誕生の時
でれた!その瞬間、涼しくて心地良い風が体を撫でた。一体、自分はどんな体をしているのだろう。
「ゴトッ」
何の音だ。音のした方を見ると、卵があった。自分の足元にも同様の殻が落ちているのを確認し、俺も卵の中にいたのだと気付いた。あの卵から出てくる生物は、俺の兄妹になるのだろうか。だが、卵からいつ孵るかも分からない。まずは食べるものを探すことにした。
そこで気付いた。今自分は、とんでもない高さの木の枝にいるのだと!
「ギュェェ!」
何が心地良い風だ!人間であれば吹っ飛ばされていただろう。本当に一体どんな生物になってしまったのか。柔らかな風に後押しされるように木の枝の先にある果実に近付いた。その果実は人間の頭の3倍、いや5倍はあろうかという大きさをしている。それに、頭上から5メートルは上にある。一体どうやって取ればいいのだろうか思案していると、後ろから声が聞こえてきた。
「風を操って取ればいいんだよ。こんな風にね。」
その瞬間、大きな果実が落ちてきた。一体、どういうことなんだ。振り返ると、美少年としか言いようのない茶髪の男が立っていた。だが、人間ではない。頭から茶色い兎の耳のようなものが生えている。また、お尻の部分からは細長く茶色い尻尾が生えている。まじまじと男を眺めていると、男は、フンッと鼻を鳴らした。
「匂いで兄だと分からないのか?俺はもうこの木を降りる。弟を頼んだよ。」
そう言って彼は木から飛び降りた。目で追ったが、すぐに姿が見えなくなってしまった。
「取り敢えず、この果実を食べてみるか。」
って喋れるんかーい。と心の中でセルフツッコミを入れたが、寂しさが増しただけだった。
「ふー満腹満腹。そろそろ戻るかー。」
果実を半分ほど食べて、弟を残してきた場所に戻った。だが、一向に弟は殻から出てこず、今日のところは寝ることにした。