131.思い出を繋いで~3~
「ごちそうさまでした」
そう言って布団に入った状態で上体を起こしているリルは、空になった容器を膝の上に置かれたお盆の上にそっと置いた。
「美味しかったですか?」
ジャスミンが尋ねると、リルは小さく頷いた。
「美味しかったです。なんだか体がほっこりする感じで」
そう言って微笑んだ。
それにしても、ジャスミンの料理の腕前がこれほどとは思わなかった。正直な話、見た目だけの悍ましい料理でも出てくるんじゃないかと思っていた節があった。
しかし実際はどこか懐かしさすら感じる味のスープだった。最初の期待度が低かった分、普通のスープにもかかわらずかなり感心してしまった。
「まさか本当に料理が上手いとは……」
ふと漏れ出てしまった本音にジャスミンが睨みを利かせてくる。
しかしこれは認めざるを得ない。彼女の料理の腕は父にも勝るとも劣らずといったところだ。一体、どこでこんな料理の腕を身に付けたのか。
「ジャスミンちゃんのおかげで元気が湧いてきました。エルさんも、一緒にお花が見れて楽しかったです。ありがとうございます」
リルはそう言うと少しずつ暗くなりだしている外の方に首を向ける。
「私、おじいちゃんが死んでしまってからずっと一人だったんです。もちろん、町の人とはお話しますし、仲が悪いわけじゃないんですけど、この広い宿で、ずっと一人だったんです。寝る時も、ご飯を食べる時も」
どこか寂しげな表情で語るリルは顔を今度はこちらに向けると、
「本当にお二人には感謝してます」
そう言って笑顔を見せた。
「こうして誰かが私のためにご飯を作ってくれて、眠っている間傍に居てくれて、今まで寂しかったのがどこかに行っちゃいました」
リルは祖父が亡くなって悲しいわけじゃないと言っていた。しかしそれでも寂しさというのは少しずつ彼女の心に棲みついて大きくなっていったのだろう。
ずっと我慢していたのだ、その寂しさを。
「リルはもう一人じゃないわ」
突然、ジャスミンがそう呟いた。呟くと同時に立ち上がり、リルの横たわる布団に手を突っ込むと、まるで魚でも釣り上げる勢いで、思い切り布団からリルの手を握って引っ張り出すようにして持ち上げた。
「もう友達なんだから、リルが来て欲しいって言ったら会いに行く。寂しかったらその寂しさが無くなるまで一緒にいる。今回は私たちも用事があってここには長居できないけど、また絶対に会いに来るから!」
励ますようにしてジャスミンはそう言った。
その言葉が嬉しかったのか、リルは涙を蓄えた目を閉じて大きく頷いた。
それからは夜になるまで三人でただただ話していた。お互いの事、主に僕たちのことに関しては旅をしている理由だとか、リル本人を襲った毒のことだとか。ジャスミンが全部口を開いてしまうせいでそれに付け加えるように結局全部話してしまった。
他にもリルが野菜の花言葉に詳しいだとか、僕が買った花言葉の本の話だとか、そういった話題について二人が眠ってしまうまで話していた。
リルは昼間と同様ベッドの上の布団に入った状態で、ジャスミンはそのベッドに突っ伏すようにして眠っていた。
何を思ったのかそんなジャスミンを僕はいつだったかやったようにして背負うともう一つのリルが眠っている横のベッドに運ぶと布団を被せてやった。ジャスミンの母――シエラも言っていたがジャスミンは本当に眠りが深い。ここまで動かしても眠っているとなると、逆に心配になってくる。
「さて、と」
運び終わってさて僕も寝ようと思ったときだった。
なぜ、今まで気がつかなかったのか。
「僕は……どこで眠ればいいんだ?」
仕方なく僕は床に荷物の中にある毛布を適当に敷いて眠った。
次の日の朝、体中が痛くなっていたことは言うまでもない。