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赤い夜に、魔女は泣く  作者: 与瀬啓一
第3章~ネーヴェ王国~
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47.黒い昼に、魔女は出掛ける~3~

 それ以降はジークハルトの奢りでお茶を飲みながらいろいろと話した。コレットの現在の状態、目が見えなくなっているのはダイナはどうやら知っていたようではあったが、ワルプルギスの夜が引き起こされてしまう可能性があることも伝えた。そうならないために、コレットをそうさせないためにも色々と手を貸してほしいとも伝えた。正直、自分一人ではもうどうしようもない事態に発展していることにはうすうす感づいていた。コレットの絶望の感情を取り除くと口にするのは簡単だが、実際どうしていいかも分からない。


 今日のデートで何か変化があればいいのだが。


 それに彼らがこの国に来た理由も分かった。魔女狩りの余韻、それがどうやら残ってしまっているらしく、あの国では生きていくのは難しいと考えた結果、この国に住むことにしたらしい。


 宿探しの途中だったそうだ。その最中、先ほどの一件に巻き込まれた、というより自ら巻き込まれに行ったというべきだろうか。


 宿を探しているなら自分たち同様城に来ないかと提案したのはコレットだった。なんというか、本当に優しい女の子だ。困っている人に真っ先に手を差し伸べていくのが彼女のいい所だろう。


 しかしジークハルトは、そこまで世話になるのは申し訳ないと言ってコレットの提案を断った。ダイナの方はどうしても城に行きたそうに見えたが、兄に説得される形で諦めたようだった。


 一人の少女が手を振りながら腕を引っ張られて去っていく。嵐のような女の子だったな、と思う。


 あの二人の宿が無事見つかるのを祈っておこう。


「行っちゃったね」


 コレットが少し寂しそうに言った。きっとダイナは、コレットにとって数少ない年の近い友達なのだろう。友達を失い、裏切られたコレットにとっての唯一の友達。別れを寂しく感じるのは当たり前だろう。


「僕たちも行こうか」


 そう言いながら僕の背に乗っているコレットの方を振り返る。


 コレットは小さく微笑むと、こくりと頷いた。僕はその顔にどこか既視感を覚えた。


「あ」


 少し歩いたときにコレットが僕の足を止めた。


「どうかした?」


「ちょっと寄りたいところがあるんだけど、少しだけいいかな?」


 その時すでに時刻は夕方の五時を回っていた。夕日が見えない代わりに空を覆う黒い雲のおかげか、周りはすでに夜と見紛うほど暗くなっていた。


「どこに行きたいんだ?」


「薬草屋」


 なんだそれ、と思う。初めて聞くものだ。名前から察するに薬草を売っているのは何となくわかるが。


 僕が黙っているのに耐えられなくなったのか、コレットが続けて口を開いた。


「薬草を売ってるお店だよ。基本的に薬師の人が使うようなものが売ってる。病院とかでもそこから薬草を仕入れて薬を作ってるから、多分この国にもあると思うんだ」


 なるほど、そういう店もあるのか。今まで自分とは縁のない世界だったため知らなかった。


「もしかして、今日使った薬の?」


「あー、うん。そんなところ」


 そんな気のない返事を聞きながら薬草屋というものを探す。それほど目にすることがないのでなかなか見つからないと思っていたが、意外とすぐに見つかった。


 高々と『薬草屋』という看板が掲げられている店が目に入る。


「あった」


 ぼそりと呟いてそちらに足を向ける。


 店の扉を開けて中に入る。が、入った瞬間鼻をつまみたくなるような臭いが鼻の穴を刺激してきた。


「……なんだこれ」


「臭いでしょ? 私も最初は苦手だったんだけどね。大丈夫、すぐ慣れるよ」


 これが天然の、加工されていない薬草の臭いか。良薬は口に苦しとは言うが口だけに言えたことではないな、これは。


「なんていうやつが欲しいんだ?」


 棚に並べられた薬草を眺めながらコレットに尋ねる。


 どれも似たような見た目をしている。色は基本的に緑色なのだが、ところどころ紫やら黄色が混ざっている。


 臭いもそれぞれ独特なのだろうが鼻が完全に麻痺してしまっていてよく分からなかった。


「えっと、ウルラ草っていう紫色の葉っぱがギザギザしてるやつと、緑色の細長い葉っぱのルユミラ、あとそれから、ダヴアーっていう丸い葉っぱのやつ、これも緑色ね」


 言われたものを探す。なんというか、知らない名前ばかりだ。しっかりと特徴を教えてくれたのはありがたい。三つともすぐに見つけることが出来た。


 その三つをもって店主のもとへ向かう。


 その葉を台の上に置く。


「この三つをいただきたいのだが、お代はいくらだろうか?」


 尋ねるが、店主はコレットの顔をまじまじと見つめて反応をしない。その強面を歪め、何かを確認するように僕とコレットの顔を交互に見る。


「あの……」


「やっぱり、昼間の嬢ちゃんじゃねえか。随分とお手柄だったな」


 ニカリと笑ってその強面を緩めた。


 どうやら昼間の騒ぎを目撃した人物らしい。


「いやー、この街に、というよりこの国に回復魔術をあんな風に使う魔女が居るとは思わなかったぜ。明日には街中の有名人だろうなぁ、お嬢ちゃん。『盲目の天使様』ってな」


 そう言って店主が笑う。


 その言葉にコレットもあはは、と愛想笑いをしていた。


「あの、それはそうとお代のほうは……」


「んなもんいらねーよ。初回サービスってやつだ。良いもんも見せてもらったしな。今後とも贔屓にしてくれりゃそれで十分さ」


 なんとも豪放磊落(ごうほうらいらく)な男性だ。その言葉に甘えることにしよう。


「ありがとう、それじゃあこれは貰っていくよ」


「おう! またな、あんちゃん、それに嬢ちゃんも! また来てくれよな!」


 その言葉を背中で受け止めて店を出た。


「なんか、ああいう風に言われるとちょっと恥ずかしいね」


 後ろでコレットが小さな声で言う。


「昔は、村では結構当たり前に魔女様とか言われてたけど、久しぶりにそういう風に言われたらやっぱり嬉しいね。しばらく、そういう事もなかったし」


 その声はどこか少し寂しそうに聞こえた。照れ隠しだろうと言われてしまえば何も言い返せなくなってしまうが、それとは別の、儚い感じがしたのだ。彼女の言葉は。


「きっと、この街でもすぐに慣れるよ。いろんな人の命を救って、困っている人に手を差し伸べて。それが君だろう?

 君がそうしたいというなら僕もそれを助けるし、助けたい。だから、少しずつでもこの国での生活にも慣れていこう。だって君は、この国の『天使様』なんだろ?」


「レヴォルにそういう風に励まされると、ちょっと自信がついちゃうなぁ」


「自信がついたって良いじゃないか。君には自信をつけるだけの実力と、優しさがあるんだから」


 ポツリ、と頬に何か冷たいものが当たる。どうやら天気は最後の最後に裏切ってくれたらしい。


「そういえばツルカさんが君に用事があるって言ってたよ。帰ったらツルカさんのところに行ってあげて」


 なんだろうか。いや、まあ何となく想像はつく。どうせ今日のデートがどうだったかだとか聞いてくるのだろう。


「分かった、そうするよ。……雨が降り出したから、急いで戻ろうか」


 そう言って少し駆け足で城に向かった。その言葉に対してコレットは何も言わなかったが、代わりに小さく微笑んで頷いた。


 結局、昨晩の自分の疑問の答えは見つからなかった。


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