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ぼくは今日も胸を揉む  作者: 果実夢想
3章【助けました。】
37/40

#15 魔法の使い手

「二回戦の勝者――挑戦者、ライム・アプリコット!」


 司会の宣言と観客の歓声で、ぼくはふと我に返った。

 勝った……のか。


 かなりギリギリだったが、これでなんとか次のミントへ託せる。

 しかも、もうすぐでこんな命懸けの試合も終わるはずなのだ。

 次の三戦目が、この戦いのラストなのだから。


「ふぅ……戻るか」


 誰にともなく呟き、ぼくは踵を返す。

 来た道を戻り、また同じ通路を通る。


 その途中で、一人の男がミントを連れて歩いてくる。

 徐々にミントとぼくの距離が縮まり、やがて通り過ぎようとしたとき。

 ただ、ぼくたちは頷き合った。

 ――心の中で、応援と信憑を込めて。


     §


「ただいま、ユズ」


「おかえりなさ……って、ここは別に家じゃないですよ。でもまあ、お疲れ様です」


「うん、ありがと。ユズもね」


 お互いを労い、ぼくはモニターの画面を注視する。

 そこには、今登場したばかりらしい対戦相手の姿が映し出されていた。


 ぼくの第一印象としては――魔女だ。

 アニメなどでよく見かけるような三角帽子を被り、黒いローブを羽織っている。

 更に右手には杖を携えていることから、魔法を巧みに使ってくるタイプだということが分かる。

 よく見えないが、赤のセミロングが似合っていてかなり美人……いや可愛いと言ったほうが正しいか。

 清楚そうな見た目とは裏腹に、上部の画面には驚異的なステータスが表示されていた。


筋力:71

耐久:2966

敏捷:1494

体力:707

魔力:998208

知力:10958

固有スキル:無限貯蔵


 魔力が、およそ九十九万。

 ルーベルやルカも相当の数値を有してはいたが、その二人よりも上だ。

 筋力の低さなどがあまり気にならないくらい、魔法の威力が凄まじく高いのだろう。


「あの人の名前はポメロ・アリーリル。魔法国家出身の、有名な女魔術師ですよ」


「へえ、魔法国家ってのもあるんだ」


「はい。ここからはかなり遠いんですけどね」


「そんな人が、何でこんなところでこんなことしてるんだろう……」


 訝しんでいる間に、今度はミントがフィールドに登場した。

 いつも表情に乏しいため非常に分かりにくいけど、少し緊張しているような気がする。

 まあ、無理もない。

 ぼくだって、おそらくユズだって、多少なりとも緊張はしていた。

 ただ、その緊張が故の失敗、敗北は避けたいところだ。


筋力:555

耐久:921

敏捷:649213

体力:394412

魔力:6

知力:210

固有スキル:蓄積無敵


「……えっ?」


 驚いた。

 ルーベル、ルカ、そしてポメロ……三人の圧倒的な数値を見たとき以上に。


 ミントのステータスって、こんなに高かったのか。

 魔力が異常に低すぎるのだって、ハンデにすらなっていない。

 まさか、十万を遥かに越えた能力が二つもあるとは。

 正直、ぼくはミントのことを侮っていたのかもしれない。


「ついに、この勝負で決まってしまうのでしょうか! 三試合目、ポメロ・アリーリルVSミント・カーチス開戦――刮目せよッッ!」


 心なしか、司会のテンションも上がっている気がする。

 ぼくもミントの能力を見て、これなら勝てると確信を抱きはしたが。

 よくよく考えてみると、ポメロは魔法の使い手だ。

 それに対し、ミントの魔力はたった6。

 一発でも食らってしまえば、一瞬で消し炭と化すだろう。


 とはいえ、ミントは敏捷の値が途轍もなく高い。

 回避し続けることができれば、問題ない。


「ん~……六十四万に、三十九万。強いんデスねぇ~?」


「……そうでもない。あなたの九十九万には負ける」


「そんなことないデスよ~。ワタシの攻撃なんて、キミの敏捷値があれば避けられちゃいマスって~」


「……あなたのことは知っている。ポメロ・アリーリルほどの魔法の使い手なら、避けられないような魔法を放ってくるはず」


「ちょっ、ハードルを上げるのはやめてクダサイよ~。そんなの難しいんデスから~」


 な、なかなか戦闘が始まらない。

 ポメロって、意外とお喋り好きなのかもしれない。

 あまり悪い人には見えなくなるから困る。


 ……でも。ぼくは聞き逃さなかった。

 さっきのミントの発言に、返したポメロの言葉は「難しい」だ。

 そう。一切「不可能」とは言っていない。


「みんとサン。もし、この戦いで負けたら……どうしマス~? 先の二人がせっかく勝って繋いでくれたものを、たった一人、キミが。キミだけが負けてしまったら、悲しいデスよね~。悔しいデスよね~。申し訳なくなりマスよね~。地獄で、後悔したくなりマスよね~」


「……何が言いたいの」


「ししっ……もう、最初からワタシの勝利は確定しているんデスよ」


「……ッ!?」


 轟音。

 ポメロがニヤリと不敵な笑みを漏らしたのと同時に、さっきまでミントがいた場所が突如として爆風に包み込まれた。


 何だ。何が起こった。

 ポメロとミントは会話をしていただけで、どちらも妙な動きは何もしていなかった。

 一歩も動かず、手足を動かすことすらせず、ただ口だけを動かしていた。

 じゃあ今の爆発は、一体どうやって。


「……どういうこと。何をしたの」


 爆風の中から、ではない。

 いつの間にそこにいたのか、ミントはポメロのすぐ背後で言葉を投げかけた。


「もう~、いきなり後ろに立つのはやめてクダサイよ~」


「……答えて。あなたは、いつ、何を――」


 ミントの問いは、途中で遮られてしまった。

 頭上から降り注いできた、一筋のいかずちによって。


 ミントはすんでのところで躱し、ポメロからは少し離れた場所に立つ。

 やっぱり、魔法を放つ素振りなど一回もしていない。

 なのに、どうしてこんなにも強力な魔法が次々と襲いかかるんだ。


「仕方ありマセンね~。特別に、教えてあげマス。ワタシの九十九万は、一度に放つ魔力の高さではないんデスよ~」


「……?」


「分かりマセンか~? そうデスね~……九十九万という数値の魔力を何百分の一、何千分の一、何万分の一に縮め、その一つ一つを空気中にばら蒔くことができるんデスよ~。これが、ワタシの固有スキル――〈無限貯蔵〉デスね~」


「……空気中に、ばら蒔く?」


「そうデス~。つまり、このフィールド上には無数のワタシの魔力が充満している状態なのデス。だから、ワタシがちょっと意識すれば――」


 刹那、どこからともなく現れた水の光線がミントに直撃した。

 ミントは吹っ飛ばされ、壁に激突する。


「――こうやって、いつでも魔法を使うことができるわけデス」


 壁に激突したまま起き上がれずにいるミントを見据えたまま、ポメロはニッと白い歯を覗かせた。

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