ドキッとする言葉
彼女は、黒い服装が好きだと言っていた。気が強い女性は、黒を着るとも。
家で犬を飼っているそうだ。2匹の犬で、名前は「リキ」と「ムク」だった。
「リキ」の名前の意味は覚えていないが、「ムク」の方は体がムクムクしているからと言っていた。
彼女は、渓谷や公園などでベンチに腰かける時、よく言っていたことがあった。
それは、「硬くない?」と自分が心配した時、「お尻は大きいから大丈夫」という言葉だった。
自分には「ドキッ」とする言葉だった。
彼女の体を想像することは、避けていた。嫌なわけは無いのだが、彼女のことは本当に大事に想っていた。
なので、性的なことは、もう少し後で、と考えていた。
手も握れなかった。29歳にもなって、中学生か。
今思えば、積極的に彼女を求めても良かった気がしている。
デート以外では、固定電話で話をするしか手段が無かった。
携帯電話は、もう少し後になって、一般に普及した。
その当時、自分のすみかの固定電話には、ポケットに入るくらいの子機が付いていた。
彼女からの電話を、すぐ取れるように、子機を枕元にいつも置いていた。
固定電話しか無い時代だったので、夜勤の時には職場の電話を使うしかなかった。
今と違い、色々なことが緩い世の中だったので、必要最小限の電話使用は許されていた。
世の中がギスギスしていない雰囲気があり、暮らしやすかった感じがする。
交際をしている二人には、不便なことが多かった。しかし、幸せな時だった。