人生最悪の日
いきなりのことで、きちんとした行動がとれなかった。
その時、体調が悪かったことも影響していた。
医院の中に入ると、彼女の両親も見に来ていた。
ここからの自分の行動が、その後の人生に大きく影響していた。
その時には、全く分かっていなかった。
ガラスの仕切り越しに、生まれた赤ちゃんを彼女の両親が見ていた。
それに気づいて、直ぐに挨拶すれば問題なかった。
しかし、その時なぜか両親への挨拶がきちんと出来なかった。
ただ、ぼんやりと赤ちゃんを見ていた。
車に帰るまでの間のことは、覚えていない。
自分の対応・態度が今までと違っていたことを、彼女は直ぐに気づいたようである。
更に別れ際にも、今までならば、彼女にきちんとした言葉をかけていた。
「今日は、親と一緒に帰るから」 彼女は、そう言った。その時は、まだ「笑顔」で。
「あー、そう」 ぶっきらぼうに、自分は答えた。
何故、そのような態度を取ったのかは覚えていない。ただ、その時のことは覚えている。
あらためて、その時の行動を思い起こすと、はげしい悔恨にさいなまれる。
自分が死ぬ時に、人生最悪の日はいつだったかと振り返ると、この日しかない。
自分の好きな「笑顔の彼女」を見るのは最後になった。




