔が堕昇して…………来るの? 誰が喋って?
「廻陸〜〜〜〜〜!!!」
静電気が場をピリつかせた。義務を寄越さない、等価から過剰に再分類される痛み。
何者か。叫ばれた名の主がいない。いなくなった。今の何者かが奪った。
「聞いて聞いて、さっき邪な悪趣味の魔法少女を一体殺したの!」
声がしたのは後ろ、大道路ひとつ跨ぐくらい後ろからで、節々の緩いプラモデルのような烏舞 廻陸を抱いて、まあ馬鹿みたく喋る喋る。
「それが気持ち悪い奴でね、過去に殺した男のアレを自分に移植してたんだ。自慢気に唾散らかしてさ、そいつで中学生を輪姦し回ったとか、男女無差別で。隙を与えれば与えるほども〜胸糞蛆虫這いずる気分。それとね、片神成も駆除できたんだよ! ついに三桁突入してさ、私がいちばん数少ないんだけど、最近になって発生数が増えたせいで――――ごめんね、いきなり変な話しちゃって。やっぱり、私は廻陸と一緒がいいから、でも一緒でいられなくなることもあるだろうから、その、マイナスから最後まで全部共有したくて、同じになりたくて…………だから、頑張って、丸一日かけてこっち側のまで来たんだよ。でさ、ちょっと話変わるけど、ここしばらく悩み事がないの。なんか色々忘れっぽくなっちゃったのかな、色んなタイミングを廻陸と一緒に踏みたかったんだけど、私もあえてどっち側か言えば失敗だから、早く死んじゃうのかも……廻陸と死にたいって思うけど死んでほしいわけじゃないし、心配だなあ……あはは、あったね、悩み事。嘘吐いちゃった。あ! そうそう、廻陸の友達とか名乗る病気女がね、啓示さんに会いに来たんだ。どうやって知ったのかわからないけど、自宅に、ってさ。それも、滅多に帰らない中たまたま帰れるようになった時に、わかってて狙ったように来たみたい。廻陸のこと聞きに来たんだって、何か知ってるだろって。追い返すにも力が強すぎて抵抗されて、ホコリ被った家具が壊れて、半抜けのコンセントから発火しだしてって…………感情の抜けた顔で言ってたの。ちょっとつらそうだった。でも何も言わなかったって、よく耐えたなって思って……私だったら殺してでも止めたいもん。そんなのが生きているなんて怖いし。駄目だよ廻陸、妙な奴に靡いちゃ。そうそう、久々にカード付きウエハース買ってさ、あれ食べる前が一番美味しいよね〜じゃなくってシークレットが出たんだよ!作品自体よく知らないけど……もし廻陸が知ってるのならあげようかなって。調べたら激レア! とか言うほどのものじゃなかったけど、プレゼントはする側もされる側も最低限気持ちいいものだからね。あーあ、本当なら今頃……ふたりで買い食いなんかしちゃってさ、気分が変わって夜ご飯二人で食べて、カラオケなんか行っちゃって……十時になったら公園でコンビニスイーツ食べて、ママから電話かかってくるまで話し続けて…………なんで、こんなことになったんだろうね……? 子供心に想ったような幸せな魔法じゃなくて、命のやり取りするための能力だとか、おかしいじゃん…………もっと何か、もっと別の、もっとも〜っと平和で優しいんじゃないの……? きうかさんは、廻陸を助ける魔法少女って、でも…………助けるって何……こんなの誰が望むの…………? やだよ、私、こんな、このままなんて、廻陸………………廻陸、廻陸っ……! っあ、ふ、ははっ……何してるんだろ、私…………何、したかった……んだろう…………おかしくなりそう……もうなってるん、だ。まちがったんだ、どこか…………さいしょから………………わ……わた…………たすけて……廻陸…………………………廻陸……? どうかしたの?」
「本当に、よく喋る女」
「……誰、あなた。私はね、知りもしない奴と目を合わせたいと思ったことないの」
「同感、でもわかり合えない」
戦場で話が通じないは敵、討つに限る。
「――――《髄銀填撃》――――――」
胸に込み上がる熱源が、小さなお天道様になって、闇も産ませない強烈な光撃になる。イメージするのは、持たれるこの男に一度向けた弾幕。恨み節の輝きが、とんでもない爆弾のように全方位へ放たれる。ここで振り切れ、私!
「――――射ァァァァァァーーーアッッ!!!」
――意識した初めての《能力》は、景の色がモノクロ基調に転するようで、少し気分が上がる風だった。
「はぁーっ……はぁっ…………初めて納得したよ、ヒュー・レゲノーツ…………これを肯定する気持ちが」
私を中心とした輝跡、半径九人分を立体的に滅した。あいつを除いて。
「私は否定するよ、廻陸がいない世界なんて!!!!」
「クソッ話が交わらないッ!! コードと一緒に消え去れッンの部外者がァァァアアアアア!!! 《髄銀填撃》!!!
《私の砲哮で聴えて!》!!!!!」
大口開けた咆哮がそのままビームになって竜巻と化し、左手を構えた彼の女の命を〆取る。と言うものの多分これでは死なないだろう。一度土に落ちた水は元のまま取り出せない、一生分の、いや転生分までも魔法をここでひっくり尽かす! 謂れごと散れ!! 総て!!!




