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さいごに

 最後に、ここまで読んで頂いた方に、少し思い描いて頂きたいことがあります。


――貴方は、自由に投げ銭を出来るのであれば、「誰に」投げ銭をしたいですか?


 私はそうですね、まず「冴木忍」という作家が思い当たります。……そうですね、web小説とは関係のない、プロのラノベ作家です。

 「卵王子カイルロッドの苦難」が好きだったし、好きな作家なのですが。その割には、あまり読めていなくてですね。あと何読んだっけな、みたいな感じです。その頃は貧乏でしてね。あまり本を買えていないのです。


 真樹操著「蘇州狐妖記」も好きでした。「チャイナ・ドリーム」という、まあ田中芳樹という人の知名度で売れた(と思う)短編集で知った人なのですが。ほんわかした雰囲気がいい味を出してました。

 まあ、投げ銭をしたい作品は、他にも色々ありますが。正直、ちょっとした意図があって、上の二作品を選んでみました。


 どちらもすでに「絶版」となっていて、電子書籍化もされていない作品です。


 今は便利な時代になりました。ネット上で探せば、古本も見つけることが出来るし、買う事も出来る。絶版になった本も、結構簡単に読むことができます。

 でも、どうやっても作者にお金を渡すことができません。ネット上で知り合った人に勧めるのも難しい。軽く頭の部分を試し読みすることすらできませんから。


 結果として、消えていきます。決して内容が悪い訳でもない、今でも好きな人は好きだと思う、そんな作品なのに。――この作品に価値を認める人は、他にもいるのに。


 投げ銭というのはきっと、web小説の、まだ目が出ていないアマチュア作家だけのものでは無いと思います。むしろweb小説には、自分に投資し、自分の力で成果を出すことを覚えなければいけない、そんな人も多いと感じます。


 報われずに消えていった作品は、web小説だけではありません。出版し、誰かの心に残りながら、それでも消えてしまった作品も多いのです。


 web小説も、書籍化したら、何がしか内容を変えたり、話を追加する場合が多い。

 内容を公開したら売れない。だから書籍化したら、無料で公開した作品とは違う内容にする。出版は商売ですからね。非常によくわかります。


 ですが、それで売れなかったら、後に残るのは、編集者が入り、イラスト等を付与して価値を高められた、有償の書籍版でしょうか。……そうではない、きっと無料のweb小説が残ります。本当にそれで良いのでしょうか?


 さらに、web小説が書籍化する場合に、その作品が投げ銭を受け付けていたら、どうするべきでしょうか。


 今までのように、少しだけ内容を変えますか?

 小エピソードを追加しますか?

 それとも削除しますか?


 実のところ、「投げ銭してくれた人にだけ見せる」という選択肢もあると思います。商売上は、それが一番誠実でしょうか。……お客さんの購買意欲は間違いなく下がりますが。


 今までのような商売を続けるのも手でしょう。この場合、投げ銭してくれた読者に二重課金を強いることになりますが。

 その場合は、都合良く「投げ銭は応援だ」と言えばいいのでしょうね。皆さんが「応援」してくれたからここまで来れました。ありがとうございます。編集さんや絵師さんのおかげでさらに素晴らしい作品になりました。よろしければ「ご愛顧」ください、と。


 インターネット上ではみんな応援にしておいて、商売は形のある商品に仕上げてから。書籍が売れなかったら打ち切られて、web版だけがネットに残る。


 大丈夫、今までとは違って、目に見える形での「応援」がありますから。収入にもなるし、もしかしたらネット上では続きが書かれるかも知れません。


 ……本当にこんなものを、大多数の読者は望んでいるのでしょうか。


 今のやり方で書籍化を続ければ、「投げ銭」という道具があっても、何も変わらないと思います。書籍が出ては消えていき、web版はそのまま残っていく。……変わるのは、そのweb版から「投げ銭」が入ってくることだけ。それっておかしくないですか?


 web小説作家に収入があれば良いなと、私も思います。ですが、それと同じ位、書籍が消えずに残ればいいなと、そんなことを思います。それは、web小説から書籍化した作家も同じです。一度書籍化したのなら、書籍版が残っていく。時には書籍版をwebで続ける。その方が自然だと、私は思います。

 投げ銭を上手く使えば、その願いもいつかきっと叶うのではないか、そう思うのです。


 私は「投げ銭」に夢を見ています。その夢は、既に述べた通りです。


 今はまだ、「投げ銭」という文化は、産声を上げたばかりです。どのように育つのかわかりません。私の見る夢とは、全く異なる方向へと進む可能性だって当然あります。

 ただ、このエッセイを通して、一つだけ、どうしても訴えたいことがありました。


 この「投げ銭」という文化を育てるのは、小説投稿サイトでも出版社でもありません。作者と読者が、この文化を育てていくのです。

 そして今は、作者が、その資質を問われているのだと思います。

 作者に求められるものは決して難しいものではありません。作品に真摯に取り組み、読者のことを考えれば、おのずと答えがでるものばかりです。


 この文化は、誠実さによって支えられる文化です。作家の創作に対する誠実さと、読者の作品に対する誠実さが、この文化を育てていくのです。


 読者にお金を求めるのです。作者も襟を正さなくてはいけません。


 一人の作者として、また、一人の読者として、この文化が育ち、消えていく作品が一つでも少なくなる、そんな未来がくることを願います。

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