48.〝わたし〟にできること
少女は知っていた。自分に何が出来て、何が出来ないのかを。少女は熟知していた。自分が出来ることが何なのか、何に使えるのか、何ができるのか。全部知っていた。
少女は気づいていた。自分が今どうなっているのかを、自分が今後どうなってしまうのかを。
自分にしては、よくやったと思う。目が見えないながらしっかりと調合は成功している。そういう手応えがあった。目が見えずともなんとなく分かる。
何にだって、余計なものが加わればどれだけ良いものでも悪いものに変化する。どれだけ良い人でも、少しの憎悪や嫉妬心で豹変するのは知っていた。この目で見てきた。
薬だって同じなのだ。どれだけ人の命を救うことが出来る薬でも、それに余計なものを足せばどんな命でも奪う毒になる。それを知っていた。
自分がもう長くはないことは何となくわかっている。あの夢で見る人影も今では鮮明に見えるようになっているし、その口が何を言っているのかも分かる。『ワルプルギスの夜を再現しよう』、そう言っているのだ。
自分が、”ワルプルギスの夜”を引き起こす災害になりかけていることに少女は気づいていた。
だからこの手段を選んだ。この結末を選んだ。レヴォルやダイナ、他の自分を慕ってくれた人には申し訳ないと思う。
特にレヴォルには。最後の我儘に付き合ってくれた彼のやさしさが、私は好きだったのだ。好きな人と最後に過ごせたのはすごく幸せだった。だからもう、思い残すことはないのだ。後ろを振り返る必要はないのだ。
自分のせいで、誰かに迷惑をかける必要も、もうないのだ。だから……。
少女は自分の前に置いてある透明な液体が入った容器を手に取る。もちろん彼女にその容器も、液体の色も見えてはいない。しかし今の彼女にとって、そんなことは些細な問題でしかなかったのだ。
その容器に少女は自分の唇をつけた。
直後、雨が降る音に混ざって、ガラスの容器が床に落ちて儚くガシャリと音を立てて割れた。
一つの命を、散らそうとするように。