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世界は表情を変えた ~塩のない山~

作者: 懲善のヒロk

約1000文字。2分で読めます。

だからこそ、ベンチに腰掛けて遠くを見るような感じで、

5分かけてゆったりと読んでください。


ある山に、何も知らぬ男がいた。

彼はほとんど山から下りなかったので、

感情というものすらも、彼は持ち合わせていなかったのである。


ある日、彼はどうしても塩が足りなくなり、山を降りて買い物にやってきた。

人混みに疲れてしまったので、公園の長椅子に座り、

急いですることも特にないので、市場の喧騒を眺めることにした。

塩は彼の住む山では取れないので、時折山を降りてはこの椅子で座る、

というのがいつの日にか彼の習慣となった。









彼は、疑う事を知らなかった。

人々は皆、相手の事を思いやって言葉を発しているのだと思っていた。

ある日、彼は口論を耳にした。

そこで、彼の中の人間像に、新たな記述が加えられた。

人々は時折、言えない日々が続いた事柄を、吐き出さなくてはならない、と。


彼は、欲する事を知らなかった。

人々は皆、平等に全てを分配できるよう考えているのだと思っていた。

ある日、彼は口論を耳にした。

そこで、彼の中の人間像に、新たな記述が加えられた。

人々は時折、相手との意見の応酬をすり合わせることにより、天秤を釣り合わせるのだ、と。

彼の思っていることは正しいが、結論は同じでも、そこに至る過程が違うこともある、と。


彼は、罰する事を知らなかった。

人々は皆、自らの心の中に正義を飼っているのだと思っていた。

ある日、彼は口論を耳にした。

そこで、彼の中の人間像に、新たな記述が加えられた。

人々は時折、新たな規則で皆を縛り直しながら、

自らの心の中に正義をそぐわぬ者をあぶり出し、正義とは何かを認識させるのだ、と。







彼は、喜ぶ事を知らなかった。

人々は皆、自分の行動の結果を予めある程度予測しているのだと思っていた。

ある日、彼は口論を耳にした。

そこで、彼の中の人間像に、新たな記述が加えられた。

人々は時折訪れる喜ばしいことについて、

それをいかにして最高の形で迎えるかについて議論を重ね、

その労力も合わせて喜ばしい事を幸せだと感じられるように整えるのだと。






彼は、疑う事を知ってしまった。

彼は、欲する事を知ってしまった。

彼は、罰する事を知ってしまった。

そして、喜ぶ事を知ってしまった。



本当に相手は善人であるのかと考えてしまうようになった。

自分の事を理解して欲しいと考えるようになった。

相手が正しい事をしていないと気づいた時、いてもたってもいられなくなった。

常に喜びを追い求めるようになった。

疑わないでいることが、求めないでいることが、正しさを持たずにいることが。

どれだけ楽で、幸せで、世界が明るく見えていたのかを、彼は知ってしまった。

だからーーー




これら全てを知り、

もう世界の本当の色しか見ることができないと分かったこの瞬間に、







そうーーーー














彼は静かに、笑う事を知ったのである。




いかがでしたでしょうか。

一歩も動かずに話を作れるか、答えは是です。


なろうでは、エンディングがあるストーリーが思ったより少ないので、

心にストンとした感じがするストーリーがどうしても欲しいなと思い、書いてみました。

あと、実は彼は喜びについては何も語っていません。

よろしければ皆さん、喜びについて考えてみてください。

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