よみがえった想い
しかし、理性的に考えれば、彼女に会うことが現実的でないことは、火を見るよりも明らかだった。
1年前か2年前の昔というレベルでない話、28年前のことだ……
「私とは合わない」 彼女の最後の言葉が忘れられない―
話し合いの無いまま、突きつけられた現実だった。
少しずつ紡いできた彼女への想いを続けることが出来ない―
ショックを抱えたまま、彼女のことを考えない人生を歩んできた。
今の家族をやしなうため、彼女のことは忘れて生きてきた。
目が不自由になっても、変わらず前を向いていた。
そんな状況で、いきなり私の心によみがえった彼女への想いは、理性的な考えを抑え込んでいた。
何であの時そんなことをしてしまったんだ―
彼女に1回言われただけであきらめた。もっと彼女と向き合うべきだった。後悔を残さないために―
決して動かすことの出来ない過去、私は人生で初めて、大きく激しく後悔していた。
涙が溢れて止まらなくなった。 28年前のことなのに。彼女はその時にいなくなったのに。
28年前に味わった喪失感が蘇った。
目が不自由になり、そのことを受け入れてきた。
しかし、彼女のことが心によみがえった時、目が不自由になったことを初めて呪った。
いや、深い悲しみが心に広がった。
彼女に会いたいという話の前に、自由に動くことが難しい現実だった。何もできない絶望感も感じた。
しかし、身勝手な自分である。 彼女と別れてから、二人の女性と結婚しているではないか。
今の家族があるのに、昔の彼女のことを考えるのか。 そう言う意見がもっともだ。
しかし、理性的でない心が支配した自分は、彼女の存在を一番上にしていた。
普通ではあり得ないだろう。
28年前に別れた、いやフラれた彼女のことを一番にするとは。
今までの人生の中で、身内との別れも多く経験してきた。悲しい出来事も多くあった。
しかし、ある程度すれば、自分の中でそれらを昇華していた。
だが、今回の彼女への想いは、それまでの人生では起こらなかった、激しく長いものになった。
彼女へのよみがえった想いは、自分を支配した。
時が無情に過ぎていく。私はなすすべも無く、ただ泣いていた。




