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赤い夜に、魔女は泣く  作者: 与瀬啓一
第12章~鬼ごっこ~
159/177

159.残された者たち~1~

「ジーク、起きろ。日が昇っているぞ」


 ゆっさゆっさと揺れ動く体とマイクロフトのその声に、ジークハルトはがばっと体を起こした。なんだかとても長い夢を見ていたような、見ていなかったような――。


「……そうだ、奴らはどうなった」


 夢などではない。昨夜、ジークハルト達は襲われた。真っ黒な装束に身を包んだ集団に。


「奴らは……〝アンネの灯火〟は見ての通りさ」


 マイクロフトは首を動かし、周囲を見渡す。それに釣られるようにジークハルトも彼の視線を追った。


 目に入るのは半分ほど焼けたメルテルン教会、見たこともない土壁、そして――。


「彼らは、死んでいるのか?」


「ああ。脈を診てみたが、誰一人として息はしていないよ」


 地面には倒れ伏す幾人もの黒装束の姿があった。数は……ざっと二十人程度だろうか。


「奴らはなぜ僕たちを襲ったんだ」


「うーん、なぜだろうね」


「分からないのか?」


「分かる、分からないという以前に、情報が圧倒的に欠落している。いくら私たちが〝アンネの灯火〟を追っているからと言っても急すぎる。しかしまあ、昨晩の状況と現在の状況だけで幾つかの仮説は立てられる」


 マイクロフトはふらふらと教会に近づくと、黒く焦げた教会の柱に手を触れる。


「まず考えうる彼らの目的は、裏切り者であるギルバートの抹消、私たちの抹消、子どもの誘拐の三つだ。そこで、だ」


 教会の柱を撫でながら、マイクロフトはジークハルトの方に向き直る。


「教会は御覧の通りの有様だが、全焼はしていない。爆発音が大きかった割に被害は小さいんだ。つまり教会を燃やすことが目的ではない。そうなると、中にいるギルバートや私たちの命が目的ではないと推察できる」


「となると子どもの誘拐か」


「その可能性は高い。他の町でもやるくらいだ、ここに来たって不思議じゃないさ」


 確かに、それであれば納得はいく。彼らの目的はワルプルギスの夜の再現だ。この孤児院には女の子も居たし、なんなら魔術の扱えるジャスミンもいたのだ。そのあたりを嗅ぎつけてこの孤児院を襲ったとしても何ら不思議ではない。


「ギルバートたちは無事に逃げたのか」


「多分ね。けど私としては一つ分からない部分がある」


「分からない部分?」


「誰がこの黒装束たちを殺したのか、ということだ」


「それは……確かに」


 昨晩、この黒装束と応戦したのはジークハルトとマイクロフトの二人だけのはずだ。もちろん、二人は誰一人として殺していない。


 この土壁を見るとジャスミンも追手を払うために応戦したのではと考えるが、彼女のような心優しい少女が他人の命を奪うとはとてもではないがジークハルトには思えなかった。


「少なくとも、この教会にいた人間が殺したものではない。私とジークはもちろん殺していないし、ギルバートは他の子どもたちが自分の手を血に染めるような行為をするとも思えない。おそらく、第三者の介入があったとみる。

 そしてこの黒装束たちの遺体を見てみると目立った外傷はない。血の一滴だって出ていない。つまり彼らを殺した者は剣や弓矢を使わずに殺したんだ」


「となると、毒殺か?」


「あの騒動の中で毒をどうやって飲ませる? 仮に、ウィケヴントの毒のように振り撒いたのなら私たちも死んでいないとおかしいじゃないか」


「それは、まあ……」


 では誰がこの黒装束を殺したというのだろうか。他に実行可能な方法など――。


「……魔術、なのか」


「ああ、恐らくそうだろう。別に私たちも魔術に詳しいわけじゃないが、うちの国の女王様が不老になっているんだ。何があっても不思議じゃない」


 確かに人智を超えた魔術の力であれば、外から力を加えずとも命を奪うことも可能かもしれない。ただ、魔術というのは誰もが使えるものではない。一般的に魔術を扱えるのは女性のみで、習得にも二十歳未満という条件がある。


