読者への挑戦状。推理ミステリー。
お見舞いの花を持った少女が、母親と手を繋ぎ、病室の前で突っ立っている。
左手のそのバスケットには、黄と桃色のブリザードフラワーがいっぱいに詰められている。うっとり見惚れる程に美しいのだが、何かが物足りない気がした。
右手で繋ぐ母親の大きな手は、さっきからブルブルと震えている。しかも、気持ち悪いくらい冷たい。
体調が悪いのかな?と、私は一刻も早く中にいるパパに会わせ、安心したかったのです。
「ママー?入らないの?」
母は自分の世界に入り込んでいたのだろうか、私の呼びかけでビクッと動揺しました。こういうのを唖然?というのでしょうか。
「えっ、あぁ。ごめんごめん、...じゃあ、他の患者はんもいるから、ノックしてから中に入ろっか」
うん!と威勢のいい返事をした私は、繋いでいた気持ち悪い手を振り解き、父のいる病室のドアをトントンと中指を曲げた骨で叩きました。
中には、四人のおじさん達がベットで横になっているようでした。一番奥の右側、「山田」という私達の苗字のカーテンを開けると、小さなテレビ眺めている父がいました。
「パパー!!」
「おお、ひな。お見舞いに来てくれたんか」
「うん!これプレゼント!!」
「おー!綺麗な花だ。ここに飾っておいとくよありがとう」
「でもこれさ、なんか、これ花じゃない気がするの」
「そうかぁ?これは枯れないように凍らせたやつで、香りがないから、そう感じるのかもな。あ、恵美子」
「...良かった全然元気っぽいね」
「あぁ、どっかで俺はヒ素をどっかで盛られたみたいだ。致死量じゃ無いみたいだからなんとか助かった」
「ひそー?ひそってなにー?」
「毒のことだよー。もしいっぱい飲み込んでたらパパ死ぬところだったんだよ」
「えー!?そうなの!?嫌だよー!」
「お医者さんから聞いけど。あなた、本当に心当たりないの?」
「うーん。一応飲み込んだ時間帯は昨日の昼らしいんだけどな」
「昼ごはんは何食べたの?」
「オフィス近くの弁当屋で買ったよ、でも俺以外にそこで買った会社のやつに、倒れたやついないんだよ。
〜数年後〜
「ひな!はいこれ、お弁当と水筒ちゃんと持って行って!ほらお父さんも!」
女子高生になっていた私。何故か、今。忘れかけていたあのころの記憶が蘇ってきました。
「ママいつもありがとう」
「どうしたの、いきなり。気持ち悪い子ね」
「じゃあ、行ってくるよ」
「あ、お父さん行ってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
「ほら、ひなも早く準備しなさい!」
「はーい」
ああ、そうだあの時。
小さい頃の私は何かを感じ取っていた。
でも、記憶は曖昧で。それ以上は思い出せなかった。
その日の夜、父にあの日の事について聞いた話です。
あの後、刑事さん達は、数日間に渡って聞き込みや、パパの職場、弁当屋さんの環境調査等を行い、父が会社近くで買った弁当は回収されたそうです。
特にお弁当屋さんの調理室なんかは、隅から隅まで入念に調べられたそうですが。
ですが、一切それらしきものは検出されず。結局誰がヒ素を用いて毒殺を図ったのか分からずじまい。数年経った今では未解決事件として収束しています。
自室で寝転び、あの頃を思い出した私は考えます。
やっぱり、どうしても母が犯人としか思えません。
あの病室前での手の震え。あの時は、お父さんを失いたくない恐怖や不安から心悲しげになっていたのかと思っていたが、それはない。おかしいのだ。
だって、父と話していた時、母は医者から状態聞いたと自ら申告していたのだ。
病状を知ってるんだから、震えることなく堂々と病室に入れるはずだ。それなのに震えていた理由。
“ヒ素を盛ったことが夫にバレてないか?”
それで怯えていた。それしかないじゃないか。
でも一体、そうだとしたら、お母さんはどこに毒を盛ったのか?父はその日、お弁当は買っていたといっていたし。食べた物からは検出されてないらしいし。
そもそも何故あの日は、母は弁当を作らなかったのか?ああそうだ、あの頃はお母さん、週三くらいで朝からパートで働いていたんだ。
食べ物じゃなければ、飲み物?
そうだ、水筒ならば、いつもお母さんはお弁当と一緒に出す。いくら忙しくても水筒くらいは出していたろう。手っ取り早くお父さんに、あの日水筒を持っていったか聞けば分かるのだが。もしそれで父が妻を犯人と分かって仕舞えば離婚問題に繋がり家庭崩壊してしまう恐れがあるな。それは避けたい。
いや違う、父の話だと。警察は父の持参物を押収したんだっけか。そうなると、この考察はパーになる。
なんだろう。私はミスリードをしているのか?
何を見落としている?
なんだろうか、何かが引っかかる。
何か、忘れてはいけない事を忘れている気がする。
あとちょっと。それが思い出せれば、
全ての謎が解けるはずなのに。
...!!!!
...ああ、そう言う事か、