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断罪の夜と魔法少女  作者: XsINs
第1部 波章  断罪の夜更けと魔砲少女
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2−3 哀の無知

 そう、私は、何も知らない。だから、憑代にされていそうに見える少女のことも考えずに、敵を撃つことができる。可能である。確実に。




「僕の言うことがわかるかいライズ。前の混戦、全部撃ち消そう。大丈夫、魔法少女はそんなに弱くない。ただ一瞬水を差すんだ、眩めばそれでいい」




 肺にまで引っ込まない息が、キツい咳を生む。脳が右上から左下に流れ落ちるような、重さを感じる。首が曲がって死ぬ。



 そんな中で構築されたのは、大きさと中身以外はホームセンターが似合う、単純な筒でできた一発分使い捨てのビーム砲。こちら側の口に嵌められた網目に足指を引っ掛け、右は引き金(ペダル)を踏み、自身の罰も満足に受けるため、両手を横に広げる。メートルの長さを身体で学ぶ子供のように広げる。



 それが放たれると、エネルギーとして向け切れない過剰な熱が逆方向へ来る(・・)。血が唾液が涙が沸騰する勢いも、不幸なことに大した感じはない。正常な痛みなんかで嫌々を吹き飛ばせはしない。



 砲台が自壊する威力で何もかも削り取った。跡地に点々とよろける魔法少女。敵も味方も敵の敵も、焦げた程度で、ヒュー・レゲノーツの言う通り耐えている。粉塵程度で涙を流す奴らに苛立って仕方ない。もしも、この場のみんな、何かの間違いで死んでくれていたのならば、どれだけ気が楽になったか。




「―――おぁ゙っ……仲間ごと撃ちおったあのヤロゥ……! まるで敵だなあー!? 廻陸(かいろく)戻したらモー反撃してやるから覚悟する覚悟を……を?」



「あ〜ん、トゥルゥちゃんは熱に弱いの〜ん」




 グラは無言で、スティットの胴を踏み抜いた。だがこいつは見てくれ通りに絶叫を出すといったこともなく、濃く穢れ多い血と皮膚を逆撫でる犬吠えをとろとろ吐く。




「頭ア踏み゙抜がラいロか?」



「これから。無理解、急かされる。ストレス」



「カッ! ズータイだけの馬鹿がよっ」




 駄々か生地かを捏ねるような足踏み。ミンチ機から溢れる挽肉はもう見なくて良い。トゥルゥは鉄球、ミスマシに弄ばれている。まるで何らかの舞踊、チケット一枚取られないだろうにふざけた真似を。黎守(くろかみ)優愉(ゆうゆ)が対応し、ヒュー・レゲノーツはアーティと睨み合う。動きは決して多くない。近く、スティットも再生してしまうと思う。



 モクバ、いや、コード。コードは首を回して彷徨いている。骨の隙間から這い出て筋肉を構成する触手、それが奴の身体だ。私の知る、かの友人ではない、決して。



 息を吸って吐いて、また能力により砲身を構築して、準備ができれば皆々の中央へ放つ。ただそれだけ、だけを繰り返す。舞う粉塵の素すら尽きても、何度も、何度も何度も、一生済まない気が済むまで何度でも。



 コードに近寄られるにつれ、目にも見えない身の毛が燃える、その熱さが増す。皮膚にまで届いて火達磨となるのだろうか。もし今を過ぎた暁には、一日経つたび最高記録を無駄にする炎天夏も、陽日にあてられたプールのようにぬるく思える。そんな桁違いの焦灼。モクバの高熱を帯びる能力、とは火力が比較にならない。全く以て、違う。



 何度も何度も何度も何度も撃つ。巡る熱を冷まして邪念を捨てるため、引き剥がすため。




「私は邪念なの?」



「っあ」




 モクバが……………………そう、喋った気が、した。




「違っ」



また(・・)私を殺すの?」



「あ、いやっだ」




 そんなこと、モクバは言わない。しかし、そう確信が持てる程の冷静さはない。熱は満ち続けている。



 溢れると同時に蒸気となる互いの涙が、重力に逆らった泣き跡を作る。モクバの涙ではない、あれはコードから分泌された液体に過ぎない。私のこれとコードの体液とでは意味が一切合わない合うわけがない。



 しかしモクバは泣いている。確かな記憶と合致する少女は実際そうなのだと、私の脳は判断する。そんな、気分を害す非情な話があるのか!




「ねえ、ライズ? 私達はともだ」



「黙れ黙れ! 黙あァッッ―――っ!」




 血が、破裂する。目の前でモクバが消えた。残された健脚からコードが蝿蛆みたく蠢く。私の足は、新しいペダルを踏み、潰していた。最高火力の攻撃が、最短距離での一撃が、私が、モクバの大半を消した。



 蝋燭の火に倣って吹き消されたモクバと、無意識に消し飛ばしたその時の全感覚が喉元を越えて戻り、胃液を吐す。下炉がひっくり返って、酸っぱく不味いものが身体の中から痛い程に湧き続ける。表面的でない、焼けた痕にも似た痛み。



 こんなところでおろおろしている余裕はあるはずもなく、鮮明な視界を許した弊害が起きる。コードの触手が、場の全生命を貫く勢いで伸びたのだ。最も近くの私には、突き上げる針が背後から無数に生える結果となった。



 だが不思議なことに、それに依る痛みはちっともない。動きを止められている、視界に映るそれらの事実現実だけがただ苦しい。



 再生する肉体と触手が絡み、半ば奇形と化すそれは、モクバの目は、瞳には、どんな顔かも知れないぐちゃぐちゃの私しか映っていないのだろう。もしこれが、モクバであるとするのならば。……そうは思いたくない。見た目が同じだけの怪物、亡骸となってまでも唾棄し続けたいクソカス未満の糞瘤(ふんりゅう)、蝿集りの基、こいつはそうであるべきだ。そうでなくては許されない。許されざる野郎、滴り落ちる液が蚊の声のように不愉快。



 ここでこの手で殺す。私がやる。必ずやってやる。この為の力なんだから、やらなければいけない。私が……!

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