 ネーヴェ王国ではツルカ女王のおかげもあってか男性でも一つだけ魔術を扱えるようになってはいるが、このゼラティーゼ王国でそれが適用されることはないはずだ。


 つまりこの国で魔術が扱える人間は限られる。


「ジーク、この国で魔術を使えるのは……」


「一人はゼラティーゼ王国の女王、テレーズ・ゼラティーゼ。もう一人は〝アンネの灯火〟の真の教祖、僕たちが一連の事件の黒幕だと仮説を立てた魔女だけ、だと思うが」


「私たちが知りえる限りはその二人か。となると介入したのはテレーズ女王の可能性が高いな。さすがに〝アンネの灯火〟の教祖も信者を殺めるような人間ではないだろう」


「確かにそうだけど、そうとも限らないわよ」


 黒く、重たい声だった。ジークハルトの発した声でも、ましてやマイクロフトの声でもない。まるでのしかかるような重さを含んだ女性の声だ。


「……誰だ?」


「次から次へと忙しいね。あなたが教祖の魔女かな?」


 マイクロフトは空に首を(かた)げて、呼びかけるように声を出した。


「ええ、本当に。部下が無能だと大変だわ。後処理は全部私がやらなくちゃいけないもの」


 まるで響くような声だ。どこから聞こえているのかも分からない。


「どこにいる……」


「うふふ……」


 問いかけるジークハルトに、声は不気味な笑い声を返した。四方から聞こえる声。居場所を掴ませないための魔術だろうか。


「そろそろ姿を現してくれてもいいんじゃないか? でないとあなたも目的を果たせないだろう?」


 マイクロフトの言葉の直後、先ほどまで聞こえていた女の笑い声がぴたりと止んだ。その直後。


 ビュン! と何かが風を切る音をジークハルトは聞き逃さなかった。自分たちの背後、土壁のある方からだ。


 何かが飛んでくる。似たような音を聞いたことがある。これは刃が風を切る音――。


「っ……!!」


 ジークハルトは胸元の短剣を抜くと振り返った。ジークハルトめがけて飛んできているのは果物ナイフだった。目の前に来たそれを短剣で上方に払い除ける。


 払いのけた果物ナイフはくるくると回転しながら落下し、地面に垂直に突き立った。


「あら、随分と勘がいいのね。それとも、耳がいいのかしら」


 その声に、ナイフの飛んできた方にジークハルトは顔を向けた。


 そこに立っていたのは一人の女性だった。昨晩襲ってきた黒装束と同じ衣服を身に纏っている。黒髪で肩のあたりで綺麗に切りそろえられていた。


 どこかで見たことのあるような、しかしどこで見たのかを思い出せない風貌だった。


 女性は地面に突き刺さっているナイフを抜くと、それをじっと凝視してから後ろへ投げ捨てた。


「あなたが魔女だね?」


 少しずつ近づいてくる女性にマイクロフトが問う。


「そうよ。マイクロフト・ワーカー……だったかしらね」


「私たちのことは全部知っているといった顔だね」


「もちろんよ。冥途の土産に何か聞きたいことでもあるのかしら?」


 そう言って女性は不気味な笑みを浮かべた。


 ジークハルトとマイクロフトを殺すことは確定事項なのだろう。「何でも答えてあげるわ」と付け足す。


「では私から。なぜこの孤児院を襲ったんだ?」


「ああ、そこから聞くのね。てっきり私が何者なのか聞いてくると思ったのだけど。あなたの推理は大体当たっているわよ、小説家さん。確かに私たちは誘拐目的でこの孤児院を襲ったわ。ただ、外れているのはその誘拐の対象。あなたたちはここに大勢の子どもがいるからだと推理したようだけど、まったく違うわ。私たちの目的はジャスミン・カチェルアのみよ」


