運命の日
「ピピピピッ…ピピピピッ……」
いつものように2,3コールめで目覚ましを止めて、起き上がった。
今日は火曜日で、大学の講義は3限からだ。大学は家から遠く、バイクで1時間ほどかかる。急いで洗面所で顔を洗って服を着替えた。
「食パンでも食べてから行くか。」そう口に出した時には、食パンの袋を開けていた。
食パンをかじりながら、ぼーっとテレビの音に耳を傾けた。
「昨夜21時ごろ、15年間植物状態であった28歳の女性が目を覚ましました。植物状態が1年以上続いた場合、植物状態から回復する見込みはないと考えられていました。しかしながら、奇跡的に女性は回復し、リハビリ治療が行われるとのことです。続いてのニュースは……」
食パンを食べ終わり、テレビ画面の時刻に目をやると、12:08と表示されていた。講義は、13:00スタートだ。急いでいたら立ち上がる際に、机に足をぶつけた。その痛みを我慢しながら、鞄を背負って玄関の扉を開けた。
「あちー。大学行くのだりー。」
ムワッとした夏の空気が肌に絡みつき、やる気を削いでくる。だが、4回の夏現在までに取得した単位は84単位。ここで行かなければ4年での卒業が危ういため、行くしかないのだ。
「勝てねーなぁ。」とひとりごちて、バイクに跨った。そのタイミングで丁度、メッセージがきた。携帯の画面を見ると、父親からだった。
「穂貴、学校は行ったのか?ちゃんと卒業するんだぞ。」
「うっせーなぁ。」ため息混じりに言葉を吐くと、返信はせずに携帯を鞄に突っ込んだ。
バイクで登校するようになってから3年目。鼻歌を歌いながら、少し飛ばし気味で坂道を登っていく。曲がり角まで来た。
「いつもほとんど車も人も見かけないし、このまま行くかー。」
半分回ったところで、人影が見えた……ような気がしたんだ。
視界がスローモーションになったかと思えば、俺は、壁に激突していた。