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行き遅れ令嬢の婚約  作者:
一章
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後任①

 実家は馬車で十日ほどで着く郊外。

 さっさと帰ったところで今からだと服を新調する時間もないため、既製品のドレスを数着街で購入してトランクに詰めるしかない。

 実家を出てから三インチ身長が伸びた。

 もともと女子にしては背が高い方だったが、今では男性に近いくらい高さがある。

 これは既製品でサイズが合うものがあるのか?

 いつもズボンばかり履いているから服に困ることはなかったが、婚約者に会うのに流石にそれはないだろう。

 破談にはなりたいが、後々にも噂されるレベルの失態は避けないと日の光の下を歩けなくなる。なんせ相手も王宮で働いているのだから。


 あ、そうだ!

 ノエルさんに聞けばいい。ノエルと言ってもどこぞの婚約予定の男ではなく、近衛部隊に所属している女性の方だ。

 彼女の背丈も普通の男性以上に高い。いつも制服ばかり着ているが、普段着はきっとドレスのはず。

 服を購入している店を教えてもらおう。

 うん、それがいい。


 それと、お世話になった人たちに挨拶回りしないと。

 もし、仮に、上手く行って仕舞えば、残念なことに仕事を辞めさせられることだってあり得るのだし。


 絶対に嫌だけど。


 ノエルさんとのお茶会と言う名の二人だけの女子会は四日後だから、それまでに職場の人に挨拶回りしよう。

 まずは植物園の園長、上司殿のところから挨拶回りしていこうか。


 自分が受け持つ薬草園の雑草抜きを手早く終わらせて、まだ何も植えていない土に肥料を混ぜ終わると執務室がある棟に向かった。



 植物園の執務室に行くと先程手紙を届けてくれた後輩もいた。

 目を合わせるとヒィと小さく悲鳴を上げられた。

 なぜなんだ。


「マリオン。そう殺気立つなよ。何かジョンが失敗でもしたのか?」


 ゆったりとティーカップを傾けていた上司殿は眉をハの字にしてそう言った。

 やる気のなさそうな中年親父ではあるが、それでも仕草は洗練されていて貴族の出であろうと伺える。


「殺気立ってなどおりません。彼はわたしの部下ではないので迷惑を被ったこともないですね」


 同じ植物園所属だがわたしは薬草園、彼は植物研究所で働いている。

 薬や香水、薬味となるものを育てる薬草園と舶来品の植物をいかにこの国で根付かせる方法とか、災害に強い作物作りとかを模索している植物研究所ではあまりに取り扱う範囲が違う。

 一応後輩ということになっているが、わたしが受けた採用試験と彼が受けた採用試験はきっと違うものだろう。


 分野が違えば接点も少なくなる。同じ部署の後輩それだけの認識しかない。

 彼が失敗したところで、余程のことがない限りわたしが苛立つことはない。


「じゃあ、どうしてそんなに怒ってるんだ?」


「怒ってなどおりませんよ。ただ彼から届けられた手紙を見て動揺が隠しきれないといいますか……。まあ、単刀直入に言いますが、縁談が舞い込んでしまったので少し混乱してますね」


「ああ、ついに縁談が来たんだ。よかったじゃないか」

 のほほんとそう言ってのける。


 行き遅れで、もう相手がいないからここに残っているとでも思っているのだろうか。

 ここに来たばかりの頃はそうだったが、今となってはここでの生活が大切だ。結婚なんてものなんかよりもずっと。


「よくないです。お仕事が続けられなくなるかもしれないのですよ。全然よくない」


「そこは相手にお願いすればいいじゃないか。仕事を当分続けさせてくれって」


 前言撤回。きっと彼は貴族ではない。

 貴族の大切なもの。それは面子。

 よっぽど困窮してない限り見栄っ張りで、女性が社会に出ることに難色を示す輩ばかりだ。


「そう言ったら破談になりますねきっと。それはそれで素敵な案だと思いますし、わたしもそうしようかと思っていたところです」


 お父様やお母様の目の前で言ったら口を手で塞がれかねないから、二人が席を外した隙を狙おう。

 いや、あの二人がわたしを放置して席を外れるかな。

 これが最後のチャンスとばかりに変な言動をしないか見張られそうだ。


 やはり挨拶をしてすぐにでも仕事のことをぶちまけよう。席に着いたらお父様やお母様の思う壺だ。


「彼もそこまで狭量ではないと思うぞ」


 上司殿はまだ何かぶつぶつ言っている。

 まあ、本当に仕事を続けさせてもらえるのなら、婚約に否やはない。ただ面倒だなあと思うだけで。


「お相手がそんな奇特な方でしたら、その時は大人しく嫁にでも行ってやりますよ」


 いるはずのない奇特すぎる殿方についての話をしに来たのではない。


「もし、下手打って辞めることになったら引き継ぎする時間がないのですが、どうすればいいでしょうか?」


 今日は別れの挨拶と後任をどうするかについて話し合うために来たのだ。

 立つ鳥跡を濁さず。そういう諺があるのだから、わたしもそれに倣うべきだろう。もっとも飛び立ちたいなどとちっとも思ってはいないが。

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