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ぼくは今日も胸を揉む  作者: 果実夢想
2章【匿いました。】
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#1 まさかのステータスの登場である

 怪訝に思いながらも、ユズの半歩後ろを歩き。

 やがて数十分が経過して到着したのは、とても大きな建物だった。

 所々に配置された、大きな窓。豪華で頑丈そうな扉。その扉の前に置かれている、質素な看板。

 看板には――『冒険者ギルド』と達筆な文字で記されていた。


「ここは……」


「冒険者ギルドです。冒険者という職業の方が集まり、世界各地からの依頼を受け、その依頼をこなすことで報酬金を貰っているわけですよ」


 冒険者ギルドという言葉自体は、何度も目にしたことはある。

 もちろん、ライトノベルやゲームで、だが。

 ここにきて、ようやく異世界らしい施設の登場というわけか。


「冒険者っていうのは、誰でもなれるもんなの?」


「はい、特別な資格とかは必要ないです。ただ、依頼中に負傷したり、その……死んでしまうようなことが起こる場合もあるので、そういう覚悟とか勇気がある人だけ、ですかね」


 なるほど。受注する依頼によっては、強力な魔物との戦闘などで死傷者が出る恐れもあるわけだ。

 でも、その分、貰える報酬金は他の依頼より多くなるだろう。

 ……とはいえ、今のぼくたちはそこまで金に困っていないため、わざわざ危険を冒してまで難しい依頼を受ける必要はない。


 そんなことを考えながら、ぼくたちはギルドの中に入っていく。

 外観からある程度は想像がついていたが、中はやはり広かった。

 何十畳あるのか分からないほど広い空間に、テーブルと椅子がたくさん並んでいる。

 まばらではあるものの、それらの椅子に男性が座って酒を飲んだり駄弁ったりしていた。


 奥には受付らしきものや掲示板と思しきものがあり、更には二階へと続く階段もある。

 ユズが奥に向かって歩き出したので、ぼくも後に続く。


「ユズも冒険者なの?」


「まあ、そうですね。わたしだってそんなに戦えるわけではないので、簡単なものばかり受けてきたんですけど」


「へぇ、神って敵を一瞬で蹴散らしたりできるんだと思ってた」


「そこまで強いわけないじゃないですか……。それと、わたしが神だってことは、他の人がいるところではあんまり言わないようにしてください」


「あ、そうだったね。でも大丈夫だよ、ユズは神どころかただの可愛い幼女にしか見えないし」


「なっ……馬鹿にしてるんですかっ!?」


「うん」


「うん!? うんって! そこは否定してくださいよっ!」


 何やら喚くユズだったが、見ただけでは神と思えないというのはいいことじゃないのかな。

 たとえそれでも、実際に神である立場なのだから、神に見えないのは屈辱なものなのかもしれない。

 一般人なぼくには、よく分からないけども。


 そんなことを話していると、受付に到達した。

 すると、ユズは受付のお姉さんに声をかける。


「あの、すいません。わたしの連れが、冒険者になりたいんですけど」


「でしたら、こちらの機械に利き腕を通してください」


 そう言って、お姉さんは棒状で真ん中に少し大きめの穴が空いた機械を差し出す。

 更に、その穴の少し下には細い隙間――まるで中からカードが出てきそうなものまである。

 言われた通りに、ぼくは穴の中へ右腕を突っ込む。

 すると、ガガガ……と機械的な稼動音が鳴り、下の細い隙間から何やら一枚のカードらしきものが出てきた。


「そちらに書かれているのが、あなた様の能力値となります」


「能力値……?」


「はい。現在あなた様が発揮することのできる才能、能力を数値化したものです。今その数字が低かったとしても、努力や経験次第で幾らでも能力を上げ、強くなることは可能ですので気を落としたりすることのないようお願いします」


 まさかのステータスの登場である。

 異世界と言えど、ライトノベルやゲームのような要素はさすがにないと思っていたのに、意外とステータスが存在するらしい。

 期待と不安を同時に感じながらも、ぼくはカードを手に取って書かれている文字を見る。


筋力:90

耐久:79

敏捷:122

体力:104

魔力:39

知力:61

固有スキル:隠蔽色化


 何というか……パッとしない数値だ。

 あまり高いわけではなく、かと言ってめちゃくちゃ低いわけでもなく。

 実に中途半端である。


「この能力値って、どうなんですか?」


「えっと……平均以下、ですね」


 試しに訊いてみたら、とても言いづらそうに答えられた。

 まあ、ぼくは元々平和な日本にいたわけだし、能力値が低いのは仕方ないか。

 だけど、一つだけ気になっている部分がある。


「固有スキルっていうのは何なんですか?」


 そう。一番下の項目――固有スキルについてだ。

 スキル自体は大抵のゲームに登場するため知っているものの、ぼくにスキルと呼べるような技とか能力は一切ない。

 少なくとも、ぼく自身に思い当たる節は何もなかった。


「その人特有の、能力や技を指します」


「じゃあ、この隠蔽色化というのは?」


「……何でしょう。私にも聞いたことのないスキルです」


 受付のお姉さんが何年この仕事をしているのかは分からないが、当然ぼく以外にも何人もの冒険者、冒険者志望者を見てきただろう。

 そんな人ですら聞いたことがないというのは、一体どういうことなのか。

 もしや、それほどまでにレアな能力だったりするのだろうか。


「お手数をおかけいたしますが、その能力を発動していただけないでしょうか。心の中で能力名を強く強く念じれば、すぐに発動できるはずですので」


「あ、はい、分かりました」


 言われ、ぼくは目を閉じてその通りに念じる。

 ――隠蔽色化、隠蔽色化、隠蔽色化――と。

 強く、強く、他に何も考えられなくなりそうなほど、強く。


「……なっ」


「ら、ライムさんっ?」


 すると、不意に。

 受付のお姉さんと、ユズの愕然とした声が聞こえた。

 訝り、目を開く。

 しかし、何も変わったところはない。あくまで、今ぼくの視界に映っているものは。


「ライムさん、どこにいるんですか……?」


 隣にいるユズが、辺りをキョロキョロと見回しながら言う。

 ユズだけではない。受付のお姉さんまで、まるでぼくの姿が見えていないかのようにユズと同じ挙動をしている。

 いや――まるで、と言うのは誤りか。

 ユズと受付のお姉さんは、どちらもぼくの姿が視界に映っていないのだ。


 この状況からして、間違いないだろう。

 そして、それが意味することはたった一つ。


「ぼく、透明人間になれるみたいだね」


 自分の考えを口にしながら、再度心の中で強く念じることで能力を解除させる。

 ぼくの姿が目視できるようになったらしく、二人の視点はこちらを向く。


「隠蔽色化――仰る通り、自らの肉体を不可視にする能力のようですね。恥ずかしながら、そんな能力が存在するなんて知りませんでした」


 得心がいったように、受付のお姉さんは頷いた。


 どうやら、ぼくは。

 自分の姿を隠蔽するという、素晴らしい能力を手にしたらしかった。

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