「ほう……」


「彼女に何か特別なものでもあるのか?」


 ジークハルトが問うと女性は大きく頷いた。


「ええ、そうよ。彼女は逸材なの。それこそ、三百年前のアンネと同じくらいに。器にするのに最適なのよ」


「それは〝ワルプルギスの夜〟の器として、か」


「ええ」


 ジャスミン・カチェルアはネーヴェの魔術学校を首席で、しかも飛び級で卒業するほど魔術の才に溢れている。そんな彼女が〝ワルプルギスの夜〟の器に成り得るということに、ジークハルトはそれ以上の疑問を抱かなかった。


「ジャスミンは生きているか? あなたなら分かるだろう?」


 マイクロフトの問いに、女性は一つため息を吐いた。


「生きてはいる、けれど少し面倒なことになっているわ。あの子は今、王都の城にいるわ。残念ながら、あなたが逃がしたギルバートたちと一緒ではないの」


「面倒なこととは?」


「テレーズがジャスミンに手を出したの。まったく本当に面倒。私が良くしてあげたのに、恩を仇で返す様な……邪魔ばかりして」


「……ではこの惨状はあなたがやったのではないんだね」


 マイクロフトは地面に倒れる黒装束を見回しながら女性に尋ねる。


「ええ。これは全部テレーズがやったの。あなたたちがピンピンしているのもあの子のおかげなのよ。会ったら感謝しておきなさい。まあ、会う機会はもうないけど。他に聞くことは?」


 尋ねる女性にマイクロフトは人差し指を立てて、


「では最後に一つ」


 と呟いた。


「どうぞ」


「あなたの名前を伺いたい」


「……ファムよ」


「偽名じゃない。本当の名前を教えてくれ」


 マイクロフトの言葉に、女性は少し驚いている様子だった。


「これが偽名ってよく分かったわね」


「ファム……ファム・ファタールからとったのだろう?おとぎ話に出てくる『男を破滅に導く女』。言い方を変えると悪女だ。そんな名前を我が子につける親はいないだろう?」


「……エラよ。これで満足かしら」


 溜息をつきながら、吐き捨てるように女性は名乗った。


「エラ……エラね。いい響きの名前じゃないか」


「褒めても何も出やしないわよ」


 ふてくされたような口調でエラが言う。


 その直後、なぜかマイクロフトが盛大に笑い出した。


 その様子に、ジークハルトはもちろん、呆気にとられたように、エラも何事かと言わんばかりの表情を浮かべている。


「……あなた、頭でもおかしくなったの?」


「いや……なに、そんなことはないさ。ただ、今日の自分は随分と冴えていると思ってね。今日みたいな日に小説を書きたいものだと思っただけさ。さあ、問答の時間は終わりにしよう」


「あら、死ぬ覚悟ができたのかしら」


「それはこちらのセリフだよ」


 その言葉を発したマイクロフトは静かに膝をついて、右手を地面につけた。


「何がしたいの?」


土魔術(ボーデ)


「……!」


 マイクロフトが唱えたのは呪文だった。四素因魔術――その中の土を操る魔術。それ単体は基本の中の基本だ。魔女であるエラからしてみれば、何も驚くような魔術ではない。


 だが、エラは驚きを隠せなかった。


「なぜ……男が魔術を……」


 エラは自分の足元に目を落としながら呟く。彼女の足元は、まるで包み込むかのように土で覆われていた。かなり強固に覆われていて、エラが足を動かそうにもびくともしない。


「いや、ね。うちの国の女王様が随分と優秀なものでね」


「……あの子、こんなことをやっていたのね」


「身動きは取れまい」


「……」


 こうしている間にも、テレーズを覆う土はその面積を広げていた。膝までしか覆っていなかった土はいつの間にか腹部まで到達している。


「さて、後は頼むよジーク」


「……ああ」


 名前を呼ばれたジークハルトは短剣を片手にエラに向かって走った。


 短剣を構え、エラの胸に突き立てる。


炎魔術(ランメ)


