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ぼくは今日も胸を揉む  作者: 果実夢想
2章【匿いました。】
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#2 チートじゃん

 ――透明人間。

 つまり、相手に気づかれないように背後を取ったり、色々なことに使える能力を手にしたことを知らされた。

 この能力さえあれば、女湯や女子トイレにもバレずに入ることができる……と思ったが、今のぼくは女の子なのだから、わざわざ能力を使う必要もないか。

 だとしたら、ぼくが元々男だったという事実を知っているユズに対してのみ、隠蔽色化を発動して色々することにしよう。うむ。


「……なんか目つきが嫌らしい気がするのは、気のせいですか」


「気のせいだよ。そういうユズの目つきは鋭い気がするんだけど、気のせいかな」


「……それは気のせいじゃないです」


 いくらぼくだからって、そんなに毎回毎回エロいことばかり考えているわけじゃないのに。心外だ。

 そんなぼくとユズのやり取りに割り込むように、受付のお姉さんは口を開く。


「それでは、能力値の項目を一つ一つ解説していきますね」


「あ、はい、ありがとうございます」


 何とも丁寧な受付である。

 ある程度ゲームをしていれば、どのステータスが何に影響するのかといったことは大体分かるが、わざわざ親切な申し出を断る理由なんてない。

 もしかしたら、ぼくが知っているのとは少し異なるものかもしれないし。


「まずは、筋力。そのまま、力の強さを意味します。戦闘面では、相手に与えるダメージ、威力の強さが数値に表れています」


 RPGで言う、攻撃力のことだ。

 ぼくの数値は90だったから、結構低いほうだろう。でも今は女の子なのだし、男だったときと比べて筋力が下がったのも仕方ない。

 それに、きっと異世界〈レスペイス〉での平均が高すぎるのだと思う。

 魔物とかがいる世界なら、筋力が高くなるのは当然とも言えるけど。


「耐久。これは、相手から受けた攻撃を、如何に耐えられるか、という数値です。この数値が低い人は、弱小モンスターにも深手を負ってしまうかもしれません」


 つまり、防御力か。

 痛いのは嫌だし、もし強そうな魔物と遭遇した場合は隠蔽色化を使用してやり過ごそう。

 そんなときが来るのか、定かじゃないが。


「敏捷は、足の速さ、回避の速度です。この数値が高ければ高いほど、相手を動きで翻弄することが可能でしょう」


 素早さだ。

 意外にも、全ステータスの中で敏捷が一番高かった。

 そこまで足が速いわけでもないだろうから、他の能力が低すぎるだけなのかな。


「体力とは、俗に言う疲れやすいか否かということです。敏捷と体力の両方が高ければ、長時間高速で走り続けることもできます」


 この能力は、一番早めに上げておきたいかもしれない。

 体力というのは、戦闘中だけでなく普段の生活でもかなり大事だろうし。


「魔力。魔法を放つ際の威力、効果範囲、必要な詠唱速度、そして相手の魔法を受けたときのダメージ……それら全てが影響します」


 魔法、か。やはり異世界というだけあって、魔法も存在するらしい。

 たとえそれでも魔法の使い方なんて分からないし、魔力が低いのは当然だ。

 むしろ、逆に39もあったことがビックリである。


「最後に、知力。これは頭の良さです」


 これだけ異様にシンプルだった。

 知力、61……何だか遠まわしに馬鹿だと言われたような気分だ。


「以上です。何か質問はありますか?」


「いえ、大丈夫です」


「でしたら、今日からあなた様は冒険者の仲間入りとなります。おめでとうございます。あちらの掲示板に貼ってある依頼を見て、できそうだと思ったものを受注して解決すれば、依頼者から報酬が貰えます。これからの冒険者生活、大事な命を亡くしてしまわないよう気をつけてくださいませ」


 さらっと怖いこと言わないでほしい。

 これでも、一応身の程は弁えているつもりだ。あまり危険な依頼は受けないようにして、できるだけ平和に暮らしていこう。

 無駄な殺生は避けるに越したことはないのです。


 自分のステータスが書いてあるカードを受け取り、ぼくはユズと一緒にギルドを後にする。

 今は、まだ依頼を受けなくてもいいだろう。金が本格的になくなったときや、異常なくらい暇なときでいいか。


「そういや、ユズの能力ってどんな感じ?」


「わたしですか? わたしは……これです」


 答え、ユズは一枚のカードを見せてくる。

 そこには、書かれていた。


筋力:45

耐久:15763

敏捷:9667

体力:5458

魔力:59476

知力:25780

固有スキル:太陽光輪


 という、尋常じゃない能力値が。


「高っ……い、けど、筋力だけめちゃくちゃ低いっ!」


「力仕事は苦手です……。そういうのは男の人に任せたいと思います。お願いしますね」


「いや、今はぼくも女なんだけど」


 どうしよう。ユズが、一向にぼくのことを女と思ってくれない。

 ユズにとっては、いくら容姿が女でも中身が男だったら、その人は男性だという認識なのかな。

 せっかく性転換したのに、ちょっと悲しい。


「それにしても、ユズ強すぎない? チートじゃん」


「いいんです。ほら、わたし神ですしっ」


「あ、卑怯だ。はい、ずる。ずるい」


「う、うっさいですっ!」


「固有スキルの太陽光輪っていうのは、どんな技なの?」


「大抵の傷は、わたしが手を翳すだけであっという間に再生することができます。血を止めることもできますし、痛みを止めることもできます」


「やっぱりチートじゃん。ほら、ずる」


「だ、だからチートでもずるでもないですよっ! わたしの立場だったら、これくらい当然なんですっ!」


「うわ、不平等だ。悪神だ」


「……だ、黙ってください。わたしと一緒にいることでライムさんの傷も治してあげられるんですから、少しは感謝するべきだと思うんですけどっ!?」


「はいはい、ありがと」


「もっと感情を込めてくださいよ~っ!」


 何はともあれ。

 そんな明るくも騒がしい会話を繰り広げながら、ぼくたちは帰路につく。


 こうして、ぼくの冒険者としての生活が始まるのだった。

 ぼくはまだ、ずっと平和なままでいられると思っていた。

 これから先に、どんな恐ろしいことが自分たちの身に降りかかるかも知らずに。


 なんて、本当に何が起こるのかは分かるわけないけど、ちょっと格好よく言ってみた。

 まるで漫画のモノローグとかライトノベルの地の文みたいで、それっぽくなった気がする。

 少しだけ満足し、ぼくは自分の胸を一揉みした。

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