deep red a hood 『ショートストーリー その3』
第3弾。
最後の掘り出し短編作品です。
――ゴォーン。ゴォーン。
教会から鈍い鐘の音が鳴り響き、森の鳥達が一斉に飛び去る。
教会の主である天使『メアリ』は今日で十六歳になる。
貧しい世の中。メアリの朝食は一つのバターパンとミルク、今日は特別にカボチャのスープを添えた。
「聖天使エリザベスよ……暖かい食事に心から感謝致します」
日差しを浴びた天使の銅像に祈りを捧げるメアリはゆっくりと目を開けて食事を済ませる。
――コンコン。
門から戸を叩く音がするのを確認したメアリは少しばかり悩んでから門に向かって叫んだ。
「七百十四年!」
すると門の向こうから男の声が聞こえる。
「ルハーライト天界戦争!」
それを聞き終えたメアリは門を開けて顔を覗かせた。
「やっぱりさメアリ、毎回このクイズ形式の合言葉やめようぜ」
「ダメよ……バカなクロエのために勉強を踏まえたアイディアなんだから、ありがたく思いなさい」
メアリには恋を抱く男がいた……その男の名はクロエ。
これといって友達もおらず、男性に至ってはまともに会話すらしたことがなかったメアリだが……突然、ほぼ毎日教会に祈りを捧げにくるクロエに彼女は心を奪われた。
それは一目惚れだった。
「……なんでこんな冴えないヤツを」
ため息混じりに彼女がボソッと囁いた。
「ん? なんか言ったか?」
「べ、べつに何でもないわよ。それより早くやること済まして部屋に来てよね。付け根が痛くて昨日はあまり眠れなかったんだから」
メアリは左足を指差しながら言った。
「この間に直したばかりなのにな」
メアリの左足は義足である。
十年前の丁度この日。悪魔達による戦争の巻き添えにより、彼女は左足を失った。
クロエと知り合ってからメアリは、義足整合資格を持つ彼の患者である。
教壇の上に置いてあったロザリオと聖書を手に取り、器用なメアリは慣れた足取りで階段を上がる。
クロエが側にいる安心感からか、普段はしまっている白い翼もバサッと豪快に開いてみせる。
「クロエの翼って青白く光るってホント?」
メアリは階段から身を乗り出し、下にいるクロエに言った。
「え……あぁ、そんなとこかな。誰から聞いたんだ?」
「北の方に住んでる天使は皆がそうらしいわ。クロエも北から来たんでしょ? 癒しの力があるんだって、もしかしてクロエが作ってくれたこの義足にも癒しの力があるのかしら」
「ハハッ、まさか」
ぎこちない笑みを浮かべながら、クロエは聖域に立つ女神に祈りを捧げに向かう。
「クロエ?」
メアリはクロエの態度に違和感を覚え、彼の後を追う。
そして目撃してしまう……黒い翼を生やしたクロエの姿を。
メアリは慌てて階段を上がり部屋に入ると鍵を閉め、ズルズルと扉に背を委ねて座り込んだ。腕を交差させて自らを強く抱き締めて震えだす。
「ウソ……ウソよ」
「メアリ?」
ビクッと肩をすくませたメアリは扉越しにいるクロエに気付かなかった。
「ねぇクロエ、私に隠し事してない?」
「何言ってんだよ。いいから開けろよ、足見てやるからさ」
「来ないで! 汚らわしい!」
メアリは思わず叫んだ。
「アナタが悪魔だったなんて……どーして黙ってたのよ!」
「見たのかメアリ」
「私を殺す気? 初めからそのつもりで私に近づいたの? 神に祈りを捧げるなんて……何? ソレって私を侮辱してるの?」
「聞いてくれメアリ、俺は……」
「この教会から出てってよ! 顔も見たくない!」
一瞬言葉を失うクロエ。
額を扉にコツンと当てるとゆっくりと口を開く。
「好きなんだ……メアリ」
「ウソ。悪魔はウソつきなのは知ってるわ。そうやって生きてきた」
「例えそうでも愛してることだけはウソじゃない」
「そんなセリフなんていくらでもいえる……無理よ。天使と悪魔の恋は今まで叶わなかった、クルーゼとロアだって禁断の恋は実らなかった。二人の子供がどうなったか知ってる? 三歳で火炙りにされたのよ」
「俺達は違う! お前が俺をそこまで疑うなら……俺はこの場で聖水だって飲んでやる!」
しばらく続く沈黙の中、メアリの脳裏に最悪のシナリオが流れ込む。
「ウソ! バカクロエ! お願いだから…………」
勢いよく扉を開けるメアリの唇にフゥと温もりが触れる。
「……ん」
突然の口づけに言葉を無くすメアリ。
「悪魔はウソつきなんだろメアリ? 聖水なんて飲んだら俺死んじゃうじゃんか」
ニコッと笑いギュッと抱き締めるクロエ。
「でも……好きだと言うことはウソにはしないよ」
メアリの瞳に涙が溢れた。
「……バカ」
短編作品に関して機会があれば、また気軽に書いていきたいと思います。
読者の方々のご感想があれば宜しくお願いいたします。




