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第65話 覇者

 シオンは許せなかった。


 チェスターの考えは絶対に打ち砕かねばならない。

 そして子供達を自分が守らなければならない。


 そう決意してシオンはC.C.Cを右手で握り込んだ。

 握った手から光が漏れだす。


 心の中に浮かび上がった聖句は、今までのものとは違っていた。

 ためらう必要はない。


「すべてを討つ『戦力』――」


 左手で腰のベルトバックルのカバーをスライドさせる。


「すべてを弾く『胆力』――」


 カシュン、とバックルが開き、C.C.Cをはめ込む穴が露出する。


「すべてを砕く『体力』――」


 カチリと手の中のC.C.Cをバックルにはめ込む。


 そしてバックルから手をどけたその瞬間、今まで手のひらで包み込まれていた光が周囲に(あらわ)になる。


 時が止まった――。


 観衆も、老マスターも、ファイズも、そしてチェスターまでもがその光を見て呆然と立ち尽くす。


「そしてすべてを制す『火力』――」


 C.C.Cの中には四つ(・・)の光が灯っていた。


「……そ、そんなバカな」


「な、なにが起こっているのです!?」


 誰もがまだ目の前の光景を受け入れられてはいない。


「……(つど)いて我が『覇気(はき)』となれ――」


 C.C.Cの中の四つの光が短い螺旋を描いてから一つに交わっていく。


 光が一つになった瞬間、膨大な力の奔流がシオンを包み込む。


「クラスエボリューション! ……『覇者(はしゃ)』!!」


 ――そしてシオンは覚醒した。






「は、『覇者(はしゃ)』じゃと……!? 四つの力を束ねたクラス……? そ、そんなバカな。……そんなことがあるはずがない。人が持つ適正は誰しもが(・・・・)三つじゃ。四つの適正を持つなどとは聞いたこともない!!」


 老マスターはシオンに釘付けになって興奮している。


「し、シオン。……その姿はいったい――? だ、大丈夫なのか?」


 ファイズも驚いてはいたが、それよりもシオンの身体を案じているようだ。

 それもそのはず。

 今、シオンの身体は可視化された(オーラ)のような光で包まれているのである。


「はい、大丈夫です。心配いりません。ボクもようやく上級クラスへと覚醒できたようですね。……とても気持ちがいいです。今なら誰にも負ける気がしません!」


 シオンはファイズに返答した。


「そ、そうか。……体に異常がないのならば良かった」


 ファイズは呆然と返すしかなかった。


「あ、あ、あり得ない……、なんだその力は……! 私の≪三光力(トリニティフォース)≫より上の力……、≪四光力(クアッドフォース)≫だとでも言うのですか……!?」


 そう言ってチェスターはシオンを睨みつける。


「あなたが人々を虐げるのなら、それはボクのご主人様の望む世界じゃない。……だからボクはあなたを止める。……これはそのための力だ」


「なにを意味の分からないことを! ――この私が世界の中心なのです。この世界の人間は全て私のものだ!!」


「いいえ、それはひどい勘違いです。ボクのご主人様こそがこの世界の次の王になられるのです。……そのために、あなたは邪魔だ。――未来の王の下僕の力を見せてあげるよ。……二度と歯向かう(・・・・・・・)気など起こさない(・・・・・・・・)ようにね(・・・・)


 シオンはチェスターに向かって言う。

 先ほどチェスターに言われたセリフをそのまま返した形だ。


「……いくら≪四光力(クアッド)≫といえども、そのような細い身体では大したステータスではないでしょう! 基礎ステータスで勝り、さらに二十レベルである私の方が強いはずだ!!」


 チェスターの顔に余裕の色が戻る。強気(・・)は彼の本領である。


「そのとおりですわ! チェスター様は間違いなく最強。……ぼさっとしてないで、行きますわよ、あなたたち!」


 チェスターの余裕につられてアリアンナが他のパーティに先駆けて緊張を取り戻し、呆然としていたパーティメンバーに(げき)を飛ばす。


 慌ててC.C.Cを取り出し、他のメンバーが口々にクラスチェンジを始めようとしたその時。



 ――圧倒的なプレッシャーが彼らを襲った。






「なっっっっ……!?」


 言葉にならないほどのプレッシャーにチェスターは身構え、ふんばり続ける。

 まともに前を見ていられない。

 それどころか、目を開けているのも辛い。


 チェスターには体感で何十分にも感じたものの、実際には数秒間であったのであろう。

 その時間を耐えると、スタミナをごっそり持っていかれたのを自覚した。


「くおおおお!!」


 チェスターはようやく少し収まったそのプレッシャーを、丹田に気合を入れて振り払うと、なにが起こったのかと周りを確認する。


 そこにはガクガクと震え膝をつき、涙を流し、股間から湯気を登らせ荒い息をつくアリアンナと、完全に失神しているメンバーの四人の姿があった。


 アリアンナの意識が辛うじて無事だったのは彼女がクラスエボリューションしていたからであろう。


 おそらく彼ら他のメンバーにも、全員とはいかずとも上級クラスになれる者もいたのであろうが、C.C.Cを装着する前にあのプレッシャーに襲われてはひとたまりもなかった。


 ――まずい、手駒が……。


 と、そこでチェスターは、はっとした。

 背中を冷たい汗が伝う。

 無意識にか、そのプレッシャーの出所を見ないようにしていた自分に気づいてしまったのだ。


 敵を目の前にしておきながら、敵から目を逸らしてしまっているなど、あり得ないミスだ。

 弾かれたように前を向く。


 そこにはうっすらと笑みを浮かべた、魔性の美貌を持つ奴隷が立っていた。

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