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赤い夜に、魔女は泣く  作者: 与瀬啓一
第1章~魔女狩り~
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12.脱出~1~

 一人の男が立っている。顔はぼんやりとしていて目や鼻の位置は確認できるが、しっかりとした顔として認識はできない。


 その男が手招きをしている。


「さァ、こちら側へ来イ。私たちと……を実現しようじゃないカ」


 なんと言ったかは聞き取れなかった。が、何か大切なことに思えた。私は男に近づき、その手を取ろうと――。



 ふっ、と視界がブラックアウトした。ゆっくりと目を開ける。


 すると目に映ったのは、見覚えのある鉄柵。


 その鉄柵を見て、ミレイユはため息をついた。自分が牢屋の中にいることを思い出す。そして極めつけにこの夢だ。


 いつもと同じ内容、同じセリフ、同じ状況、同じ終わり方。そんな夢を三日に一回のペースで見ている。あの日から、ずっと。


 さすがに気味が悪くなる。しかも夢を見るようになってから、少しずつだが瞳の色が変色している。気が付いたのは半年前だ。そのとき、青色だった瞳が少し紫を帯びていた。


 今となっては赤紫に近い色になっている。


 『傀儡(かいらい)の魔女』アルル。彼女も瞳の色が変わっていると聞いた。昔は紫色だったらしい。しかし今日見た彼女の瞳の色は、赤かった。まるで血で染めたかのような赤。


 私の過去と瞳の変色はおそらく無関係ではない。ということは、アルルにも私と似たような経験があるのだろうか。



 カサカサ、という音に思考を遮られる。


 音がした方を見ると、二匹の蜘蛛がいた。探索に出ていた蜘蛛二匹が帰ってきたのだ。


「二人とも、起きてください。蜘蛛が帰ってきてます」


 そう言って二人を起こそうとする。コレットはすぐに起きた。が、アルルが目を覚まさない。


「あと五分だけ……」


 そう言いながら寝返りを打つ。


「いいから起きてください。蜘蛛が帰ってきたんです」


 アルルが重たそうに体を起こした。


「……本当か? 意外と早かったな」


 どうやらその帰還は彼女にとっては想定外だったようで。


「ふむ、そうか」


 何かに納得したようにそう呟いた。


「さて、それじゃあ君たちが見てきたものを、私に見せてくれないか?」

 

 そう言うと、目を閉じて左手を地面につける。するとアルルがはめている手袋の魔法陣が、蜘蛛を土から作り出した時のように淡い輝きを放つ。


 その輝きは目をつぶった状態のアルルをほんのりと照らし出す。そのままの状態でアルルは何かを感じ取るように、何かを探るようにその手を小さく地面をさするように動かしている。


 (しばら)くその動作を続けた後、アルルが口を開いた。


「……穴がある」


「穴?」


「ああ。しかもかなり大きい。人が通れるぐらいの大きさだ」


「その穴って何処に繋がってるんです?」


 コレットがアルルに尋ねる。


「これは……なんだ? 排水路?」


 排水路、ということは。


「そこから出られるってことですか?」


「その可能性は高い。これで脱出経路は確保できる。問題はどうやって牢屋から出るか、だな」


 確かにその通りだ。この牢屋から出られなくては穴のところさえ行くことができない。


 ふとあることをミレイユは思いつく。


「アルルさんの魔術で牢屋の鍵を持った人形って作れませんか?」


「無理だな。鍵の形が分からんようではどうにもならんだろう」


 無理らしい。結構いい考えだと思ったのだが。



 そのとき、コツン、コツンと足音がした。


「見回りですか?」


 アルルのほうを向きながらコレットが言う。


「いや、見回りじゃない。見回りは鎧を着た兵士が来る。こんな足音じゃない。あれはもっとうるさいからな」


 足音が少しずつ近づいてくる。鉄柵になるべく顔を近づけて外の様子を窺う。


 近づいてくるのは一人の青年だった。白い髪の、ミレイユより少しだけ年上の青年だ。どこか見覚えのある顔立ちだった。その後ろに、もう一人誰かいる。白い髪の青年の後ろをついて行くようにして歩いている。


 白い髪の青年はミレイユ、コレット、アルルの間のほぼ中心で足を止めた。

 

 それと同時に、後ろを歩いていたもう一人もその歩みを止める。


 そして青年は一言だけ。


「ええっと、君たちが魔女であっているだろうか?」


 静かな声でそう口にした。


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