正当な対価を受け取るということ
いま、この「小説家になろう」には、様々な作家が存在しています。趣味で執筆している作家、本気でプロを目指している作家、立場はさまざまでしょう。立場が様々なのに、あまり「投げ銭」というものに否定的な意見をみかけません。せいぜい、出版との関係悪化を危惧する位でしょうか。
それはそうです。お金がもらえる、他の分野では既に実績もありますよと言われれば、そりゃ貰えた方が良いよねと思っても不思議はありません。
ですが、web小説というのは、未完成のまま公開される、世にも珍しい創作物です。これは、投げ銭をする上では、他の分野には無い、web小説特有のデメリットになり得ます。
まず一つ、考えてみてください。もしも貴方が投げ銭をした小説が、中途半端なところで更新が止まって、新しい連載が始まったら、貴方はどう思うでしょうか。web小説だから仕方がない、こっちに期待しようかと、寛大な気持ちになれますか。それとも怒りますか。
そして、作者の方にはもう一つ、自分の作品を中途半端なままにしたら読者は怒らないか、考えてみて欲しいのです。
この二つの問いかけに対し、自分がお金を払う側だと寛大になれるけど、作者としては怒る読者が出てくるのが当たり前だと考える作者は、それなりにいると思います。
そんな方には一度、怒る読者が出てくるのが当たり前なのに、自分がお金を払う側だと寛大になれるのは何故か、考えてほしいのです。――それは、一般常識とweb小説のズレを、作者特有の心情や事情も含めて、理解しているからではないですか。
作家でないけど作者に理解のある人は、投げ銭をしたのにその作品が放り出されたように見える状況でも、ある程度は寛大でいてくれるかもしれません。
ですが、作者と距離のある人は、果たして寛大でいてくれるのでしょうか?
私には、とてもそうは思えません。例え10円でもお金を払ったのであれば、納得のいかない作者の行動には、怒りを覚えるのではないでしょうか。少なくとも、私は二度とその作家にお金を払わないと思います。
断言できます。お金を払って作者を応援しようなんて言っている限り、投げ銭なんてものは普及しません。作者や作者に近い人の間でお金が回るだけです。
お金を支払わせておいて応援なんていう言葉を使うのは欺瞞です。仲間内でしか通用しません。普通の人は「作品の価値」にお金を払うのです。
大多数を占めるであろう、普通の読者が投げ銭をするようにならなければ、投げ銭は普及しません。そのためには、普通の読者が安心してお金が払えないといけないのです。
投げ銭をすればエタる作品が減るかもしれない? それは逆です。エタるかもしれない作品なのに投げ銭を受け付ければ、投げ銭が普及しなくなります。
それが余りに多くなれば、「こういった作品はエタるから投げ銭するな」という情報が広がります。例えば、初投稿作品には投げ銭するなとか、そんな感じでしょうか。
これは、注意喚起の言葉であると共に、作家に対する悪評とも取れる言葉です。こういった言葉が流布しないようにしなくてはいけません。
web小説は未完成のまま、完成する目処も立たずに発表される。ですが、そんな「web小説界の常識」は理由になりません。
お金を取る以上、「必ず」完成させなければいけないのです。
エタってはいけません。作品を削除してもいけません。変更も最小限の校正に留めるべきです。
書き進めるうちに矛盾が出てきて、話を修正する必要が出てきた? 本当にそうでしょうか。もっと歯を食いしばって四六時中考えれば、辻褄を合わせることも出来るのではないですか?
まずは、改稿せずにどうにかする方法を考えましょう。
作品の質を向上させるために改稿したい? 気持ちはわかります。例えば処女作だと、執筆している途中で、様々なことを学びます。きっとどこかで書き直したくなるでしょう。自分の未熟さに思うところもあるでしょう。ですがそれって、単なる作者のわがままではありませんか?
初々しい作品を好む人というのは間違いなく存在します。こういった人たちから見れば、改稿で初々しさが消えてしまったら、魅力が半減したと感じることもあり得ます。
作者としては「改稿後の方が良い作品だから」と言いたくなるかも知れません。ですが、お金を払った人は、元々未熟なのを承知の上でお金を払ったのです。変更前の作品の値段で。
どうしても改稿したければ、一度完結させてから、別の作品として新たに起稿して下さい。
お金を取った以上、保証しなくてはいけないのは、「一般的な面白さ」ではありません。「お金を払った人にとっての面白さ」です。
表現ギリギリのエロやグロを狙ってませんか? 狙った結果、後々問題になるかもしれませんが、だからといって削除しないで下さい。どの位がセーフかわからない? 別にR18の小説を投稿できる場所なんて、いくらでもありますよ。
自分の作品はエロ小説ではないから、そんな所には置けない? そんなこと知りません。後々消さないといけないような作品でお金を支払わせようとする方がどうかしています。
お金を受け取るという選択肢を取る以上、無料と同じという訳にはいきません。そして、これらは自分の身を守ることにつながります。
結局はね、これらは有料だろうが無料だろうが、一緒のことなのです。
面白いと思ってくれている読者がいるのに大幅な改稿をするのは、一種の裏切りです。作品を畳まずに放置するのは無責任です。中途半端な所で無理矢理畳むのも一緒です。公開しておいてある日突然削除するかもしれないなんてありえません。せめて事前に宣言しておいて下さい。
これらは、今までは無料だったから、文句を言われなかっただけです。
不安があるなら金銭は求めない。求めるのは、作品を完成させて、もう読者を裏切ることはないと、作者自身が自信を持って言えるようになってからでも遅くないのではないでしょうか。
完結した後でも、心に残る作品であれば、「評価」してくれる人はきっといます。それは、「応援」なんかより、遥かに価値があると思います。
結局のところ、読者に「作品の価値」を正当に評価されることこそが、作者を励まし、奮起させるのではないかと、そう思います。