七話 新聞記者の少女
その後受付の女性から、このまま報酬金を受け取るか、今すぐ受け取らずしばらく掲示板に依頼書を張り出し続けて名を売るか聞かれたが、俺は真っ先に報酬金を受け取ると答えた。
今の俺には生活を豊かにするための金が必要だ。
装備を整えるにも、消耗品を買うにも、宿に泊まるにも、だ。
名を売ることは勇者として重要なことだが、そんなことは後になってからいくらでも出来る。
俺が受付の女性から報酬金の2000Mを受け取ってその場を後にしようとすると、
「やぁやぁやぁ! そこのキミ、ちょっと待ちたまえよ!」
俺の目の前に、腰を手に当て仁王立ちのような格好で立ちはだかる少女が現れた。
「……誰だお前」
俺のその反応などまったく気に止めないといった様子で、後頭部付近で後ろに纏めた明るめの茶髪をフリフリと揺らしながら近寄ってくる。
「あたしはこのサムダルの街で新聞記者兼勇者をやってる、セルゲイ・アークネスって言うの。ちょっとキミに取材したいんだけど、いいよね?」
セルゲイは俺の眼前までぐいっと迫ってくる。
鼻と鼻がくっついてしまうんじゃないかというくらいの距離感だ。
「しゅ、取材……?」
新聞記者だと言っていたし、恐らく新聞の取材なのだろうが……、
「いいよね? ね?」
「近いっ……離れろっ!」
俺はセルゲイを体から引き剥がす。
「もう、ちょっとくらい近くたっていいじゃない! それで、取材は受けてくれる?」
再び問われたその問いに、俺は逡巡した。
新聞記者から、しかもこのタイミングでピンポイントに俺だけ取材を受けるということは、恐らくこいつもカパーがミノタウロスを倒したという情報を聞きつけてここにやって来たのだろう。
「……」
取材を受けてやっても金は取られないだろう。むしろ記事作成の協力者である俺に金が払われる可能性だってある。
……だが、いつの時代も報道には"嘘"が付きまとう。
俺がここでやすやすと取材を受けたとして、果たしてセルゲイが俺の言葉を何の色付けも無しにそのまま記事にすると言い切れるだろうか?
ましてや出会ってから一分と経っていない状況でこんな話を持ち掛けられている。俺はまだセルゲイのことを何も知らない。
……ここは、俺の生活をより安定させるためにも断っておく方が吉か。
「どうかな? どうかなぁ?」
セルゲイは俺の返答を今か今かと待ち望んでいる様子だ。
ただ、俺に言わせるように威圧的な態度を向けているのではなく、単純に俺から言い出すのを待っているようだ。
記者にしては珍しいタイプかもしれない。
「……悪いが、取材は受けられない。記事にするなら俺以外の奴を当たってくれ」
「……」
セルゲイは一瞬だけ呆気に取られたような顔をしたが、それもすぐに戻る。
「そっかー。……分かったよ、ごめんね、無理なお願いしちゃって!」
そしてセルゲイは俺に手を挙げて「じゃ」と言ってギルドから出て行った。