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赤い夜に、魔女は泣く  作者: 与瀬啓一
第2章~森に向かって~
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22.胸の内~2~

 太陽がちょうど真上に昇る頃。


「ねぇレヴォル、森まであとどれくらいかかるの?」


「休みなしであと半日はかかる」


「じゃあ、たどり着くのは夜中?」


「ぐらいになるね」


 朝方に町を出てから六時間か七時間は経つ。


 さらに森まであと半日……。


「お腹すいたなぁ」


 朝はバタバタしていたため朝食を食べていない。最後に食べたのは昨日の夕方のアップルパイだ。


「荷物の中に食料があるよ」


「ほんと!?」


 そう言われて荷物の中を少し漁ってみる。


「これかな?」


 小さな紙包みを手に取り、それを開ける。


 中には燻製の肉が入っていた。


 それを二つほどもって馬車の中を這いずりながら、馭者席(ぎょしゃせき)に移り、レヴォルの隣に腰を下ろす。


「コレット、危ないから中に居てくれないか?」


「大丈夫だよ。それに、後ろにいる人に話しかけるより、横にいる人に話しかける方が楽でしょ?」


 言いながら燻製肉を一かじり。


 確かにそうだけど、などと聞こえたが無視する。


「君も食べるでしょ?」


 もう片方の燻製肉をレヴォルに手渡す。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 平和だ。この何でもない会話がずっと続けばいいな、とか思ったりもする。


「コレット」


「なに?」


「森に着いた後、君はどうするんだ?」


 そう言えば森に着いた後のことはしゃべっていなかったな、と思い出す。


「森に沿って西側を進んで北の『ネーヴェ』っていう国に行こうと思ってるよ。あそこが多分、魔女にとって一番安全な国」


 さすがにそこから先のことは考えていない。魔女であるという時点で待遇は悪いものではないと思われるが。


「そっか、北か」


「君はどうするの?」


 今度は自分がレヴォルに尋ねる。


「僕は……森をそのまま抜けて帝国に入ろうと思う」


 帝国。この国とはあまり仲が良くないはずだ。今でこそ戦争はしていないが、私が生まれる前はそれはそれは激しい争いをしていたらしい。


 というのも、全部祖母から聞いた話だ。


「大丈夫なの?」


「分からない。でもほかに行く当てがないんだ。帝国の皇帝とは戦争が始まる前に会ったことがある。門前払いはされないと思う。多分。

 それと、馬車は君が使ってくれ。僕は歩いていくから」


 そうはいっているが馬車なんて私に乗りこなせるだろうか。もちろん手綱なんて握ったことはない。まあレヴォルがそこは教えてくれるだろう。


「分かった。それじゃあ、森に着いたらお別れ……だね」


「そうだな」


 森からは一人旅になる、ということだ。一人になるのは寂しいが、仕方のないことだ。


 私と彼では目指すべき場所が違う。


「……いろいろありがとね」


「僕のほうこそ、いろいろ助けてもらった。ありがとう」


 笑顔で返された。


「私なんて、特に何もしてないよ」


「本当に、そうだと思う?」


 実際特に何もしていないのだが。


「えっ? どういうこと?」


「……きっといつか分かるよ」


 たまに彼はよく分からないことを言う。


「よくわかんない」


「今はそのままでいいよ」


 ああ本当に、よく分からない。


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