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行き遅れ令嬢の婚約  作者:
一章
1/50

手紙

 前略

 私の可愛いじゃじゃ馬(マリオン)

 お前とノエル・マーフィー卿との婚約が決まったよ。顔合わせは一月後だ。至急、荷を纏めて家に戻るように。

 草々

 父より


 こんなのってない!

 先程同じ部署に所属する後輩によって届けられた手紙。

 何度読んでも内容が変わることはない。

苛立ちのあまり手に握り込んだ紙がくしゃりと音を立てた。

 行き遅れ目前の十八の時家を飛び出て早三年。男ばかりの王宮内にある植物園で働いていて、もう婚期なんてどうでもいいと思い始めていた矢先の話である。

 何故今更、お父様から婚約話を振られなければならないのだろう。しかもこの方、名前に見覚えがある。

 こいつ誰だ、と彼方に眠る記憶を探ると、釣書を送った相手に手紙の人物がいることを思い出した。


 十五の時にダメ元で釣書を送りつけた優良物件だ。マーフィー侯爵の嫡男。当時二十歳で王太子の側近に抜擢されたためとても有名だった。女性が群がった。

例に漏れず、お父様も娘を売り込むため釣書を送っていた。

 ただ、かなり望み薄だったが。なんせ、わたしの実家は子爵の位しかなく、下位貴族。抽選気分で送っただけだった。

 それがなんの因果か、もう結婚を諦めてしまった今頃になって返事が来るなんて。二十一の女に返事を出すとは思いもよらないじゃないか。

 釣書送って六年って。そんなに待たせていたら断られたものだと思って、違う男とゴールインしているのが普通だ。

 わたしは普通ではなく、独り身をエンジョイする変わり者だったけれど。


 人生設計めちゃくちゃだ。

 薬草園の上司殿とはそれなりに仲良くなれたし、同僚ともよく外食をする仲になった。女だと見られていない感は否めないが、それでも楽しい。

 それに、他部署の女性とも知り合えた。彼女は近衛騎士らしく、いつもかっちりした軍服を着ている。無表情がデフォルトだが、時たま笑うと惚けてしまうほどの美人さん。せっかく午後のお茶の時間を共にするくらい仲良くなってきたところなのに、結婚話が持ち上がってしまっては仕事は辞めないといけない。

 皆に会えなくなるなんて寂しすぎる。


 普通の貴族令嬢は仕事をしない。

 したとしても、家庭教師や行儀見習いを兼ねた王宮での奉公くらいだ。間違っても男と混じってズボンを履いて土いじりなんてしない。


 いっそ、今やっている職業を言ったら破談にできるのでは? 男と一緒の職場で働いていたとなっては慎みのない女だと思われて、幻滅することだろう。婚約破棄してもらえるかもしれない。


 そう思うと幾分気持ちが落ち着いた。

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