 ジークハルトは呪文を唱えた。炎を操る魔術。彼はそれを自身の短剣に向けて唱えた。短剣の刀身を炎で包んだのだ。


「内側から燃え尽きろ……!」


 ジークハルトの短剣は現在、エラの胸にすっぽりと収まっている。その刀身が炎を勢いよく噴き出す。


 短剣の突き刺さったエラの胸元は徐々に黒く焦げ始める。普通の人間であれば胸を刺された時点で死んでいてもおかしくはないが、ジークハルトが短剣を突き立てたこの魔女は未だに息をしている。


「あらあら、随分と必死ね」


 まるでジークハルトの攻撃など意に介していないかのように、余裕のある笑みをエラは見せた。


「……化け物か」


「まあ、その言葉が妥当でしょうね。強い感情の伴った魔術には、必ずと言っていいほど生命を変質させるほどの副作用を生む。私も、テレーズやツルカも……みんな化け物みたいなものよ」


「……くっ!!」


「ジーク!!」


 後ろでマイクロフトが呼ぶ声が聞こえる。


「残念だけど、私の身体はちっぽけな剣や炎程度じゃどうともならないわよ。まあ、小さな加護が一つ剥がれるぐらいかしら」


 うふふと不気味な笑い声をあげるエラを見て、ジークハルトは今のままではダメだと思った。


 もっと、もっと力を込めなければこの女は殺せない。いや、傷一つ付けられない。


「……うおおおおおおおおおおっ!」


 ジークハルトは短剣を握る右手に、手の甲に描かれた魔法陣に力を込めた。


炎魔術(ランメ)!!」


「無駄だって言ったでしょう?」


 エラは力なさげに垂らしていた両手を、腕まで燃えかけているジークハルトの右手にあてがった。


 直後――。


「……!?」


「魔女相手に申し訳程度の魔術で勝てると思っているの?」


 パキパキ、とまるでヒビの入るような音と共に、ジークハルトは右手に異様な冷たさを感じた。視線を右手に落とすと、つい先ほどまで燃えかけていた右手は見事なまでに氷に覆われていた。


「ジークっ!?」


 そんなマイクロフトの叫び声はジークハルトには届かなかった。


「あとはあなただけよ、小説家さん」


 この時、既にジークハルトは呼吸をしていなかった。いや、呼吸ができなくなっていたのだ。全身をくまなく氷に覆われてしまっては、鼻から空気を吸い込むことも、口から吐き出すこともできない。


「……まったく、これではこの旅で得たモノが全部無駄になってしまうじゃないか」


「余裕そうね。死ぬ準備はできた?」


 エラの下半身を覆っていた土は、いつの間にか綺麗に崩れ落ちていて、ついでに言えば土で覆われていたはずのその足はまるで絹のような美しい肌で、短剣の刺さっていた胸元は傷口がすでに塞がっていた。


