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赤い夜に、魔女は泣く  作者: 与瀬啓一
第5章~ウィケヴントの種~
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67.以前のように~2~

 こうして久々に魔術による診察をやるのだが、なんだか、いけない事をしている気がする。


 小さく息を荒げるツルカの額に自分の額をぴったりとくっつけた状態でコレットは、ふとそんなことを思う。


 顔立ちや体つき自体は比較的幼いツルカなのだが、その赤面させながら荒い呼吸をする彼女の顔はどこか大人の色気みたいなものが出ているように思える。


 実際、何一ついけない事はしていない。これも診断する上で必要な、いわば医療行為だ。


 だから別になにも後ろめたい気持ちになる必要はないのだが、なんというか、後ろからの視線が痛い。


「あの、アウリールさん。あんまりまじまじと見られるとなんというか……」


 いったん額を離して後ろにいるアウリールに声をかける。隣のレヴォルはなぜか苦笑い。


「あ、いえ。一体何をなさるのだろうと思いまして」


「体の状態を、魔術を用いて診るんです。もちろん、問診だったり、触診、視診も大事ですし、それで何の病気か分かったりするんですが、この魔術を使った方が私には分かりやすいので……」


 なるほど、と軽い相槌。うんうんと首を縦に振っている。


 たぶん、この国ではこういう魔術は存在しないのだろう。どういうわけかダイナ曰く、私が使っている魔術は普通ではないらしい。自分自身、これが当たり前だと思っていたため実感はないが。


「えー、それじゃあ……」


 こほん、と一度咳払いをしてもう一度ツルカの額に自分の額をくっつける。


「その身に宿りし精霊よ。汝らに巣くう悪魔を我へ示したまへ」


 呪文を唱えた。


 この魔術は、簡単に言ってしまえば人の体の中を覗き込む魔術だ。精神魔術の一種らしい。


 使えるようになったばかりのころはそんなこと知る由もなかったのだが、しばらく経ってから祖母が、「あんた、治癒魔術以外もできるじゃないか」と言われて初めて知った。


 ちなみに、精神魔術はこれ以外全く使えない。


 額と額を合わせるのは、これが一番診やすいからだ。



 スッと額を離す。


「コレット様、ツルカ様の容態はどのようなものでしょうか?」


 言わなければいけないだろうか。これは果たして、言うほどの事だろうか。というか彼女のこの三日間の生活を見ていれば誰だって想像がつくはずなのだが。


 いや、言うべきだろう。私は『草原の魔女』なのだ。いわば魔術が使えるお医者さん。彼女の状態を正確に彼に伝える必要がある。


「風邪です」


「か……ぜ?」


 そんな反応だろうとは思った。よりにもよって一国の女王が風邪で寝込むなど、到底考えられないだろう。


「風邪です」


 念を押すようにもう一度繰り返す。


「原因はいくつかあるのですが、寝不足と軽度の栄養失調。これにより体の免疫力が下がって、風邪をひいたみたいですね。……とりあえずこれを渡しときます」


 そう言って肩に掛けてある鞄を開けて、中の小指ぐらいの大きさの瓶を一本取りだし、それをアウリールに渡す。


「ただの風邪薬です。少し別のものを混ぜて効き目を上げているんですけどね。これを飲んでもらって安静にしていたらすぐに治りますよ」


 アウリールの手に風邪薬が渡ったのをこの目で確認すると、顔を上げる。


 アウリールがぽかりと口を開けていた。


「どうかされましたか?」


「いえ、本当にお医者様のようだなと思いまして」


 それはまあ、そうだろう。診断して薬を出して、やっていること自体は普通の医者と何ら変わりない。


 別に医者になりたかったわけではない。これしかできなかったから、この道を選んだのだ。かといって嫌々やっているわけでもない。


「ありがとうございます、コレット様。これでツルカ様に元気になっていただけます。本当になんとお礼を言ったらよいか……」


「お礼なんて……その気持ちだけで十分ですよ。私は、私ができることをしただけですから」


 そうだ、この気持ちを貰えるのが何よりも嬉しいのだ。


 自分のような才能の欠片もない人間でも、こうやって人の役に立てる、感謝されることができる、それだけで私は十分なのだ。


「やはりあなたに頼むしかありませんね」


 ぼそりとアウリールがそう口にする。頼み、ということはまだ誰か病床に就いている人が居るという事だろうか。だとするなら、自分にできることなら助けたい。


「私にできることであれば、私が助けられるものであれば、誰だって助けます。それが私ですから」


 アウリールの顔が輝いた、と思う。


 その変わりっぷり、相当大事な人なのだろう。奥さんとか、恋人とか。


「では、改めて。コレット様、あなたにこの国を救っていただきたいのです」


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