「さすがに、自分より強い男が破れたのであれば諦めもつくさ」


 マイクロフトはへらっとしたいつもの笑みを浮かべた。


「それじゃあそろそろ終わりにしましょうか」


「そうだね、この茶番も終わりだ」


 すっ、と真っ直ぐ手を挙げるマイクロフトの行為の意味が、エラにはよく分からなかった。


 怪訝そうな表情を浮かべるエラだったが、その答えはすぐに分かった。


 頭上を影が通り過ぎたのだ。大きい四角形の影。その正体は絨毯だった。空飛ぶ魔法の絨毯。その影から延びる手をマイクロフトは掴んだ。


「あなたがマイクロフトね」


「いかにも。助け船感謝するよ、ツルカ女王陛下。それと騎士長アウリール殿」


 手甲をはめた手に引っ張り上げられながらマイクロフトは感謝の言葉を述べた。


「別に、礼を言われる筋合いはないわ。私は私の国の民を助けただけなんだもの」


「ジークハルトは?」


 マイクロフトが尋ねると、ツルカは自分の後ろを指さした。


「回収済みよ。とりあえず、氷は溶かしたから安心して。ただ、生死の間を彷徨っているみたいだから、この場から逃げたら本国に転送するわ」


「それはありがたい」


「……で、あの女は何?」


 ツルカはさらに後方の、地面の上でこちらをじっと睨んでいるエラを指さし、マイクロフトに尋ねた。


「彼女は……魔女、だったと思う」


「魔女……?」


「……何か書くものはないか。ペンと紙が欲しい」


 聞き返すツルカに、マイクロフトは手を差し出した。するとツルカの横にいる一人の騎士、アウリールが鞄の中から羊皮紙とペンを取り出す。


 マイクロフトはそれを受け取ると、片手で頭を抱え、ぶつぶつと呟きながらペンを走らせ始めた。


「彼女の名前は……ファム……? いや、違うな……エラ……エイナ……? まずい、名前を聞いたはずなのに思い出せない……目的も……彼女は、いや、彼……だったか? 彼は〝アンネの灯火〟の教祖で、メルテルン教会を襲った目的は……」


 マイクロフトの言葉はそこで途切れた。羊皮紙の上にはぐちゃぐちゃに殴り書きがされているが、呟くのをやめたと同時にペンを走らす腕も止めてしまっている。止めた場所で、ペン先のインクが羊皮紙に滲んでいた。


「思い出せない……全部聞いたはずなのに、全てを知ったはずなのに、何も……」


「相手は魔女よ。間違いない」


 頭を抱え、ペンを凍らせるように止めているマイクロフトに、ツルカはそう言った。


「『忘却の加護』っていう加護魔術があるの。それを使ったのね。でも、あの魔術はそう簡単に使えるモノじゃないわ。それこそ魔女にでもなれる実力がないと不可能。あなたが聞いたはずのことを忘れているのであれば、相手の魔術のせいよ。それで、あなたの言葉を汲みとると、その魔女が〝アンネの灯火〟で間違いないのよね?」


「そのはずだ。すまない、記憶が削がれていて確証はない」


「いいのよ、分かっただけでも丸儲けだわ。ひとまず、〝アンネの灯火〟は放置しましょう。このまま王都に向かうわ。今はテレーズを……ジャスミンを何とかしないと」


「……彼女に何かあったのか?」


 マイクロフトが尋ねると、ツルカは少し下を向いた。


「テレーズがジャスミンの体を乗っ取ったの。それを何とかしないと」


「……私でよければ力になろう」


 マイクロフトが俯くツルカに提言すると、ツルカは顔をあげて口を開いた。


「あなた、サクラと……『吹雪の魔女』と仲が良かったわよね」


「ああ、なんせ私の初恋の相手だからね。彼女から東洋の武術も教わっている。化け物相手ではない限り使えると思うが、どうかね」


「……頼りにしているわ」


 ふい、と顔を背けるツルカにマイクロフトは違和感を持った。マイクロフトは他人の心情を読むのに長けている。腐っても小説家なのだ。相手の感情を知ることができなくては相手に響く文章も書けない。


 今、ツルカの表情が僅かながら曇ったことをマイクロフトは見逃さなかった。『吹雪の魔女』の話をしてからだ。


 彼女に、『吹雪の魔女』になにかあったのだ。ツルカの横顔がそう言っているようにマイクロフトには見えた。そこに何が書いてあるのかも、すぐに分かった。


 だからこそ、マイクロフトはそれ以上何も問わなかった。


 ただただ揺らめく絨毯に運ばれることを選んだのだ。


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